第一噺『テケテケの...』
―ねぇ、知ってる?
友達の友達が言ってたんだけどさ。
最近、見たんだって……。
――テケテケ。
第一噺『テケテケの親切心』
―週末は、婚カツパーティーへ。
新しい出会いが、新しい未来を描きます。
そんなネット広告に、
ふと目を止めてしまったのが――
運の尽きだったのかもしれない。
白鳥スズカ、二十八歳。
最後の恋愛は、三年前。
気がつけば、周りは次々と結婚し始めていた。
「まだ焦らなくても大丈夫」
そう思っているうちに、
気づけば少しずつ出遅れていき、
そろそろ私も、と思った頃には、
今度は周囲に子どもが増え始めていた。
仕事が忙しかった。
タイミングが合わなかった。
そんな言い訳を口にすることにも、
いつの間にか慣れてしまっていた。
言葉にした瞬間、
胸の奥に、薄く虚しさが残る。
それに気づかないふりをしながら過ごしていた、
ある冬の夜。
スマートフォンの画面を指でなぞる途中で、
スズカは、あのキャッチコピーを目にしたのだった。
婚カツパーティーの会場は、思っていたよりも賑わっていた。
人は多い。けれど、どこか均されている。
女性たちは、似たような色合いの服に、似たような髪型。
男性の方も、驚くほど代わり映えがしない。
スーツの色も、靴の形も、
笑顔の作り方まで、どこか揃っている。
その中に、
一人だけ見覚えのある顔があった――
・・・ような気がした。
けれど、すぐに首を振る。
上等なスーツに、高級そうな腕時計。
そんな人に、心当たりなんてない。
きっと、気のせいだ。
「おいくつですか?」
「普段は、どんなお仕事を?」
「休日は、何をしているんですか?」
会場のあちこちから、
当たり障りのない質問が、当たり前のように聞こえてくる。
まるで、同じ会話を、同時に何度も再生しているみたいだ。
―この中に運命の出会いなんて、
本当にあるのだろうか?
スズカは、
そんなことを考えながら、
目の前のグラスに入った水を、そっと口に運んだ。
―あの、すみません。
いま、話しかけても大丈夫ですか?
静かで、低く響く声だった。
振り返る。そこに立っていたのは、
清潔感のある、爽やかな男性。
そんな第一印象を抱いた。
黒く短く刈り上げた髪型は、
どこかホテルマンを思わせる。
スーツはきちんと整えられ、
胸元のポケットチーフも、くたびれた様子はない。
背筋を伸ばして立つ姿は、
余計な動きがなく、静かだった。
「えっと...ご一緒しても?」
押しつけがましさのない、
それでいてはっきりとした声。
思わず、スズカの頬がわずかに熱を帯びる。
「は、はい……」
緊張で、声が少し上ずった。
――これは、もしかすると。
――本当に、もしかするかもしれない。
胸の奥で、
そんな期待が、にわかに膨らんでいく。
スズカは、
それを否定しないことにした。
彼は、私より五つ年上で、
朝霞マサトと名乗った。
年齢も、声の調子も、立ち振る舞いも。
どれも落ち着いていて、妙にしっくりくる。
それからしばらく、他愛のない話が続いた。
―仕事のこと
―休日の過ごし方
―最近見た映画のはなし。
そして、意外な共通点に気づく。
「『ホリデイ』、好きなんですか?」
「ええ。あと、『ビフォア・サンライズ』も」
思わず、目を見開いてしまった。
どちらも、
偶然の出会いが運命に変わっていく恋愛映画だ。
「……私も、好きです」
そう答えると、
彼は少しだけ嬉しそうに目を細めた。
「運命の出会い、っていうのに憧れるんです」
その言葉を、
あまりにも自然な笑顔で口にするものだから、
思わず見惚れてしまう。
誰もが振り返るような、
いわゆる“分かりやすいイケメン”ではない。
けれど、目尻に浮かぶ笑い皺が、やけに印象に残った。
――悪い人じゃない。
むしろ、
いい人なのだと思う。
スズカは、
そんなふうに感じていた。
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