第3話 少女M
「うおおおおおお!!」
この国の中心部へ向かうために絶賛強化魔法で疾走中だが速い!もう5分くらい走りっぱなしだが疲れも少ないので原付程度なら不要なレベルだ。でも魔獣と戦闘していた時よりはあきらかに遅い。あの時は峠の下りならギリ負け無しみたいな速さだった。
「思ったより遅くてびっくりしてる?」
「まあ……はい。あのときは高揚して速く見えただけで割と遅かった?」
俺は一応この世界の冒険者を殺すほどの魔獣とやりあったはずだが如何せんそれが出来るほどの劇的な変化を今は感じない。
「あの時は俺も強化魔法使って補助かけてたからね。元の4倍、だいたい400%強化ってとこかな。それで勝てただけ。本来の実力通りならボコボコだったんじゃないかな。魔獣をスパスパ切ってたのもあの剣が凄いだけだしね。」
「……俺が強かったわけではないんですか?」
「自分に才能があるとでも思ってたの?魔獣1匹程度倒せて当然の世界だからね。冒険者の死因の5割は『魔族』だ。魔獣とは違う。」
心に言葉が刺さるのが明確に分かった。悪意が無い言葉で味わったのは久しぶりなので防御が間に合わなかった。
あれを倒せて当然?2匹いたらあの状態でも間違いなく殺されていたのだが。
「俺がお前に強化をかけてたとしても魔物の中でも人間に近しい魔族なんかと戦ったら瞬殺だ。その魔族の中でも訓練を受けている魔王軍なんてのもいる。自惚れちゃダメだよ。ちなみに今はその状態よりも圧倒的に低い150%強化ってとこ。」
正直あの瞬間は自分が世界最強になったんだと確信していたのでとても恥ずかしい。この世界では世間知らずなんだからもっと謙虚になろう。
「そろそろ強化魔法を解除しようか。体にも全く負担が無いわけじゃないからね。」
うっ……またこの感覚だ。気持ち悪い……一旦腰を下ろして深呼吸。数分休憩して歩き出し、体の回復が終わったらまた強化魔法で進む。この繰り返しで時短する作戦のようだ。
「国の中心部に向かっている理由はお前の住める場所を探すためだ。」
「いやいや駄目ですから。早く魔王とやらを倒しに行かないと。できるだけ早く帰りたいんです。」
「……帰る手段?魔王についても知っている?誰から聞いたんだよそんなこと。」
「ん?神様が言ってましたよ。魔王を倒せたら帰してやらんこともないって。」
「神様?帰れる手段があるって?……まあいいや後で聞く。」
何か変なことを言っただろうか?甲冑が一瞬考え込んでいた。
また強化魔法をかけて移動を開始した。
それを繰り返して6回目だろうか?いきなり自分に射していた太陽光が薄くなったので正面へと視線を移すと、木々の隙間から石の塊のようなものが見えた。
「さあついたよ。ジパランだ。」
森を抜けるまでは木に隠れていて気づけなかった。いきなり暗くなったのは、首都を囲んでいるであろう砦が俺とマティアスに大きな影を落としていたのだ。まるで自然を描いたキャンバスの上を、灰色で大きく塗りつぶしたような、違和感ともいえる圧迫感がある。
壁に近づく度に気圧されそうになる。砦には大きな扉が着いているのだが、その左前隅の、砦に比べると鼠にも見える石造りのプレハブのような建物に門番が入っていた。
「こんにちは、マティアス様ですか!通行証を拝見致します。」
甲冑の隙間から小さな封筒のようなものが出てきた。変な場所に入れていたせいで少し紙が曲がってしまっている。腰に十分な大きさの巾着が着いているのだが……。
「では後ろの方も。」
「その必要はない。こいつは今転生したばかりだからね。」
「……そうですか。ではそちらの方。持ち物を1つお借りしてもよろしいでしょうか?」
言われたままに財布を取り出してみる。
「では検査にかけますので少々お待ちください。」
そう言いながら奥の方に篭ってしまった。何やら棚からガサゴソと瓶に入れられた薬品のようなものをいくつも取り出している。
「なんでいま財布持ってかれたんですか?」
「転生者かどうか検査してるね。通行証がないと首都には入れないけど、転生して1ヶ月くらいの人達はまだ前の世界の痕跡が残ってるから通ることが出来る。転生者は首都の設備がないと何も始まらないからね。」
検査を待っている間に、今まで先送りにしていた思考にようやく追いつくことができたのでまとめてみよう。
この異世界について。盗賊団、武器、魔法、現代日本ではありえなかったものだ。兵士や城壁の雰囲気から文明レベルは中世のヨーロッパといったところだろうか。
神様。本人はそう名乗っていたが真偽は不明だ。マティアスも神との接触を不思議がっていたように感じる。この魔法の世界でも神様というのは珍しい存在なのだろうか。
転生。確かに異世界への転生を元の世界で観測することは出来ないだろう。実は観測できないだけで、死んだ人が別世界に行くことはメジャーな出来事なのかもしれない。それにしても転生というのは別の何かに生まれ変わるものだと思うのだが俺は姿が変わっていない。これについてマティアスは珍しがっていたのだろうか。なんにせよ別に転生者がいるというのなら確認してみたい事項だ。
「検査が終了致しました。ようこそジパランへ、転生者様。ご案内は必要でしょうか?」
「いや、俺が代わりにやっとくよ。」
「ではマティアス様にお任せしますね。」
細い光が俺の体に突き刺さった。2階建ての家よりも大きそうな扉がゴロゴロと音を立てて開き始めている。一体この町にはどんな冒険が待ち受けているのだろうか。
扉の動く音が止まり、足を進める。
――中世の町だ。レンガ造りの建物がところ狭しと並び、ずっと奥まで続いている石で整備された広い道は歩道と車道の区別が無く、馬車は人間をかき分けながら進む。
人々は童話の世界のような服装だ。テントのようなものが道に突き出て、果物やら魚やらが入った籠に謎の文字が書かれている。
大通り全てが市場のようになっているのだ。怒号とも聞き紛う商人の売声が空間を確かに揺らす。
昔やったRPGを思い出して涙が出そうになった。
歩いていると並んだ商品がよく見える。羽が生えた魚……?そこの店主がりんごのような果物を切っている。
すると赤い液体が流れてきて、踏み潰された小動物のような悲鳴が聞こえた。
変な顔になっている俺を見て、店主はその植物か動物かも分からない何かを1切れ差し出してきた。ついつい貰ってしまったが食えるワケがない。誰も見ていないところでそっと捨てた。
あと気づいたことといえば、この世界の人々はハーフのような顔立ちであることくらいか。
「この世界で最も栄えている都市の1つだよ。さて、こっからちょっと歩いた先のカフェで待ち合わせしているんだ。」
「カフェ……?この中世の町に?まあ異世界だからな……気にしたら負けか。」
大通りから外れて傾斜がキツい小路になった。なんだかちょくちょく視線を感じる。
俺の服装が珍しいから?それとも隣のヘンテコな甲冑?どちらに注目が集まっているのだろうか。
「なんか俺達注目の的じゃないですか?」
「イツキはこの世界からすれば変な服装だしな、でもこの国は転生者がやってくる周期が最も短い。この町にやってくるのは10年に1回くらいだ。そのせいで色々面倒くさいことがあるんだけどな。例えばこの首都以外既に滅んでたり。」
「え?」
さらっと衝撃の事実を告げてくるな。
つまりジパランは実質的にガラハジア王国と同義ということになる。
魔族側は面倒臭いものが産まれる前に潰しておきたいのだろう。当然と言えば当然だ。
「お、来たな怪人め。」
怪人?マティアスの視線の先には子ども達の群れが……。
「「「わぁー!うさぎマンだ!こんにちは!」」」
怪人達に一瞬で囲まれてしまった。このヘンテコ甲冑がヒーローのように見えるのか、子ども達に人気らしい。マティアスも笑顔?か分からないが、楽しそうに応えている。非常に微笑ましい様子だ。
「マット!ここ!ここ!」
声が聞こえてきた。マティアスが手を振っている。坂の上に同じく子ども達に囲まれながら手を振り返す人影が見えた。
俺と同い年くらいの女の子だ。濃紺髪のセミショートで、ピンク目がこちらを覗いてくる。表情は凛々しく、立ち姿や仕草からもクールな印象を受ける。顔立ちはやはりハーフに近く、異世界人はこれがデフォルトなのだろう。
だが異世界人にしては1つ不思議な点があった。それは現代日本で見る服装であったことだ。
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