第14話 バズは誰のものか

翌日、万次郎のスマホは静かだった。


通知は切ってある。

DMも見ていない。

世界から距離を取ったつもりでいた。


――世界の方が、距離を詰めてきた。


「なあ」

レンが昼休みに言った。

「お前、知らないおじさんにフォローされてるぞ」


「知らないおじさんしかいねぇだろ」

「いや、系統が違う」


レンのスマホが差し出される。


《◯◯プロデュース》

《話題の現象を“形”にします》

《コラボ案件募集中》


「……来たな」

万次郎は即座に理解した。


バズの第二形態。

回収フェーズ。


「これさ」

レンが言う。

「昨日の動画、転載されまくってる」


オリジナルより、

切り抜き。

煽りテロップ。

感情的なBGM。


《真実を語り始めた男》

《圧力に屈しない勇者》

《消された動画の真相》


――俺、何一つ語ってねぇ。


「否定しても」

レンが言う。

「また燃えるぞ」


「分かってる」

「肯定しても?」

「もっと燃える」


詰み。


放課後、

校門の前で声をかけられた。


「卍万次郎さん、ですよね?」


スーツ姿の男。

笑顔が、仕事のそれ。


「……違うって言ったら?」

「その場合も、お話したいです」


逃げ場はない。


近くのカフェ。


名刺が置かれる。


《プロデューサー》

《ブランド戦略》


「率直に言います」

男は言った。

「今、あなたは“物語”です」


物語。


「信じたい人がいる」

「救われたい人がいる」

「それを、ちゃんとした形にしたい」


ちゃんとした形。


「グッズ」

「イベント」

「発信」


万次郎は、ストローを噛んだ。


「……宗教?」

「いえいえ」

男は即否定する。

「ライフスタイルです」


最悪の言い換え。


「本人の意思は?」

万次郎が聞く。


「尊重します」

即答。

「もちろん」


――尊重する気のない即答。


「顔出しNGでもOK」

「匿名でもOK」

「でも、“象徴”は必要です」


象徴。


「あなたは」

男は微笑む。

「選ばれてしまった」


選ばれた。


どこかで聞いた言葉だ。


「……断ったら?」

「その場合も」

男は肩をすくめる。

「話は進みます」


進む。


「人は、物語を必要とする」

「あなたが黙っても、誰かが語る」


正論。

正しくて、最悪。


「その方が」

男は続ける。

「歪みますよ?」


万次郎は、笑った。


「脅し下手か」

「いえ」

「提案です」


帰り道。


レンが言った。


「……どうする」

「放っとく」

「放っといたら?」

「勝手に神にされる」


「じゃあ、止める?」

「止めたら、殴られる」


「地獄じゃん」


「今さら」


その夜。


SNSには、

“公式っぽい”アカウントができていた。


《近日発表》

《“救い”を、あなたの手に》


いいねが、伸びる。


万次郎は、布団に倒れ込んだ。


「……俺さ」

「ん」

レンが通話越しに返す。


「神様向いてねぇ」

「知ってる」


「でも」

万次郎は天井を見る。

「放っとくと、神が暴れる」


沈黙。


「……グッズ、来るな」

レンが言う。

「確実に」


「ああ」

「次は“買えば救われる”だ」


最悪の形。


万次郎は、

目を閉じた。


SNSは、

正しさと金を、

最短距離で繋ぐ。


信仰は、

いよいよ“商品”になる。


次は、

手に取れる形で。


「……はぁ」


ため息は、

もう日常だった。

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