第7話 婚活パーティ
『人は笑い方でわかる。知らない人に初めて会ってその笑顔が気持ちよかったら、それはいい人間と思ってさしつかえない』
(ドストエフスキー)
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瑞上村役場の第二会議室が、婚活パーティーの会場だった。壇上には「瑞上村ランチ婚活 ~出会いは、ここから~」と書かれた横断幕。コの字に並べられた長机の上には、市内からケータリングされた弁当とペットボトルのお茶。手渡された名札には、フルネームと出身地、年齢、職業が書かれている。
「なんで俺が婚活なんだよ」
「だから言ったじゃないですか。調査です、社会科見学です、コミュ力アップです」
「正解が一つもねえよ」
「腹を括ってください。事件解決はヨコゾー次第なんです」
「いつから俺は重要人物になったんだ?」
散々抵抗したにもかかわらず、パーティに参加することをビビに押し切られてしまった。
会場をぱっと見渡した感じ、俺よりだいぶ年上の人たち。村内の男性三人、女性二人。村外から男性二人、女性三人。村内の女性の一人が、幸恵だった。
司会の女性がマイクを持ち、「それでは自己紹介からお願いします」と言った瞬間、空気がぴんと張り詰めた。村の男女は恥ずかしそうにうつむき、マイクを通してやっと聞こえるほどの声で話す。
なんだよ、全員、俺と同じコミュ障じゃないか。
村外から来た女性たちは、品定めするような遠慮のない視線を彼らに向けている。……なんてこったい。こんな気まずいパーティーってある?
「横溝正三、十九歳です。横浜から来ました。えっと……今は、フリーターで、浪人してます」
あ、ドン引かれた。
「浪人で婚活? ふざけんな」みたいな空気だ。てか、未成年が参加して良かったのか?スマホをこっそり取り出し、外で待機しているビビにLINEを送る。
俺:浪人って言ったら女性陣の目が死んだ魚になった
ビビ:浪人って言うからですよ
俺:じゃあ何て言えばよかったんだよ
ビビ:社長見習いとか?うちのグループの何かしらの会社を継ぐのは決まってるし
俺:女性は「家事手伝い=無職」が許されるのに、なんで男はそれじゃいけないんだ?
ビビ:ジェンダー論、うざ
俺:うざは禁句じゃなかったのかよ
ビビ:とにかく、頑張ってください
俺:てか未成年が参加して良かったのか?
ビビ:この期に及んで、根底から揺るがす疑問を投げかけられても困ります。
俺:もー頼むよー!どうするんだよー!
ビビ:じゃ、さよなら
くそー!あいつ、無理やり参加させたくせに助ける気がないのか。ぎこちない会話を交わす、周りの大人たちを眺めた。誰も俺の方を見ない。当たり前だ。浪人の未成年が、真剣に結婚を考えているはずがない。
昼食タイムに入ると、なんとなくカップルができあがり、楽しそうな笑顔が見られたりした。もちろん、俺は孤立。唐揚げだけが味方だ。
その時だった。
「お茶、おかわりいりますか?」
顔を上げると、幸恵が目の前に立っていた。この婚活の主催者であり、ビビが調べていた“あの人”だ。ポスターで見た笑顔のまま――いや、実物は写真よりさらに美しい。上品な白いブラウスに、黒いタイトスカート。二十七歳。ソーシャルワーカー。こんなパーティーに参加せずとも、結婚相手には事欠かなさそうな美人。男たちの嫉妬が混じった視線を感じる。
「……あ、いえ。足りてます」
「コーヒーもありますよ」
「あ、じゃあ、ください」
彼女は俺の前に、温かい缶コーヒーをそっと置いた。
「緊張してます?」
「……いや、全然」
「顔に出てますよ」
「隠せてるつもりだったんですけどねー。やっぱ無理か。場違い感ハンパないし」
「やっぱり」
そう言って、幸恵は笑った。……可愛い。
「俺、未成年だけど大丈夫だったんですか?」
「もうすぐ二十歳になられるということで、例外的に許可しました」
「そうっすか」
「浪人生なんて、偉いですね」
「親のスネかじって、親不孝もんです……。でも、一回失敗したからって、諦めきれない」
「諦めないって、大事です」
「そうですかね」
「そういう人、私は好きですよ。私は多くのものを諦めてきた人生だから」
寂しそうな笑顔。この人は、この閉鎖的な村で、事件の被害者としてどうやって生きてきたんだろう。これだけ可愛くて優しいのに、結婚していないなんて――事件が影響してるんだろうか。
「ところで、横溝さんはどれくらい滞在されるんですか?」
「え? ああ、まだ決めてなくて」
「そうなんですか。来週、村で夏祭りがあるんです。もしよかったら、来てください。花火もありますし、きっと楽しいですよ」
頬を染めて、恥ずかしそうに誘う幸恵。
――やばい。好きになってしまいそうだ。
/border ├ file1「首だけの夏」 ふじた いえ @jinxx666
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