第3話 千桜の魔法少女
少女達は一斉に開いたドアへと視線を向ける。
少女達の視線を一身に受ける中、ピンクと白を基調としたアニメの魔法少女のような衣装に、ピンクのゆるふわロングヘアーの、おっとりした雰囲気の少女が入ってくる。
部屋の中の少女達より明らかに背が高く、どことは言わないが発育がいい。俺達が中学生くらいだとすると、高校生くらいの身体つき……だろうか。
ピンクに続いて、もう1人部屋へ入ってくる。先ほどのカプセルの部屋に居た、白衣に赤髪ショートの少女がタブレットを抱えて部屋に入ると、後ろで手でドアを閉める。こちらも俺達よりは背が高いが、どことは言わないがピンクよりは小さい。
部屋の中の少女達の視線を受けながら、ピンクは俺たちの正面中央、白衣はドア近くに立つ。
「みなさん『
ピンクは一度俺達を見渡すと、ニコニコと可愛らしい笑顔を浮かべてそう言った。
人を安心させるような暖かい笑顔だが、勝手に他人を『マギドール』なんぞにする連中だと分かっているので、胡散臭いことこの上ない。
「私は、あなたたちの指導教官のライナよ。よろしくね! は~い、拍手~! 拍手だよ~!」
ニコニコと笑いながらライナと名乗ったピンクは拍手を要求する。これは拍手した方がいいのだろうか……。
「ねえ、あなた達、指導教官の私が拍手って言ってるんだけど?」
ライナはニコニコと愛らしい笑顔のまま俺達を睥睨する。
何かヤバいと思った俺は出来る限りの力で拍手を始めた。
俺の熱烈な拍手に、他の少女達は先ほどのやり取りを思い出したのだろう。すぐに拍手を始め、一瞬で部屋の中はパチパチと拍手の嵐に包まれる。
「は~い、ストップ!」
今度は一言でピタリと少女達の拍手が止む。少女達の性格はどうか知らないが、とりあえず学習能力に問題はないらしい。
「ふふ。いいわね。今期は40ユニットも居るのに、全員理解が早くて助かるわ。自分の立場を理解できない娘が居ると面倒臭いのよねー」
可愛らしくも胡散臭い笑みを張り付けたまま、ライナは1人ずつ俺達の顔を確認するように順番に見つめた後、溜息を1つ吐く。
「私達は『
魔法少女? 外見は完全にアニメとかの魔法少女だけど、マギドールじゃなったか?
「ああ、魔法少女ってのはマギドールに魂が入った状態のことね。
不思議そうな顔をしていたのを見られたのか、ライナが説明をしてくれた。黒い男に売った魂は、この
「マギドールは、魂に蓄積された魔力を使って魔法を発動するの。つまり、魂を入れて魔法少女にならないと、魔法が使えないってこと」
黒い男が魂を集めていたのは、マギドールの魔法動力源として必要だったからってこと、だろうな。
「とにかく、これからあなた達、魔法少女は『千桜』のために戦ってもらいます。命がけの大変な仕事だけど頑張りましょうね!」
つまり、黒い男との契約の対価の
わざわざ魔法少女なんてモノにしてから戦わせるんだ。十中八九まともな相手じゃないだろう。どんなバケモノの相手をさせられるんだか……。
恥も外聞もなく見ず知らずの男に助けを求め、魂を売るようなクズの末路としては妥当なところだろう。乾いた笑いしかでてこないが……。
まあ、黒い男からは十分過ぎる程の報酬を先払いでもらっている。契約は守られるべきという信念の俺としては、せいぜい魔法少女として戦ってやる。
「まず、これは
過去は忘れということだろうか? ライナのやけに真剣な表情と言葉に何か不穏なものを感じる。まあ、昔のことなぞ思い出したくもない俺にとっては渡りに船だ。
他のみんなは興味無さそうにボーっしているが、ライナは皆が理解できたかを確認するかのように一瞥すると間を置いた。
「それでは次に、今あなた達が置かれている状況を確認していきましょうか」
ライナは再びニコニコと胡散臭くも可愛らしい笑顔に戻ると言葉を続ける。
「一番端の、ブルー髪の、えーと……」
「リプリアですね」
赤髪が手に持ったタブレットを確認しながらライナに魔法少女の名前を教える。
「じゃあリプリアさん、立って前に来て」
ライナが名前を呼ぶと、前列の一番端に座っていたライトブルーの髪をショートカットにした女の子が立ち上がった。
ふてくされたような態度でリプリアと呼ばれた少女がライナの前に立つと、白衣の赤髪が部屋の端に置いてあった大きな鏡をリプリアの前に置く。
「えっ、あっ……!?」
周囲の状況から大体予想はしていたのだろうが、改めて変わり果てた自らの姿を見せつけられて驚いたのだろう。鏡の前で自らの顔や身体に手をやり確認している。
「そんな!? 本当にオレ? オレは……」
「っ! リプリア、もういいわ!」
「オレは……お、れ、は…………」
「黙りなさい!!」
突然ライナが大声を張り上げる。リプリアと呼ばれた少女はライナの言葉を無視して頭を掻きむしりながらブツブツと呟いていたが、やがてダラリと両腕を下げ静かになる。
「ああ、まったく! 注意したばかりだっていうのに、ホントにバカな娘ね」
ライナの呟きが静かになった部屋に響いた。
「んっ……と。じゃあリプリアさん、魔法具を召喚してくれるかな?」
自分の呟きが部屋に響いたことに気づいたのか、ライナはさっきとは打って変わった明るいトーンでリプリアに話しかけた。
「ああ……ん……えっ? あっ、はい! あたしの魔道具を召喚します!」
ライナの言葉に、リプリアは先ほどとは打って変わって嬉しそうな表情を浮かべ、元気よく応えた。リプリアは目を瞑り両手を広げるような恰好をしながら何か呪文のような言葉を呟く。
この身体には、マギドールの基本的な知識が記憶されている。リプリアもそうなのだろう、スラスラと呪文を唱えると……眩い光が溢れる。
「我が盟友にして万物を穿つ風の魔槍よ、静かなる大気の帳を割きて我が求めに応え顕現せよ……エアロード!」
リプリアの呪文詠唱が終わると、魔法の発動光と共に一本の槍が現れた!
何だよアレ、凄げぇ! 知識で知っているのと、目の当たりにするのとは全く違う。身体に刷り込まれた知識はあったが、初めて目にした魔法の信じられない奇跡に周囲の魔法少女達も無言で目を見開き呆然としている。
『凄い! 本物の魔法だ!』という、他の少女達の反応とは違う、いささか場違いな呟きが聞こえ視線を向ける。
口調や声のトーンが違い過ぎていて気付かなかったが、さっきエステラにチンピラのように絡んできた緑髪だった。興味深々といった態度で身体を乗り出し、キラキラとした瞳でリプリアを見つめる様子は本物の純真な少女のように見える。
「あっ、あの、ごめんなさい。つい、はしゃいでしまって……」
俺の怪訝な視線に気づいたのか、緑髪はオドオドしながらペコリと頭を下げる。
「別にいいけど……」
もう一度、俺に頭を下げると、緑髪は再び興味津々といった態度でリプリアへと視線を戻した。さっきエステラに突っかかっていたチンピラと同じ人物とは思えないような態度に、さっきのリプリアの豹変を重ね、背筋が震える。
「あら、素敵な槍ね」
「はい! 風の魔槍、エアロードです! 風の攻撃魔法に、風の防壁を作る防御魔法、風を使っての高速移動の魔法が使えます!」
ライナの問いに、奇麗に装飾された槍を手に持ったリプリアが得意気に答える。さっきのふてくされた態度とは違い、こちらも本物の純真な少女のような態度。
「はい、ありがとう。もう送喚していいわよ」
「はい!」
リプリアは元気よく返事を返すと呪文を唱えて手に持った槍を軽く振る。すると槍はスっと虚空に消えていった。
「ご苦労様、戻っていいわ」
「はい、ありがとうごさいました!」
リプリアはライナに呼ばれた時のふてくされたような態度とはまったく違う、元気溌剌といった様子で自分の椅子へと戻っていく。
リプリアも緑髪も、同じ人間とは思えないほどの豹変。どう考えても異常だ。連中に何かされたのか? ライナが注意したのにって言ってたな。自己責任ってコレのことか?
「姐さん、あれって……」
「ああ、何かヤバそうだな……」
リプリアの様子にエステラも不穏なものを感じたのだろう。不安そうな表情を浮かべ、縋るように見つめてくる。周囲の少女達も異常に気付いたのか、キョロキョロと周囲を窺っている。
「じゃあ次は、隣の娘……えーと、レイヤさん、こっちに来て」
混乱している少女達を尻目にライナが声を上げた。レイヤと呼ばれたリプリアの隣りに座っていたオレンジ色の髪の少女は立ち上がったものの、怯えたように腰が引けている。
「レイヤさん!」
「は、はひぃ!」
少し強く呼ばれ、レイヤと呼ばれた少女は裏返った声で返事をする。弱者ほど危険に対して鼻が利く。リプリアの異常な様子に何かしらの危険の臭いを感じ取ったのだろう。
「ライナさん、すいません。レイ『ヤ』ではなく、レイ『ア』ですね」
「あら、ごめんなさい」
赤髪の訂正の言葉に、ライナは照れたようにピンクの髪を指先で玩ぶ。
「んんっ……ではレイアさん、こっちに来て」
「はい……」
覚悟を決めたような悲痛な面持ちでレイアと呼ばれた少女は鏡の前へと立った。
レイアは先程のリプリアのように驚く素振りも見せず、強張った表情のまま鏡の中の自分の姿を見つめる。
「可愛いわね。どう、レイアもそう思うでしょう?」
ライナは鏡の前に立ちつくすレイアの肩へ手を乗せると、鏡の中の強張った表情で立ち尽くしているレイアへ笑いかける。
「は、はい……」
「ふふ、じゃあ次は魔法具を召喚してもらいましょうか」
ライナの表情にレイアはギョっとした表情を浮かべる。
「大丈夫よ、私の言う通りにしていれば大丈夫だから……さあ、やりなさい」
ライナはそう囁くと、ニコリと微笑んでからレイアと距離を取った。
「っ……」
ヤケクソといった感じでレイアはリプリアとは違うポーズを取ると何か呟く。するとリプリアの時のように眩い魔法発動光と共に可愛らしいステッキがレイアの前に現れた。
「あら、可愛らしいステッキね。魔法少女らしい魔法具じゃない。説明をお願いね」
ライナの言葉にレイアは少しホッとした表情を浮かべながらステッキを掴む。だがすぐにライナの視線に気づき、緊張した面持ちで魔法具の説明を始める。
「ほ、炎の魔法杖、マジカルロッド……です。炎の弾を打ち出す魔法と、炎を爆発させる魔法……です……あと、炎の壁で防御する魔法……です……」
「強そうで、いいじゃない! 戦力になりそうだから頑張ってね。じゃあ魔法具は送喚していいわ」
レイアが杖を両手で握りしめると、スっと消える。不可思議だが、マギドールの魔法具はそういうモノなのだど俺の中にある記憶が教えてくれる。
「ご苦労様、戻っていいわ」
「は、はい……」
明らかにホっとした表情。何の異常もなく乗り切っことに対してだろう。
リプリアに
結局そのあと何人もの少女が同じように鏡で自分の姿を確認させられた後、魔法具の能力と自身の説明させられたが、緑髪……もといエルナ(と呼ばれてた)とリプリアのような異常が起きた者はいなかった。
エルナの時は魔法少女にされたことが嬉しくて堪らないといった様子ではしゃいでおり、他の緊張した少女達との温度差が際立っていた。
ちなみにエルナの魔法具はアイビーロッド、攻防バランスの良い植物系のマギドールで、真面目で優等生という委員長キャラにピッタリのものだった。
そして俺の隣りに座っていたエステラもなんとかライナの尋問(?)をこなし戻ってくる。
呼ばれる前は、不安そうな顔でチラチラと俺の方を見てくるから適当にウンヌンと頷いてやったのだが、どうやらそれで落ち着いたらしく、自分の姿を見ても動じることなく『っス』を連発しながら、無事自己紹介を終えたのだった。
エステラの見た目から、女王様っぽい感じの魔法具(鞭とか)を想像していたのだが、スパイク付の大盾の魔法具と防御魔法がメインらしい。
ライナは『タンクとして申し分ないわね。パーティーで人気になりそう』とか言っていた。RPGのようにパーティーを組んで戦うのだろうか?
「次は……リリナさんね。こっちに来て」
俺の番だ。刷り込まれた記憶としてマギドールとしての知識はあるが、実際に魔法が使えるのか分からないし、できる自信もない。だがやるしかない。俺は椅子から立ち上がった。
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