第6話 新しいお友達?

 ザザッ、ザッ、ザザッザッ、ザッ……青空の下、40人と1人の魔法少女達が不規則な足音を立てながら無人の道路を駆け抜けていく。


 俺達は白い部屋から大型のエレベーターに載せられ上昇したと思ったら、マンションのエントランスロビーのような所で降ろされた。


 久しぶりの眩い陽光に目を細めながら窓の外を見渡した。そこには普通に見慣れた、日本ならよく見るようなごくありふれた地方都市の街並みが広がっていた。


 生活感のある街並みなのに人影はまったく見当たらず、どこか不気味な雰囲気が漂っている。ここが『鏡界』なのだと、否応なく納得させられる景色だった……。


 ザッザッ、ザッ、ザザ、ザッザッ……。


 そして今、俺たちは久しぶりに見る陽光に感動する間もなく、OJTの実地場所へ向けて走らされている。新兵訓練……なのかは分からないが、全員走っての移動だ。


 ランニングなんか高校の体育の授業以来だが、この身体だと意外に悪くない。


 眩しい太陽と青空の下、どこかのどかな地方都市の街並みを見ながらのランニングは思った以上に爽快だ。正直、運動はあまり好きではなかったが、この身体だと走るのが楽しい。どこまででも走って行けそうな気になる。こんな気分は初めてだ。


 何分くらいだろう、時速30キロ以上の速度で走り続けているのに息も切れない。久しぶりに、本当に久しぶりの身体を動かす喜びを感じながら走っていると、銀色の縦ロールをなびかせたエステラが近づいてきた。


「姐さん……あの、こちらの方が、姐さんにご挨拶したいらしいっス……」


 チラリの目を向けると、エステラと一緒に濃赤こきあかのポニーテールにテニスウェア風の衣装をまとった魔法少女が近づいてくる。


「初めまして、わたくしエマと申します。よろしくお願いします」


 並走しつつ、エマと名乗った魔法少女は微笑みながら軽く会釈する。


 如才ない挨拶と人好きのする微笑は好感がもてるが、所詮は魔法少女にされるような人間だ。中身は俺と同じようにまともな人間ではないだろう、油断はならない。


「リリナです。よろしくお願いします」


 チンピラっぽい言動のエステラを相手にする時と違い、真っ当な社会人として妥当と思われる言葉遣いで返答。


「このまま少しお話させていただいてもよろしいですか?」


 外見は快活なスポーツ少女といった感じだが、変らぬ微笑と慇懃な態度はベテランの営業マンを思わせる。初対面としては好感の持てる距離感。


「はい、どういったご用件でしょう?」


「単刀直入に申し上げますと、この後のOJTでは、リリナさんとエステラさんと協力して行動させていただければと考えております。お互いにメリットがあるかと思いますが、いかがでしょうか?」


 確かにバラバラに戦うより、3人で協力した方が生き残る確率は上がるだろう。特に弾薬3発分しか戦えない俺にとっては、渡りに船の提案だ。


 弾薬のことは……言わない方がいいだろうな。お互いメリットがあるから成立する協定で、弾切れになったら捨てられそうな気がする。


「どうして、わたし達に?」


「地下の部屋でのエステラさんとのやり取りや、あの……ライナさんとのやり取りを拝見して、リリナさんとエステラさんなら協力できる相手だと思いまして」


 ライナさんとのやり取りというのは、ツンデレうんぬんのことだろう。ツンデレちゃん言わないだけの常識があるのは評価するが、一方的に値踏みされてるようで少し腹が立つ。


「なるほど。ですが、我々はエマさんのことをよく知らないのですが?」


「それはこれからの行動を見ていただくしかありません。ただ、現状お互いに争う意味はありませんし、防御能力のエステラさんと遠距離攻撃能力のリリナさん、私の短距離での戦闘能力はかなり相性がいいと思うのですよ」


 うろ覚えで正式な名前は忘れてしまったが、たしか片手剣と円楯という魔法具で、攻撃魔法、防御魔法の両方を持っていたはずだ。俺とエステラの能力を考えると悪くない構成のように思える。


「なるほど。他にメンバーに加える予定は?」


「よく分からない連中が増えても統制が取れなくなるだけでしょう。他人のことは言えませんが、魔法少女になるような連中ですから」


 確かに。


 あの白い部屋での態度から、比較的マシそうな俺とエステラに声を掛けたといったところか。こんな状況で話が通じそうな人がいるのは心強い。まあ中身はどうか分からないが……。


「分かりました、協力しましょう。お互い協力した方が生き残る確率が上がるでしょう。エステラはどうする?」


「あ、えっ? オレっスか? オレは姐さんと同じで大丈夫っス!」


 完全に俺に丸投げしてくる。本当にいいのかとも思うが、エステラにとっても悪い話ではないので、まあいいかとスルー。


「それでお互い協力するということで、よろしくお願いいたします」


「こちらこそ、よろしくお願いします」


「よろしくお願いするっス!」


 お互い会釈して挨拶を交わす。日本のサラリーマンっぽくて安心する社交辞令的やり取り。1人やけに元気の良い例外が混じっているが。


「では、これからは戦闘になると思うので、お互い敬称なしでよろしいですか?」


 エマの言う通り社交辞令は不要だろうし、個別識別名自体、自分の名前という感覚がないので、別に呼び捨てにされても不快感はない。


「ああ、そうだな。よろしくエマ、エステラ」


「リリナ、エステラ、こちらこそよろしくお願いします」


「あ、よろしくっス、エマに、姐さん!」


 エステラ、俺は姐さんのままなのかよ。別にいいけど。


「次に、例のエルナとリプリアの件です」


 ですます口調なのは、素の喋り方なのだろう。エマは前方を向いたまま小声で言葉を続ける。リプリアとエルナが突然人が変ったようになった、あの件だろう。


「リプリアの時にライナがとめようとしていた事と、エルナが……静かになる直前のことを考えると、恐らくトリガーは『過去の話』ではないかと思います」


 エマも、俺と同じように、あの二人の豹変は何かのトリガーによって自動的に発動するペナルティだと考えているのだろう。そして、トリガーとなったのは、自分の過去の話をしようとしたした時……だと思う。


「そうだな、俺もそう思う。どこまで許容されるのか分からないから、今後は『過去の話』って呼称で統一しよう」


「了解しました」


 おそらくトリガーは黒い男に魂を抜き取られる以前の話、『過去の話』だ。だが、それだけだとは限らない。『千桜』にとって危険だと判断されるような言動は全てトリガーになる可能性がある。


「トリガーが『過去の話』だけとは限らない。まず『過去の話』は絶対にしない。それと、『千桜』に反抗的な言動はしない。この2つは徹底した方がいいと思う。どうかな?」


「確かにそうですね。『反抗的な言動』が別のトリガーになっている可能性は高いと思います。承知しました」


「なんっスか、それ?」


 のん気そうな声で並走しているエステラが聞いてくる。


「あー、エステラに喧嘩吹っ掛けてきた緑髪のエルナと、自己紹介で最初だったリプリア、2人とも突然様子がおかしくなっただろ?」


「そうっスね……ヤバいクスリやった奴みたいに突然変わったっスね。あれヤバいやつっスよ」


 エステラが眉を顰める。例えがチンピラ過ぎてアレだが。


「ああならないように、今後は『過去の話』をしないことと、『千桜に反抗的な言動』をしないようにしようってことだ。多分それで突然おかしくなることなない、と思う」


「『過去の話』をしないのと、『千桜に反抗的な態度』をとらないっスね。了解っス! 2つなら大丈夫っス! 覚えられるっス!」


 エステラが怜悧に整った顔でアホそうな笑みを浮かべる。ちょっと不安だが、まあ大丈夫だろ……多分。

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