第5話

「契約は結ばれた。アルト、目を開いていいぞ」


 俺はその言葉にハッとする。

 まるで長い眠りについていたかの様に、意識がおぼつかない。

 この感覚が本日2度目であることは分かる。

 俺はまだ現実にいる様だ。


「えっと……俺は……何を?」


オレ程の悪魔と契約したんだ。無理もない。おおよそ、情報の嵐にでも飲み込まれたんだろう?」


「わからない。というか、何も覚えてない」


 この言葉に嘘は無かった。

 辿れる記憶は、契約の直前まで。

 内容は何一つ頭に残っていない。


「まぁ気にすることじゃない。儂とアルトの契約は済まされた。これで、リオム・ファロスに対抗出来るな 」


「覚えてないから達成感ないなぁ。……で、具体的に何が出来るようになったの?」


「『魔術』だよ。悪魔のな。相手も魔術を行使するなら、こちらも同じ土俵に立ってやるのが筋だろう?」

 

「わざわざ相手に合わせるのか?」


「合わせてやるから、格の違いを見せつけてやれるんだろうが」


 バル子の言葉には一理あった。

 女神リオム・ファロスは全てを楽しんでいる。

 だからこそ、彼女の狂宴に付き合うことが、最善の手段であり、彼女の創り出した箱庭での生存に繋がる。


「儂の魔術は、対女神様に調整チューニングしてある。使い方は実戦で教えてやる。楽しみにしてろ」


「なかなかにスパルタな……」


「アルトの実力を買ってのことだ。文句は言うなよ?」


 バル子はニヤニヤと俺に笑いかける。

 俺が嬉しがっていることな分かるみたいだ。

 正直、期待されるのは嫌いじゃない。

 それに魔術もだが、玄明流げんめいりゅうを真の戦いで試してみたい気持ちもある。

 そういう意味では、俺は現代人からかけ離れてるのかもしれない。


「では、改めて説明ブリーフィングだ」


 俺はバル子の言葉にコクリと頷く。

 いよいよ女神リオム・ファロスへの叛逆の時が近付いて来たのだ。


「俺たちが向かうは、女神リオム・ファロスが引き起こした【世界5分後魔術改変定説】により、再塗装リペイントされた露希あらわき市。文字通り箱に詰められ、外界と遮断された異空間。言うならば、女神の箱庭だ。儂たちは奴を破壊し、塗り替えられた世界を元に戻す」


 今の露希は、リオム・ファロスが、己の欲のために創った世界。

 女神の箱庭とはよく言ったものだ。


「露希の人々は魔術による競合を行い、地位を獲得している。十中八九、戦闘は必須だろう。だからこそ、こちらもそれに習い、戦い続ければ、リオム・ファロスに辿り着く」


「あぁ、やってやる!露希を……イサナを取り戻すためにやってやる!!」


 俺は大きく声を張り上げ、自らを奮い立たせる。

 魔術による戦いは、命を賭けることになるだろう。

 それでも、臆するより進むことを決めた俺の返事に迷いは無い。


「よろしい。では行こうか|アルト。復世ふくせいの始まりだ」


「と言っても、どうやって?」


「簡単な話だ。地球を天国だと思えばいい」


「……は?」


 バル子は俺の質問に答えることなく、は大きく口を歪ませ、歯を光らせた。

 そして指を鳴らす。


 ――次の瞬間、ズガンッ!!と大きな音を立て、趣味の悪いトラックが壁を突き破った。

 標的は言うまでもなく、俺たちだった。


「ま、ま、ま、またかよぉぉぉぉぉ!!!」


 俺の叫びはトラックのエンジン音にかき消される。

 そして勢いのままに、天高く俺は打ち上げられた。

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2026年1月19日 19:00
2026年1月19日 19:00
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T/T/E【アンチテーゼ】 ~女神に抗うため、悪魔と契約した新人異端魔術師俺の復世奇譚~ 415(アズマジュウゴ) @AzumaJugo

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