第16話 信じない者が、悪になる
炎上は、静かに始まった。
最初は小さな投稿。
《あの人、結局何もしなかったよね》
《グッズも否定してたし》
《信じた人が馬鹿みたい》
いいねは、少ない。
でも、共感の匂いがある。
それが、一番燃えやすい。
「……来たな」
万次郎は、スマホを伏せた。
レンが隣で画面を見ている。
「“目が覚めた人たち”って名乗ってる」
「最悪のネーミングだな」
「自分たちが正しいって、もう決めてる」
翌日。
学校でも、空気が変わった。
キーホルダーを付けていた生徒が、
外している。
「……恥ずかしくなって」
「騙された気がして」
でも、
怒りは消えない。
向かう先を探しているだけだ。
昼休み。
廊下で、誰かが言った。
「信じない方が正しかったんだよ」
「最初から疑ってた人、賢い」
疑う=正しい。
信じる=愚か。
正しさが、反転しただけ。
「で」
レンが小声で言う。
「次は誰が悪い?」
「俺」
万次郎は即答した。
「もしくは、“まだ信じてる人”」
放課後。
SNSは、完全に二極化していた。
《目を覚ませ》
《盲信は危険》
《信じない人を叩くな》
――叩くな、という言葉で叩いている。
「……はぁ」
万次郎は布団に寝転がる。
「正しさって、忙しいな」
通知。
《あの人のせいで傷ついた》
《責任取れ》
《逃げるな》
逃げてない。
ただ、何もしていないだけだ。
でも、
何もしないことが、一番許されない世界。
翌日、
知らない生徒が声をかけてきた。
「ねえ」
「何」
「なんで、ちゃんと説明しないの?」
説明。
「説明したら」
万次郎は言う。
「納得する?」
「……しないかも」
「だろ」
「でも」
「じゃあ、意味ない」
その会話を、
誰かが動画に撮っていた。
《本人、開き直り》
《反省ゼロ》
拡散。
「……お前」
レンが歯を食いしばる。
「殴られるぞ」
「もう殴られてる」
形が違うだけだ。
その夜。
家の前に、
落書きがあった。
《嘘つき》
《人殺し》
――来た。
小雪が、それを見て固まる。
「……お兄ちゃん」
「見るな」
親父が、無言でバケツを持ってくる。
「消す」
「明日また書かれるぞ」
「消す」
母は、静かに言った。
「信じることを否定された人はね」
「自分を守るために、誰かを悪にする」
「……俺か」
万次郎は笑う。
「分かりやすいな」
翌日。
《アンチ対策アカウント》
《通報テンプレ》
《信じない人リスト》
正義が、
狩りを始めた。
「なあ」
レンが言う。
「これ、もう個人の問題じゃねぇぞ」
「知ってる」
胸の奥が、
限界に近づいている。
・怒り
・恐怖
・被害者意識
・正義感
全部、
人間の感情だ。
「……あー」
万次郎は、深く息を吐いた。
「これ、吸わねぇと」
「吸ったら?」
レンが問う。
「どうなる」
「静かになる」
「一時的に」
「その代わり」
レンは続きを察している。
「俺が壊れる」
万次郎は、軽く言った。
「でも」
彼は続ける。
「放っといたら、もっと壊れる」
夜。
万次郎は、屋上に立っていた。
街の光。
無数のスマホ。
無数の“正しさ”。
「……来いよ」
小さく呟く。
信じる者も、
信じない者も。
全部、
人間だ。
なら、
引き受けるしかない。
次は――
排除が形になる。
万次郎は、
それを確信していた。
そして、
その先にあるものも。
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