第3話 世界の混乱
公園での騒ぎから離脱し、自室に戻った俺は、プロテインをシェイカーで振りながらPCのモニターを睨みつけていた。
時刻は10時過ぎ。
世界中でダンジョンが発生してから一時間が経過しようとしていた。
ネット上はお祭り騒ぎ――いや、阿鼻叫喚の地獄絵図だ。
Twitterのトレンドは、一色に染まっている。
#ダンジョン
#緊急事態宣言
#魔法使い
#スライム
#地球終了
タイムラインを流れる画像や動画は、フェイクニュースの類ではない。
ダンジョン内で跳ね回る青いスライム。
海外から発信された、草原のようなダンジョンを歩く小汚いゴブリンの動画。
そして、ゲートに入っていく人々の映像。
中には、手のひらから炎を出してモンスターを威嚇している動画まである。
「……現実逃避してる場合じゃないな」
俺はタブを切り替え、某巨大掲示板を開いた。
こっちはこっちで、別の意味で盛り上がっている。
***
157 :名無しの探索者 :2020/01/01(水) 10:10:12 ID:Xr7sK9s
【速報】アメリカ大統領、緊急声明。「未知の脅威に対し、軍を動員する」とのこと。
核撃つんじゃねえだろうな?
193 :名無しの探索者 :2020/01/01(水) 10:13:15 ID:Bn2m9a0
自衛隊も動いてるっぽいぞ。さっき厚木の基地から戦闘機がバンバン飛んでった。
225 :名無しの探索者 :2020/01/01(水) 10:14:57 ID:Kp5s8d2
そんなことよりお前らジョブ何だった?
ワイ農家、ゲート触ったら【農民】で泣いた。リアルと変わんねーじゃん!
226 :名無しの探索者 :2020/01/01(水) 10:14:59 ID:Tm4k8s1
【悲報】血液型ガチャ、ガチで実装されてる模様
A型・B型・O型:ジョブ機能のみ
AB型:ジョブ機能 & ステータス画面 & 魔力纏い
255 :名無しの探索者 :2020/01/01(水) 10:15:55 ID:Kp5s8d2
>>226
しかもステータス見れるやつら(AB型)、なんか固有スキル一個あるらしいぞ
俺の弟が【視力強化】とかいう微妙なの引いてたわ
280 :名無しの探索者 :2020/01/01(水) 10:16:10 ID:Tm4k8s1
さらに【絶望】Rh-のAB型、魔法が撃てるらしい
海外ニキの動画見たけどゴブリン凍らせてた。リアル青〇ジじゃん。勝ち組すぎて草も生えん。
***
「……すごいやつもいるな」
俺は舌打ち交じりにプロテインを一気に飲み干した。
どうやらステータス閲覧は俺だけ転生特典ではなく、AB型共通の仕様らしい。
さらに気になるのは「魔力纏い」。これは後で試す必要があるな。
Rh-に至っては魔法まで使える。上には上がいるもんだ。
「……まあ、AB型の割合は日本人なら10%くらいだったはずだ。『見える』ことのアドバンテージが消えるわけじゃない」
上位1割に入れているなら御の字だ。
それに、まだ希望はある。
俺は検索窓に、ある単語を打ち込んだ。
検索ワード:『超回復』
……ヒット数、3。
少ない。圧倒的に少ない。
内容を確認してみるが、『回復速度上昇(中)』や『自然治癒アップ』といった程度の報告ばかりだ。
俺が感じたような「常時リジェネ状態のような、一瞬でリセットされる」現象とは、明らかに記述が食い違っている。
「俺のが当たりか? ……もしくは、過小に言っているだけか」
俺は口元を歪める。
賢い奴なら、わざわざ強力なスキルの情報を発信する必要はないはずだ。
だが……心の中では、自分のスキルが特別だったらいいな、くらいの期待はしてしまう。
「さて、優越感に浸ってる暇はないな」
テレビをつけると、NHKのアナウンサーがヘルメットを被って叫んでいる。
世界中が大混乱だ。物流が死ぬのは時間の問題だろう。
政府が緊急事態宣言を出して道路を封鎖する前に、必要な物資を確保しなければならない。
俺はショッピングサイト『Amazon』を開き、カートに放り込んでいく。
一.武器
銃刀法に触れない範囲で、殺傷能力が高いもの。
大型のバール、斧(薪割り用)。
金属バットは……確か親父が持っていたはずだから、それでいいか。
それから機動隊が使うようなポリカーボネート製の防護盾。
日本刀なんて売ってないし、あっても素人には扱えない。工具こそが最強の武器だ。
二.防具
フルプレートメイルなんて売ってるわけがない。
俺が選んだのは、バイク用のプロテクタージャケットと、安全靴。
軽量で動きやすく、転倒時の衝撃に耐えられるなら、ゴブリンの棍棒くらいは防げるはずだ。
三.食料と水
カロリーメイト、冷凍食品、缶詰等の箱買い。水2リットルの段ボール。
物流が止まり、何も無い状況を何日過ごすことになるか分からない。
「……合計、30万円。安いもんだ」
約5000万円の残高からすれば、誤差のような金額だ。
『お急ぎ便』で注文を確定させる。
明日届くかどうかも怪しい賭けだが、やらないよりはマシだ。
そういえば、両親は近所のスーパーへ買い出しに向かったらしい。
米やカップ麺の争奪戦になっているだろうが、まあ、あの母さんなら何かしら戦果を上げて帰ってくるだろう。
「よし。荷物が届くまでは、やれることをやるか」
俺は椅子から立ち上がり、1階のガレージへと向かった。
世界がどうなろうと、俺のやることは変わらない。
準備を整え、利益を出す。それだけだ。
それにしても――。
俺は画面に映る、崩壊していく日常を眺めて呟いた。
「史実とは違うが……楽しくなりそうだ」
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