第6話 魔道具士
「……自分が思うベストは常に尽くしておきたい。何よりこんな奴、ただじゃ帰しておけない!」
転生者は呟いた。いや、主語が大きいな。こんな転生者なんて1000人いて1人いない。どんな世界から来たやつだって、この状況になれば分かる。この騎士にはどう足掻いても勝つことは出来ない。
しかし、この言葉は私への当てつけだろうか。柴又は私がマティアスから最低限信頼されているのを知っているはず。この逃げている群衆の中でなら私だって『やれる側』の人間なのだ。
悔しい。魔王を倒すと言っていたのは強がりなのか。本当はできないと内側の自分は決めつけているのか。
柴又だって最初は逃げてた。こいつの危なさはよく理解しているはず。何故立ち向かう?
――こんな何も知らない奴に遅れは取りたくない。そして最後の質問をする。
「ここで犠牲になった命も、いつかきっと報われる日が来るから、ここは逃げよう。」
怖い、胃が逆流しそうだ。死にたくない。だが、柴又から出た答えからはそんな弱音は一切聞こえなかった。なら私も腹を括ってやる。君には負けない。
マリーがポーチから銃を取り出した。よく目を凝らして観察する。
映画で見たことがある。確かP226とかいう銃だ。おそらくこれにも何か仕掛けがある。
「来るよ!!」
急ぎ強化魔法を使った。心臓の鼓動が早くなる。頭が冴えてきて周りの時間が遅くなったように感じる。
そしてラキィ。槍を背中から取り出しこちらへ向ける。
「こんにちは。ひどい隈ね?ちゃんと寝ないとだめよ。こうやって首を落とされそうになっても気付けないから。」
「柴又後ろだ!!」
「……!!」
マリーが素早く照準を合わせて発砲する。金属の擦れるような音が何度も聞こえた。しかしラキィは微笑むのみでダメージがない。まさか高速で向かってくる銃弾を捉えて槍で弾いたとでもいうのか?強化魔法がかかっている俺でも全く見えなかった。
「装填する!」
「見たことない武器ね。魔道具かしら?」
「魔法が使えないなりの戦法があるってこと。魔法を腕と例えたらこれは義手!!」
「面倒くさそうね、先に処理しましょうか。」
俺は軽く膝を曲げる。マリーは装填中だ。おそらくあと3秒はかかる。常人にとっては一瞬でも、こいつが距離を詰めるのに十分過ぎる時間。強化魔法による反応速度の上昇がないマリーは即死だろう。
「うわあああああ!!」
一気に飛びつく。格好悪いが必死で足にしがみついた。俺たちはマティアスが来るまでの時間稼ぎで戦っている。つまり、今すべきは倒すための動きではなく止めるための動き。
俺はワニのデスロールのように体を捻り、少しでもバランスを崩そうとした。マリーは少しでも距離を離そうと後ろへ走りだしている。
「邪魔なのでどけて下さいませんか?」
「絶対に嫌だ……!」
はぁ……と溜息を吐くと、俺の腕にめがけて大きく槍を振り下ろした。大きく血飛沫が舞って一瞬視界がなくなる。次の瞬間、見えたのは完全に切断された俺の左手と切れ込みが入った右手だった。
人生で初めて死んだときの次に強い痛み。が、叫んでる場合でもない。物凄いうめき声をあげながらも、腱が切れたのか第一関節が曲がらない右手で喰らいつく。右手に全力を注いでいると、体温が上がっていくのを感じる。
今まで出したことがないほどの力が出ている。離れない俺を見てもう一撃加えるのも面倒くさくなったのか、ラキィは俺に構わず体を前に加速させた。
地面が岩で舗装されてはいたが、やはり岩は岩。凸凹に頭が何度も叩きつけられて意識が飛びそうになる。鼻血が壊れた蛇口の様に吹き出してくる。砂すら研磨剤のようになり肉を削った。
ラキィは俺が掴みかかっている為かさっきよりも動きが鈍い。
「ありがとう柴又……!」
装填を終えたマリーがまた発砲を始める。
「あんな口を叩いていたのにいまいち芸がないですわね?」
またも槍で銃弾を弾いた。槍の残像が残る。
間髪入れずに15発目の弾丸が放たれた。
それに合わせてラキィが槍を構えて、前方に向かって振る。
しかし今度は鉄が擦れる音は聞こえず、ラキィの頭が大きく後ろに仰け反った。
「ようやく当たった。」
「…………は?」
マリーがニヤリと笑みを浮かべる。どうやら放った弾丸が頭に命中したようだ。ラキィが額を抑えつつ、ゆっくりと二歩後退りする。それにしても一体どうやって?ラキィ自身も弾く自信があったから真正面から挑んだはずだ。
「私は魔道具師。私の使う道具は全て異世界の物で特殊な能力が付与されている。この武器は一発当たると2%対象の時間を遅くする魔道具。2発当たったら4%、3発当たったら6%。アンタにはもう30発当てている。弾くんじゃなくて回避するのか正解だったね。」
ラキィが下を向いて頭を触る。どうやら兜面を上げていたためモロに当たってしまったらしい。血がポタポタと垂れてきた。足元からは顔が見えないのでどうなっているか分からない。
マリーはポーチからシースナイフを取り出すと、大きく間合いを詰める。
「……!!」
マリーの表情がガラリと変わる。
ラキィがガラクタのように足を動かし、距離を取りながら正面に向かい合う。
確かに当たったような痕はあった。しかしその痕が溶けたように元に戻っていく。痛そうな仕草をしながらこちらを睨みつけてきた。
「今確かに頭に当たったはず……何故ダメージがないんですか!?」
「魔法使いは魔力の装甲でガードしてるから、弾丸が頭に当たっても死なないのは分かる。でも当たった後のそれは治癒魔法でもなければ魔族の特性でもない。」
「あー……あーあー……2倍の速度で話してみてるけど……ちゃんと聞こえてるかしら?」
唖然としている俺達をよそに話を続ける。
「あなたが噂の魔道具師ね?魔法が使えないとは知らなかったけど……本当によくやるわね。あなたの相方はどこなの?居ないなら居ないでありがたいけれど。」
相方、マティアスのことか。現時点で俺は既にかなりの消耗をしている。まだマティアスが来ないならば、マリーがほぼ1人で戦わなければならない。
その状況を1番理解しているのは彼女自身のようで、マリーは汗を拭いつつ返答する。
「今君の仲間たちをボコボコにしてるところ。もう八方塞りなんだから大人しく降参するのがオススメだよ。」
「そう……まんまと引っかかってくれたわけね。」
マリーがナイフを投げつける。
「もう油断はしないわ。鈍化したとしても、魔法も使えない人間が投げたナイフ程度、造作なく躱せる。」
ラキィが軽く身体を傾ける。ナイフは当たることなく地面に深く突き刺さった。
「随分切れるナイフね。刃先の圧力が増加する能力かしら?」
マリーが再び銃を構える。
お互いが相手の動きを待っている。一切途切れることのない集中、時が止まっているようにすら感じた。
――ラキィが素早く液体の入った瓶を取り出した。
パリン。
9x19mmパラベラム弾が瓶を貫き、中の液体が鎧を濡らした。
その瞬間なぜかラキィの口角があがる。
右手に視線を移し、握ったり開いたりを繰り返す。
そしてこのタイミングで準備体操まで始めた。
「お前……何やってるんだ?」
まただ、またこの空気感。殺意が重みを持ってのしかかってくる。
今、起こってはいけない何かが起きている。
「いきなり速度が2倍になったら自分の速さに驚いちゃうかもしれないでしょ?動きが鈍くなってたのは最初の攻撃から勿論気づいてたわ。でも頑張って私を遅くして勝ちを確信したとき、それが戻ってしまったら、トッッッテモ!!……絶望すると思わない?だからあえて放置してたの。」
今はもうハリボテのような笑みではない。どちらかというと酔っているような、どこか恍惚としているような不気味な笑み。どういうことだ?鋭く嫌な予感が走ると同時に、マリーの顔が青ざめる。
「まずい……。あれは聖水だ!!時間の鈍化が解けてる!!」
「な……。」
既にラキィの姿は消えていた。
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