第3話

「ただいま〜。」

「おかえり直樹、遅かったね。」

母さんが少し暗い顔をしていた。なんとなくまた

バカな兄貴が父さんを怒らせたんだろうと思った。

バカな子どもと怒りっぽい親の相性は最悪だ。俺は何も悪くないのに、兄貴のせいで家の中はいつも

居心地が悪かった。アイツは誤魔化し体質というか、いい歳してなんとか自分が言いたくないことや

都合が悪いことは隠し通そうとする。そもそも悪いことをしなければいいのに、バカだから問題を起こすことしかできない。それでいて隠蔽癖があるというどうにもならない人間。自分が言いたくないだけで先延ばしにして、結局事態はどんどん悪化する。本当にバカ丸出しで、最底辺の兄貴だ。

アイツのせいで母さんは…

「直樹、ご飯できてるから食べておいで。私は

孝基とちょっと話があるから。」

「うん…。」

少し向こうに兄貴が立っていた。母さんが静かに

問いかけている。何と言っているかまでは聞き取れないけど、何があったか知りたいような知りたくないような。もう何も気にしなくていいならそれが

一番なんだけど、嫌でも声が聞こえてくるから

耳を傾けてしまう。

そのうち兄貴の声も聞こえてきた。何か言い訳でもしているのだろうか。声まで気持ち悪い。絶妙に

高くて、歌でも歌っているような。中性的を装ったその声が本当に不気味だった。何を考えているのか分からない。聞いていて吐きそうになるくらいだ。


父さんが歩いてきた。ご飯を食べに来たんだろう。少し太っていていつもは早食いのくせに、イライラしている時はゆっくり食べる。ゆっくり食べると

言うと聞こえは良いかもしれないけど、丁寧に

食べているわけではない。とりあえず置いてある

から食っているだけで、別に食いたくもない、

腹が立って食事どころではない、そんな感情を表に出しながら、苛立ちを噛み潰すように咀嚼する。

この人はこういう人間だ。自分がイライラしているからって、それを関係のない俺にまで浴びせないでほしい。そのうち箸でも叩きつけてどこかへ行くんじゃないか。数年前まではそんなこともあった。

少しは自分の中で怒りをコントロールできるようになったんだろうか。ただ、箸を叩きつけないとも

言い切れないのがコイツの罪だ。一度でもそんな

ことがあれば可能性は否定できない。どんな行動を取るのか、チラチラと横目で見ながら食べ進めて

いたら、俺はいつの間にか完食していた。

せっかく母さんが作ってくれたハヤシライスを

味わうことができなくて、少しだけお皿に残った

ルーを眺めながら泣きたくなった。いつもは食べるのが遅い俺なのに、今夜は早食いしちゃったな…

気付いたら莉奈の神力を引っ張るような感覚に

陥っていた。流れ込んで満たされていくことに

違和感を覚え、今日は早く寝てしまおうと思った。

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