第7話 禁忌の力『冥約』
焦って周りを見回す。だめだどこにも居ない。
マリーは目線をグルグル動かしている。追えているのか?
「……!!」
後ろから大きく影が伸びる。
振り向いた瞬間にはもう槍が加速を始めていた。心臓を一突き。
その一瞬前だった。マリーが急加速。靴に仕掛けがあるようだ。立ち尽くす俺を吹き飛ばすも、マリーの防御は間に合わない。槍はマリーの左脇腹を貫通した。
ラキィは攻撃する前、あえて減速することでマリーを誘い出したように見えた。
「珍しい靴ね。どこのブランドかしら?」
「気に入って貰えたなら何よりだよ……。でも非売品なんだ。死ぬ前に見られてラッキーだったね。」
マリーの袖から先程と同じナイフが飛び出す。ラキィが焦って回避しようとするも、槍がガッチリ固定されていて反応が一瞬遅れる。手でナイフを防御しようとするも、それは手ごと心臓を穿った。
「ぐっ……でも狙い通り。やっぱり油断しすぎだよ。」
どうやらマリーはラキィの罠を見抜き、その上で乗ったらしい。
自分のダメージを前提とした戦略。あれだけの速度を出せば当たりどころの調整などできない。もちろん急所にあたる可能性もあっただろう。戦闘には命がかかるとはいえ、卓越した覚悟がないとできない芸当だ。
騎士が鬼の形相に変わり、マリーの首を掴む。
「何勝った気になっているの?ええ……油断したのは認めましょう。でも、頭を狙わなかったのもあなたの落ち度……!!稀に心臓が右にある人も居るみたいだけど、考慮していなかったのかしらッ!!」
マリーの足が宙に浮き始める。俺も同時に走り始めた。
「では宣言通り、面倒くさそうな方から処理させていただきましょうか。」
俺はラキィの右手に掴みかかったのだがビクともしない。マリーも必死でもがいている。
「うふふ……それで本気かしら?まだ強化魔法は使ってなくてよ?」
おいどうした。まだ3分も稼げてない。神が言ってた不思議な力はどうなった。俺は結局ヒーローにはなれないのか?悔しくて涙が出てくる。頼むから何とかなれよ!
「――落ち着いて。力の流れを感じるの。」
知らない少女の声だ。瞬きすると光景が大きく変わった。
星空がどこまでも続いている。1歩進むと足下から波紋が発生した。地面は1ミリもないほど薄い水の膜で覆われているらしい。周りを見渡すも、誰も居ない。
「――君だけ……特別だからね。」
しかし不思議な声だけは近くで聞こえる。もう一度瞬きすると元の状況に戻った。
「マリー……!!」
力が大きく増す。不思議だ、強化魔法の比じゃない。コイツにだって勝てる気がする。本能が思うまま右手に力を込めると同時に、俺の体から熱が湧き上がってきた。まるで燃え上がっているように……いや、実際に燃えているのだろうか。
ビリビリとした激痛を感じて、右手に目をやると、なぜか皮膚が焦げていくのが見える。蒸気すら上がってきた。止まったはずの鼻血がタラタラと流れ出してくる。
ラキィの注意がようやくこちらに向く。手を振り払おうとするが、俺が離さない。カゲロウ現象のように空気を揺らす程温度が高まると、とうとう本当に体が燃え始めた。
ラキィはマリーを投げ飛ばし、俺を振り払うことに意識を向けた。不思議と握る力が強まっていく。鎧を歪めるほどだ。体から虹色のオーラが出てくる。
「なに……いや、この力……!!」
「冥約の力だ……詠唱もしてないのに…………。」
炎がより一層強くなり、魔力のガードとやらも溶かして本体にダメージが入り始める。こいつも俺も確実に焼けていくのが分かった。だがスピード的には俺の方が若干焦げるのが早い。
なら、なるべくこいつにダメージを与えておかなければ。
より握る力が強まると、今度は鎧に加えて本体の方を握っている感触が出てきた。
もっと強まる。骨を折ったのだろうか。変な方向に曲がり始めた。ラキィが焦り混じりの怒号を発した。
「どけェ!貴様ッ!!」
「ハハハハ……!!口調変わってるじゃん?余裕なくなっちゃったか?」
ついつい余裕そうな態度から一変してしまったので、気分の高揚もあり煽ってしまった。ラキィの皮膚が溶け始める。声ももうカラカラだ。もうちょっとだけ、あと少しでこいつを殺せる。
殺す……殺す?
俺が人間のように意思がある生物を?
それはあってはならない。母さんはそんな事しないだろう。
変な思考が混じった。火力と腕力に綻びが生まれる。
それに気づいたのか、ラキィは俺の事を思い切り蹴飛ばしてきた。間違いなく骨が何本も折れた。腕もさらに大きく裂けた。大きく吹き飛んだが、もう一度やってやる。
だが気持ちに体はついてこなかった。
「ウ、ガァッ……!!」
火が消えない。俺だけ燃えている。
「ハァハァ……闘争の間中に考え事とは愚か…………クッ、この状態で活動するのは厳しい。お見事、お前達を殺したら撤退する……!」
「マてよ゛ァ……!」
喉が焼けた。もう声らしい声も出せない。マリーがポーチの中をガサゴソと漁り始めた。だが直ぐに諦めたような表情に変わる。もう打つ手なんて無いのだろう。俺ももうここまでやったなら満足だ。
――ザッザッ。
誰かが俺の後ろから近づいてくる。
……皮膚の温度が急激に下がった。どうやら水をかけられているらしい。火が完全に鎮火される。
「頑張ったじゃん。後は任せて。」
聞き覚えのある声。聞き覚えのある駆動音。
「なんだ……そっちは終わったんだ。」
「おう、一瞬よ一瞬。マリーも無事みたいで。」
ラキィが明らかに動揺している。俺が予想外の力を発揮したときとは比べ物にならない程だ。
「……マティアス!?バカな……バカなバカな!!あれだけの囮を用意したのに!!どうやってそれだけ早く片付けたッ!!」
「イツキが心配だったんでちょっと急いだんだよ。お前みたいなのを殺さないようにするの、本来なら絶対に嫌なんだけど。まぁ、色々聞き出さないといけないからね。」
マティアスが前方に手を構えると、空間に切れ目が発生した。まるで宇宙空間のようなそれは周りの空気、光すらも吸い込んでいるらしい。周りが少し暗くなって、その切れ目が発光していることが分かる。そしてゆっくり姿を露わにしていく彼の得物。
体長を超える大きな斧。軽々しく振り回して地面に叩きつけた。
「覚悟しろ。カス野郎。」
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