第5話 鏡界とか現界とか、説明はいつもダルい

「はい注目ー!」


 正面に立ったライラがパンと手を叩いた。


「最初に軽く話したけど、次は『千桜』について詳しく説明をします。はーい、拍手ー!」


 ライナの言葉に、今度は一斉にパチパチと拍手を始める。やる気のなさそうなのは仕方がないだろう。嬉しそうに全力で拍手しているのが2人程いるが……。


「フフッ、自分の置かれた状況を正しく理解してくれたようでなによりだわ」


 にこやかに笑うライナと対照的に、少女達は皆ふてくされたような表情を浮かべている。だらしなく脚を開いてパンツが見えてる娘もいるが、勝手に席を立ったり無駄話をするような者はいない。『状況を正しく理解』したのだろう。


「これからあなた達は『千桜』の下で敵と戦ってもらうことになるわ。それで『千桜』の運営について詳しく説明していくわね――」


 ライナの説明によると、『千桜』という組織は『敵』と戦うために魔法少女が作った組織だということだ。黒い男との関係は不明だが、魔法少女が、魔法少女を製造してるいるということだ。


 『千桜』の運営システムは、兵士というよりは傭兵に近い。『千桜』から依頼されるミッションを魔法少女が請け負い、報酬として魔法少女の通貨である『マギト』を受け取るというシステムだ。


「『マギト』は、魔法具の購入や身体のチューンナップまで、様々な用途に使える魔法少女の通貨で魔法少女同士でもやり取りできるの――」


 魔法少女は、『千桜』の運営や魔法少女の維持費として使われる費用を『運営費』として、毎月一定の額の『マギト』を『千桜』へ支払う。これが支払えないと『千桜』から不要と判断され処分・・される……らしい。


 逆に言えば、毎月決められた『マギト』を『千桜』に支払いさえすれば、後は完全に自由に行動していいということだ。


 『千桜』の組織運営のため、貢献度に応じてランク・・・があるらしいが、軍隊的な階級や命令系統はなく、魔法少女の自主性によって運営しているらしい。


 時々、運営からの強制任務もあるらしいが、それも『マギト』を支払えば断ることができるとのことで、自由度は高そうだ。魔法少女自身が作った組織なので、自分たちのモチベーションを維持する工夫なのかもしれない。


「後は……そうね、『千桜』に150億マギト払えば、普通の人間に戻ることも可能って話よ。かなり高額だけど、それを目標に頑張るのもいいんじゃないかしら?」


 本当かどうかは分からないが、魔法少女を辞めることもできるらしい。


 あんな無茶苦茶な契約で魂を集めていたので、死ぬまで戦わされる戦奴のようなモノだと思っていたのだが、ライナの説明を聞く限り思ったより待遇は悪くないようだ。


「次はメタルチョーカーについて説明するわ――」


 今、首に着けてる金属製のチョーカーは、記憶・・にはない物だ。ライナの説明だと、通信機としての機能の他に、魔法少女の位置情報に映像や音声をHQ司令部で把握する機能があるらしい。


 ライナは他にも機能があるようなことを臭わせていた。十中八九、魔法少女の『統制』を取るための機能だろう。


 つまりコレは見た目通り、『千桜』が魔法少女に付けた首輪ということだ。


 さっきのリプリアが豹変した時のライナの反応を見ると、おそらくトリガーとなる行為をすると自動発動して記憶を書き換える……ような仕組みのモノだろう。


 禁止行為を明確に説明しないのは、『統制』を取るために有効な手段だ。何がトリガーとなるか分からなければ少しの反抗もできず、全面的に『千桜』の指示に従わざるをえない。


 管理する側としては、魂を売り払って魔法少女なんかにされるような連中を扱うためには仕方ないだろうとは思う。あまり良い気分ではないが。


「次はマギリングだけど……これはあなた達も知ってると思うけど、重要だから一応説明するわね――」


 メタルチョーカーと違い、マギリングの情報は記憶・・にある。


 マギリングは左腕に装備されたブレスレットで、魔法具と同じように魔法少女ごとにデザインも機能もカスタマイズされた携帯情報端末だ。


 記憶に従ってマギリングに触れると、マギリングの上の中空にウインドウが浮かび上がる。起動者として『所属:千桜』、『個体識別名:リリナ』と表示された後、スマホの画面のようなものが表示された。


「おっ!?」


 記憶として知っていたものの、初めて見る中空に映し出されている映像に思わず声を漏らす。周囲の魔法少女達もそれぞれウインドウを表示させ声を上げている。


「知識としては知ってると思うけど、ちゃんと使いこなせないと魔法少女としての活動に支障をきたすから、実際に動かして使いこなせるようになっておいてね。一応共通機能を説明すると――」


 マギリングはSNSのように『千桜』所属の魔法少女同士の連絡に使用したり、SHOP機能を使ってアイテムを購入したりすることができる。


 特筆すべき点は、個々の魔法少女の特性ごとに、SHOP機能などがカスタマイズされていることだ。魔法少女の特性により、SHOPの品揃えなどが最適化されているらしい。


「使い方は分かってると思うから、詳しいことは後で実際に動かして確認してね。次は、今、私達が居るこの世界の説明をするわね」


 ついに一番知りたかった話題になる。今、俺達が居るこの世界のことや敵に関しての記憶・・はまったくないのだ。


「ここはあなた達が元居た世界、私たちが『現界』って呼んでる世界とはまったく別の世界よ。私たちはこの世界のことを『鏡界』と呼んでるわ」


 ライナの言葉に少女達が何とも言えない呻くような声を上げる。何を言ってるのか理解できてない者と、ある程度予想していた者と半々くらいだろうか。


 俺はというと、死んだのだから『あの世』か『辺獄』あたりに居るんじゃないかと想像していたのだが……本当に別の世界だと聞くと衝撃的ではある。


「っ……?」


 ふと視線を感じると、エステラが助けを求めるような顔で表情で俺を見つめている。そんな風に見られてもなぁ……しょうがない。


 外見美少女のエステラのすがるような視線に負けた俺は、笑顔を浮かべながら大丈夫だと自信ありげに大きく頷いてみせる。


 つまらない小細工だが、頼りになりそうな人間が側に居るというだけで人は安心するものなのだ。


 エステラにも少しは効果があったようで、安心したのか表情を緩め視線をライナへと戻した。


「外に出れば分かるけど、ここの景色や建物、車やバイク、木草やコンビニに並ぶ商品まで現実世界と全く同じに見えるわ。でも、それは見た目だけ。車も自転車だってまともに動かない。コンビニの食べ物も見た目は同じだけど、食べることはできないわ」


 ライナは自分の髪を指先でくるくると玩びながら言葉を続ける。


「電気なんて通ってないはずなのに信号は変わるし、夜になれば街に明りが灯るわ。電車なんか見えないのに、電車が通過する音や踏切の音が聞こえる。現実世界と同じようにね」


 都市伝説とかで迷い込む異世界っぽいな。


「『鏡界』は、そういう変な所なんだけど……そこら辺はおいおい分かるでしょ。重要なのは、鏡界はマナ濃度が高すぎて、居るだけ・・・・で魔力を消耗するってこと」


 刷り込まれた知識では、消費された魔力は一定時間の睡眠で回復する。普通なら魔力を消費したら寝ればいいのだが、『鏡界』では睡眠で回復している最中も魔力が消費され続ける。


「そう、鏡界では眠っても魔力は完全には回復しないの。だから、鏡界に長くいれば、いずれ魔力が尽きる。鏡界で魔力が尽きたら魔法少女でも危険よ」


 『鏡界』は居るだけで危険な場所ってことか。多分、魔法少女じゃなければ居る・・ことさえできないのだろう。


「まあ、そんなに長く戦うことなんてないけど、命に関わることだから忘れないでね。ん-、説明はこんなところかしら……ねえ、アンナ、リレッタはまだなの?」


 ライナが白衣の赤髪に話しかけている。白衣の赤髪はアンナって名前なんだ……リレッタってのは誰だろう?


「どうせまた遅刻でしょう。ライナさんは先に行ってください」


「そうね、ここら辺りなら私だけでも大丈夫かな。リレッタも遅刻するくらいなら請けなきゃいいのに」


「まあ、あの・・リレッタさんですから……」


「あー、リレッタもよくやるわね。仕方ない、私だけで行くわ」


「よろしくお願いします」


「了解! じゃあそういうことで、君達、今からOJTと行ってみましょうねー!」


 どうやら、いきなり実戦に投入されるようだ。


「あ、あの……姐さん、おーじぇいてぃーって何スか?」


 エステラが顔を近づけ小声で聞いてくる。


「あー、実践学習ってことだ。つまり、今から実際に『敵』ってヤツと戦うってことだろうな」


「ま、マジっスか!? 今からっスか!? オレ、喧嘩は、その、ちょっと苦手つーか……それに、こんな身体で喧嘩なんてムリっスよ……」


 『敵』と戦うってのは、喧嘩ってレベルのモノじゃないと思うが……エステラがビビりそうなので黙っておく。


「身体能力は魔力で強化されてるから、多分より強くなってるだろ。断れないんだから死なないように頑張るしかないな」


「そ、そうっスね……」


 エステラが捨てられた子犬みたいな目で見つめてくる。しょうがねーな。


「エステラは防御魔法が使えるだろ。防御魔法だけに専念すればそう簡単には死なないから大丈夫だ。ビビッて戦場から逃げたりしたら『処理』される可能性はあるけどな」


 泣き言を言いだしそうなエステラの言葉にかぶせるように、俺は首輪を指でなぞりながら可能性を告げる。


「しょ、処理っスか……」


 エステラは半泣きの表情を浮かべ、自分を納得させるように何度もうなずく。


 手間暇かけて作った魔法少女を犬死させるようなことはしないだろう……という思惑もあるが、魔法少女なんてモノを創り出すような連中だ。


 育成、運用するコストに見合わない使えないゴミを最初に処分しておこう、などと考えても不思議じゃない。


 非人道的だが、気にする連中じゃないだろうし、そもそも魔法少女は人間じゃない。


「実践、実戦か……」


 実戦となると大きな問題がある。『ヘルマーダー』は魔力を使わず攻撃できるが、当然ながら弾が無ければ撃つことはできない。そして『ヘルマーダー』の弾倉にはたった3発しか装填されていないのだ。


 消費した弾薬は魔法具の効果で24時間後には再装填されるが、24時間は3発撃ったらそれでお終いだ。


 予備の弾倉はマギリングの機能で購入できるが、高すぎて今の保有マギトでは購入できない。死んだ後も金で困るとか、ホント洒落にならない……。


「じゃあそろそろ行きましょうか。はい、みんな立ってー!」


 内心毒づいているとライナが声を上げた。早速OJTとやらに行くらしい。


 さすがに逆らったり文句を言う者はおらず、皆ライナの指示に従いゾンビのようにノロノロと立ち上がる。俺も列に加わりライナの後へと続いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る