第2話 高校1年生、6月②

話し合いは、結局まとまらないまま終わった。


犯人だの、責任だの、との話は保留。


文化祭の準備も一旦ストップ。


担任が「今日はここまで」と区切って、ようやく解散となった。




放課後の教室は人もまばらで静かなものだった。


「……なぁ」


帰り支度を終えた陽斗が声を掛けてくる。


「そんなんなるなら大見得きるなよ」


「うるせ」


俺は机に突っ伏したまま答える。




……なんで俺は、あんな事を言っちまったんだ……


勢いだった。


完全に。




証拠があるかもわからない。


証明する方法もわからない。


なのに俺が証明する。なんて……。




「でもまぁ直人がそういうやつだとは思わなかったよ、案外アツイんだな」


「ホントびっくりしたよ」と月島がクスッと笑いながら乗っかってくる。


もう反論する気も起きない。


「でも、すごいと思うよ」


月島はからかうでもなく、こちらを見ていた。


その目に少し優しさを感じる。


「……やめろって」


視線を外しながらそう返すと


「おや?照れてますな」


「照れてますな」陽斗も続く。


「うるせ」


そう言いながらも、二人の軽口に少しだけ救われたように感じた。






「あの……更階くん」


その輪の外から控えめな声がした。


振り向くと佐伯が立っている。


どこか申し訳なさそうに肩をすぼめて。


「ごめん……巻き込んだみたいで」


「謝る必要ねえよ」


「そもそもさ、三万も生徒に預けてる時点でおかしいだろ」


「責任の所在で言ったら学校側だっての」


佐伯は一瞬きょとんとして、それから少しだけ笑った。


「その……ありがとう」


「一人で抱え込んだってしょうがないだろ。でも、お前も手伝えよ」


佐伯は驚いたように目を見開いて、それから力強く頷いた。


「うん、やらせてほしい」


「俺もやるぜー!」と陽斗がガッと肩を組んでくる。


「重いって陽斗!」


そう返しながらも、口元が勝手に緩んでいるのに気付いて慌てて誤魔化す。




なんでだろう。


さっきまであんなに後悔していたのに。


ほんの少しだけ気持ちが楽になった。




次の日。




朝一で俺と陽斗、佐伯の3人は担任に声を掛けて事務室に話を聞きに行った。


結果は進展無し。




「記録は確認したけど、こちらには入金の記録がない」


事務の担当者が困ったようにそう言う。


「でも佐伯は預けたって」


「気持ちはわかるけどね、記録がない以上、こちらもこれ以上は……」




結局、誰が悪いとも、何が原因とも言われないまま話はそこで終わった。


廊下に出た瞬間、佐伯の方が少しだけ落ちた。


「……どうする?」


陽斗が聞いてくる。


「会計ソフトと金庫を確認したい」


二人が同時に首を傾げた。


「金庫や書類は生徒には見せられないって、さっき言われただろ」


「つーか会計ソフト?って何」


陽斗の問いに、俺は少しだけ言葉を選ぶ。


「一般の会社だとさ、金の出入りは全部、毎日記録する」


「入ったら入った、出たら出たで、必ず仕訳、その金の流れが記録される」


「学校だって例外じゃない。現金を受け取ったなら、必ず記録が必要になるんだ」


陽斗は黙って聞いていた。


「佐伯が預けたっていうのなら金が消えたんじゃなく、その記録のどこかがおかしい可能性もある」


「そこを見ればわかるかもしれない」




一拍。




「……なるほどな」


陽斗は腕を組んで、ふうん、と短く息を吐いた。


「よくわからん」


「が!要するに忍び込めばいいってことだな!」


そう言って、にやっと笑った。





放課後の校舎は、昼とは別の顔をしているように思える。


人気が引いて、音も減る。


その分、小さな動きや足音なんかがやけに目立つ。




事務室の外。


俺たちは建物の裏手に回り、窓の下にしゃがみ込んでいた。


ガラス越しに見えるのは蛍光灯に照らされた事務室の中。


事務員が一人、机に向かって作業している。




「……あれが会計用のパソコンだな」


俺は画面を覗くように確かめる。


しばらくして事務員が立ち上がった。


金庫の扉を施錠し、引き出しにしまう。


「あれ金庫の鍵だね」と、佐伯もチェックしているようだ。


「でも更階くん、あの金庫、回すダイヤルも付いてるけど大丈夫かな」


「あぁ多分大丈夫。さっきもダイヤルに手を触れていなかったし、基本毎日使う金庫ってあんまそこいじんないんだよ」


「へぇ、物知りだな直人」と3人でコソコソと言い合う。


事務員は書類をまとめ電気を一部落とし、扉へと向かう。


そしてーーカチャリ。


鍵をかける音がはっきりと聞こえた。


あ、やばい。入口を施錠されるとは考えてなかった。と少し焦るが陽斗が動く。


「窓からいくぞ」


「待て、窓の鍵がーー」と言いかけるとカラカラ……と端の窓が開いた。


「さっき、こっそり開けといた」


さらっと言いやがる。


「……お前、いつの間に」


「ふふ、下見は基本だろ?」


頼りになるな、こいつは。






「さっきから何してんの?」


三人で窓に手を掛けたその時、背後からの声に心臓が跳ねた。


振り返ると、月島が低めのツインテールを揺らして首を傾げている。




「い、いや別に何にも!」


陽斗が即座に口を開く。


「ほら、俺って窓が好きじゃん?」


「いやぁ、いい窓でさぁ」


「お、この窓枠の色、良い銀色で」


「思わず忍び込みたくなる魅力的な……」




「バカ」


俺と佐伯の声がほぼ同時に被った。


月島は窓と俺たちを交互に見て、一拍置いてからふっと笑った。


「へぇ、忍び込む気なんだ」


喉がぐっと鳴る。


言い逃れはもう無理だった。


「……こうなったお前も共犯な」


「へ?」と、月島が目を丸くする。


「陽斗!」


「月島と一緒に廊下見張っててくれ!」


「おっけー了解!」


陽斗はやけに元気よく返事をして月島の腕を掴む。


「ほらほら、共犯者は共犯者らしく働こうぜ」


「勝手に決めないでーー!」


文句を言いながら月島は引っ張られていった。


佐伯と俺は事務室の窓の前に顔を見合わせ


「よし、いくぞ」


「うん」


と、静かに窓を開け、事務室に侵入した。


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