第2話 魔法使い
「それじゃあチュートリアルを始めようか。」
その声にハッとして野蛮人の方へと目が動いた。困惑している様子だが、奴らの手に持った武器は構え直されている。甲冑も斧と槍が合体したような、身の丈もある大きさの武器を取り出した。
――今どこから取り出したのだろうか?あんなに大きな物は持っていなかったはずだ。空間からいきなり出したとでもいうのか。
「とりあえず手前のやつからいくよ。」
甲冑が斧を構えながら言った。30人は居るのにまさか戦う気なのだろうか。というかいくぞ?俺に共闘を申し込んでいるということか?俺の場合は殴り合いではない。刺されて死ぬのがオチだ。
「アンタが誰か知らないけれど、俺戦えませんから。それじゃ。」
逃げなくてはと後ろを向いたが既に囲まれていた。絶体絶命である。もう唯一の希望である甲冑に抱きつくしかない。目で訴えかける。この状況を何とかしてください。
苦しんで死ぬのは怖いんだぞ。
「戦えない……?もうそんなこと言ってられる状況じゃないのは分かるはず。今戦えるようになって。」
甲冑が俺の腕を振り払った後、顔をグッと近づけて言った。
一瞬耳を疑った。色々疑問はあるが、明らかに助けに来た感じだったじゃないか。
「どう考えても無理だろ……まず人数が違いすぎる。」
「じゃあまずは強化魔法からだね。」
全然話聞いてない。戦うしかない状況なのは分かるが、装備的に俺は守ってもらう立場に見える。
それにキョウカマホウ?これに関しては本当に何を言っているんだ。
「よそ見してんじゃねぇよ!!」
一番手前の奴が斬りかかってきた。
速い。人間が出せる速度ではない。
ゴコォォッ!!
いきなり鈍い音がした。甲冑がやられてしまったのか。
「アア、ゥ……」
吹き飛んでいたのは野蛮人の方だった。鼻が曲がって血がドバドバ出ている。歯も数本折れたのではないだろうか。
甲冑は腕を横に力こぶを作るような形に掲げていた。裏拳で吹き飛ばしたのか?全く見えなかった。
「抑えすぎたか。殺したと思ったんだが。」
それを見て1人の野蛮人がニヤケながら前に出てきた。赤いローブを着た、髭が印象的なオヤジである。アニメで見たようなデカい杖を携えている。
「アンタ相当強いな?どいてろ、俺がやる。」
「やめろ……!お前が出る幕じゃねぇよ!!どけッ!!」
「一撃でボロボロになっているカスの癖によく言う。お前がそうなるほどヤツは強い。俺にしか殺れない。」
マントが杖を取り出して何やら呪文のような何かを唱え始めた。周囲の野蛮人達もザワザワし始めた。
「大地の深淵より、鉄の如く。我が意思に応えよ。強靭な真槍の如く、土よ、難敵を穿て。」
「穿孔機フィンさんの魔法だ!!ウオオオオオオ!!」
野蛮人達が大袈裟に騒ぎ立てる。マントの男の周りには、その実力が確かであることを示すように、大袈裟な砂埃が舞い始めた。そしてブラックホールに吸い込まれたかのように1箇所に集中し、ライフルの銃弾のような形に圧縮される。
「私の後ろにいろ。」
甲冑の言うままに大きく後退した。
斧や剣とは次元が違うのは見ただけで分かる。
「マルチサンドキャノン!!」
砂の凝縮が止まり、爆発音がした後に衝撃波が走った。恐らく音よりも速い弾丸が甲冑に容赦なく突き刺さる。
まるで何千何万もの風船が同時に破裂したような音がして辺りは砂にまみれている。
「まだ終わっていないぞ!!」
また周囲の砂埃が圧縮され、今度は何十個も生成される。先程の地獄のような光景が何回も繰り返された。俺には一撃も当たっていないが、今俺の盾になっている甲冑は間違いなくタダでは済んでいないだろう。
次の攻撃対象は俺だろうか。体が跡形も無くなるのは想像に難くない。
先程とは打って変わって、静けさが空間を包む。砂埃が徐々に薄くなっていった。
「バ、バカな……!ありえない!!」
驚くのも無理は無い。そこには傷一つ付いていない甲冑が立っていた。
「こいつの錆になりたい奴から前に出ろ。」
甲冑は斧を突き出して威圧した。これには完全にビビった様子でピクリとも動かない赤ローブの男を抱え、野蛮人達は逃げ出していった。この世界においてもこの甲冑の強さは異常らしい。
「全員逃げちゃった……。」
甲冑が悲しげに上を向く。何が起こっているのか全く分からないが、甲冑の余裕さはこの場面で大きく目立つ。本当に何者なのだろうか。斧についた血を綺麗に布で拭き取っている。
どう反応すればいいのだこの状況。
「……いやまだ終わってないな。おいお前!何ボサっとしてる!後ろだよ!」
甲冑がこちらへ必死に呼びかける。
後ろ?
「え……?」
「……GLLLLL!!」
四足歩行だが、体長は縦に2m、横は6mあってもおかしくない。猪のような見た目をしているが、岩のような皮膚の鎧に全身が覆われていて、全身の所々に象牙のような突起が生えている。
「ッ!?」
腕で頭を守るも、この体重差では結果が見え見えである。もうだめか。
すると、甲冑が空間から剣を取り出してこちらに投げつけてきた。バケモノは硬い皮膚で覆われているようで、まるで刃は通らないが、少し仰け反って攻撃が逸れた。
「魔猪か、丁度良い。さっき出来なかったチュートリアルを始めよう。剣を取って。」
「はい?何を言ってんだよ……?アンタ……。」
気づいてないだけで、ここは凄くリアルはVRゲームの中なのだろうか?この甲冑、明らかに反応が薄すぎる。NPCとしか思えない。
魔獣とは刺激しないようにゆっくりと後ずさりをして距離をとる。魔獣の鋭い視線が突き刺さり、完全に獲物として見られていることを確信する。接触は避けられないだろう。冷や汗が頬を伝った。
「よし、強化魔法からいってみよう。本当は魔法学校初等科で最初に1ヶ月かけて習うはずだけど……まあできるでしょ。」
「いやいやいや……!何が魔法だよ!?こんな体の大きさが全然違う生き物に勝てるわけないだろ……!」
「剣と魔法あらば憂いなし。有名な言葉だ。さあやってみよう。」
だめだ、こいつを説得しようとしたのが間違いだった。魔獣の今にも襲ってきそうな眼差しに気が滅入ってしまいそうになる。
弱気になるな。さっきの野蛮人のときもそうだったが迷っている暇なんてない。まずは自分のベストを尽くす。
「分かりました……で、どうすればいいんですか?」
「いいね、理解が早い人は好きだよ。じゃあ説明する。」
こんな状況だが現実にはありえなかった出来事に少しワクワクしている。魔法……一体これから何が始まるというのだ?
「頚椎っていう首の骨には魔法の素になる魔力を作る機能がある。魔法を使ったことない人間は気づいてないけど、思考、運動、すべての行動に魔力は使われている。だからそこを全力でぶん回して魔力を筋肉に送ることで通常以上に力を引き出す。これが強化魔法だ。」
「いま仕組みはいいです。やり方を教えてください。」
「何言ってるの?今のがやり方だよ?」
「は?」
何言ってるんだ?原理とやり方は違うんだぞ?もっと詳細な説明求む。頼むからここで終わらせないでくれ。
「本当は習得に1ヶ月かかるんだよ。初心者は補助する魔道具とかを使ってやるんだけどそれも無いね。」
「いい加減に……。」
魔法という魅惑の言葉に騙された自分に怒りが沸いた。目の前の魔獣も俺が弱いことに気づいたのか突撃準備にかかっている。甲冑も助けようとする様子が無い。頼りなのは俺の隠されし力だけだ……頼むなんか出てくれ……!
「闇よ操れ?なんだっけ……まあいいやコディペンデント。」
甲冑が何か呟いた後俺の体が動かなくなった。何が起きたんだ?
「今お前の体の動きと俺の体の動きがリンクしてる。今から強化魔法使うから、感覚覚えておいて。」
次の瞬間背中が熱くなった。どう表現すればいいか分からないが、手足のように動かせるが触覚のない超能力のようなもので液体を押し上げているような感覚が押し寄せてくる。今のが強化魔法だろうか?
「よし、解除。」
体が動くようになった。全身に重いリュックを下ろした時のような感覚が残る。不思議と全能感が湧いてきた。そのとき。
「!!」
――魔獣が動き出した。一瞬で距離が詰まり、巨大な爪が迫ってくる。もう時間は無い。さっきの感覚をもう一度……。
「うああああああ!強化魔法!!」
さっきまではなかった第三の手。その感覚をなんとか捻り出す。
その瞬間、驚くほど全身が軽くなった。右からくる爪を避けるため全力で右足を踏ん張る。すると体が急加速して10mほど横に飛んだ。
「うぐっ……」
勢い余って木に激突してしまった。強化魔法の効果か反応速度が上がっていたので、とてつもない速度が出たが受け身を取れた。おかげであまりダメージは無い。まだ戦える。こちらを殺そうとしている敵が目の前に居るというのに、この感覚が嬉しくてさらに高揚してしまう。魔獣がこちらに振り返る。今なら何でもできる。
「来た……!」
今度は体当たりを繰り出して来たが、足をスライドさせ低く躱す。そして腹に一太刀浴びせてやった。どうやら強化魔法には判断力が上がる効果もあるようだ。しかし斬った心地がしない。
「WABYAAAA!!」
獣と恐竜どちらともとれない咆哮に再び恐怖する。
そんな様子を見て、活を入れるように甲冑が叫ぶ。
「よく観察!腹は硬い皮膚で覆われている!薄いところを狙え!!」
魔獣はまた体当たりの姿勢をとった。
薄いところ、ぱっと見えたのは耳、尻尾、そして首。前者2つではダメージが少ないだろう。ならば狙いは1つ。しかし後ろからは狙えない。
――正面から受けるしかない。
ジリジリと足で地面を擦った後こちらへさっきよりも素早く突撃してきた。こちらも剣を構え応える。
ぶつかる。寸前で躱し、剣を振り上げる。殺す行為に少し抵抗があったが、やらなければやられる。今度は思い切り振り下ろすと、首の半分くらいまで剣が通った。もちろん魔獣は完全に沈黙。
「おーやるじゃん。本当に感覚掴むとは思わなかった。」
「へへへ、結構才能あるかも……ってオイ。」
魔法を解除すると、船酔いのような感覚に襲われた。
「初めての魔法だからなぁ、結構キツいでしょ。」
空間から緑の液体が入った瓶を取り出しながら言った。
「はい、楽になるよ。」
「うっ、ありがとうございます……」
飲んでみるとスゥーっと気持ち悪さが抜けていった。苦味があるが、後味は爽やかで意外と美味しい。
「それ原料毒虫だけど毒抜きされてるから安心してね。」
不思議だ、この流れからして薬や漢方の部類の物なのだろうが気持ち悪くなる。貰ったもので悪いが全部戻してしまった。甲冑はそれを見て困惑している様子だ。多分虫とか平気で食べられる世界なんだろう。
――しばらく動けなかったが、随分と気分が楽になってきた。
「あの、ありがとう……ございます。一人だったらどうなっていたか……。」
「あー大丈夫大丈夫、怪我とか無いよな?」
「はい、大丈夫です。」
会話がちっとも進まない。というか話しかけたくない。俺のヤバい奴検知機が常に逃げろと命令し続けてくる。
「……?」
甲冑が不可思議そうな仕草で、俺がいた台座をじっくりと観察している。1周、2周俺の周りをグルグルした後に再び俺の顔をまじまじと見てやはり不可思議な仕草をとる。
「――お前死んだことある?」
「一応死んでここに来たみたいですが。」
甲冑が顎を人差し指の付け根で支える。ななめ下を見つめてしばらく動かなくなった。
「変だな。転移酔いの様子もない。転生にしてはこちらの人間らしくない見た目だし、何より歳が……。」
「あの。」
「あぁ、すまない。」
木々が生い茂っているのに、俺の周りは軽く更地になっている。さっきの魔法使いのせいだろう。
「ここはかなり大きい規模の盗賊団が占領しちゃったんだ。国の領内だから何度か軍隊が送られたんだけどね、それでも取り返せないらしい。」
いつの間にか斧が消えていた。やはり空間から取り出したのだろう。魔法が存在するという事実にもう驚かなくなっている自分の適応能力が恐ろしい。
「だからいつまでもこんなところには居られないな。とりあえずこの国の中央部まで行こう。」
「いやちょっと待ってください。元の世界に帰りたいのですが……。」
「私には無理だね。世界間の移動は君みたいに前例はいくつもあるものの、人間の間で原理は解明されていない。意図的に起こすのは不可能だよ。」
「はぁ……まあそうでしょうね。」
やっぱりそんな簡単にはいかないか……アイツはこんなハードコアな世界に送り込んで一体何が目的なんだ?何の関わりもなかった俺をただ苦しめたいだけではないはずだ。
甲冑の背中から駆動音が無くなり、やはり空間から地図を取り出した。
「うーん……こっから20kmくらいかな?」
「2、20?歩いて?」
当然だろと言わんばかりの態度だ。思わず顔が引き攣る。
「じゃあ飛んでく?体はどうなっても知らないけど。」
「歩いていきます。」
あの着地方法だと絶対に無事では済まない。というか中の人はどうなってるんだ?人間が入っているという固定観念に縛られているだけで本当は異世界のモンスターなのではないか?今の俺はその結論で妙に納得してしまっている。
「じゃあ行こうか。勇者の国、ガラハシア王国の首都、ジパランへ。君、名前は?」
ようやく落ち着くタイミングを得て思うことがある。
まず、ここまでの流れは運命な気がする。死んでも良いとさえ思っていた自分に降り掛かってきていい筈がない奇跡の数々。最早必然だったとしか思えない。
次に、これが自分が変わる最後のチャンスだということだ。帰るまでの間に、自分の生きる意味、母さんへの思いに決着をつけなくてはいけない。
決心を固めると、膝に手を置き大袈裟に立ち上がり言った。
「柴又伊月です。シバマタイツキ。」
~あとがき~
主人公に魔法を使って欲しすぎて展開を焦ってますね僕。でも修正して整合性が取れなくなるのが怖いので止めておきます……
何せだいぶ前に書いていたやつですからね。
次の話くらいから面白くなると思います。更新はこれから毎日7時と12時に1話ずつする予定です。
(どうしても先が気になるよ!って人はNolaというサイトを見てみてください。こっちより3話くらい先に進んでます。)
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