第八章「清浄師ギルドの影」
黒い法衣の一団が、店の前に立ちはだかっていた。
前回とは違い、人数が多い。十人以上はいる。先頭に立つのは、前回と同じ男——金の刺繍が施された杖を持った使者だ。
「理容師殿。我々は警告に来た」
「また来たのか」
一刀は店の入り口に立ち、腕を組んだ。蒸野とハジメが、彼の後ろで緊張した表情を浮かべている。
「貴様の行為は、王国の秩序を乱している。穢れを無許可で祓い、民衆に誤った知識を広めている」
「誤った知識?」
「手を洗えば穢れを防げるだと? そのような妄言を広めることは、ギルドへの冒涜であり、神への反逆だ」
一刀は鼻で笑った。
「実際に効果が出ている。この村では、手洗いを始めてから新規の穢れ発症者が減った」
「偶然だ! あるいは貴様の『浄化』の効果が——」
「俺は最近、新規の患者をほとんど受け入れていない。予約は既存の患者で埋まっている。にもかかわらず、発症者が減っている。手洗いの効果以外に説明がつくか?」
使者の顔が歪んだ。
「詭弁を……」
「事実を言っているだけだ。お前たちは、千年間、穢れを独占してきた。穢れの原因を調べることも、予防法を探ることも禁じてきた。なぜだ?」
「神の教えに——」
「違う」
一刀は一歩前に出た。
「穢れがなくなれば、お前たちの商売が成り立たないからだ。民衆が自分で穢れを防げるようになれば、ギルドに金を払う必要がなくなる。だから、お前たちは情報を隠蔽し、民衆を無知のままにしてきた」
使者の目に殺意が宿った。
「貴様……言ってはならないことを……」
「本当のことだからだろう」
「黙れ!」
使者が杖を振り上げた。その先端が光り始める。何かの術を発動しようとしているのだ。
「危ない!」
蒸野が叫んだ。一刀は反射的に剃刀を抜いた。
光が放たれた瞬間——
「そこまでだ」
別の声がした。光が途中で消え、使者が振り返る。
森の奥から、一人の女性が歩いてきた。長い金髪に、青い瞳。白いドレスに身を包み、その首元には王家の紋章が刻まれたペンダントが輝いている。
「王……王女殿下……!」
使者たちが一斉に跪いた。
「第三王女セリーヌだ」
女性——セリーヌは、冷ややかな目で使者たちを見下ろした。
「ギルドの者たちが、何をしているのか」
「い、いえ、その、この者が王国法に違反しており——」
「王国法? どの法に違反したのだ」
「無許可での浄化行為を——」
「この者は浄化を行っていない。身だしなみを整えているだけだ。違うか」
使者は言葉に詰まった。
「それに」
セリーヌは一刀の方を向いた。
「この者には、私から用がある。邪魔をしてもらっては困る」
「で、ですが殿下——」
「下がれ」
その一言で、使者たちは黙った。不満げな表情を浮かべながらも、彼らは踵を返し、森の中へ消えていった。
一刀は剃刀を仕舞い、目の前の女性を見た。
「助けてくれたのか」
「結果的にはそうなる。だが、目的は別だ」
セリーヌは一刀に近づいた。その美しい顔には、どこか苦しげな影がある。
「私を……助けてほしい」
「助ける?」
「私は、穢れに侵されている」
彼女は髪を払った。金髪の根元に、黒い霧が渦巻いているのが見えた。
「清浄師ギルドでは、祓えなかった。王族の穢れは、特別なのだと言われた。だが私には、それが言い訳に聞こえる」
「王族だから特別……?」
「穢れが祓われては困る者がいるのだ。私が健康でいては、都合の悪い者が」
一刀は彼女の目を見た。そこには、絶望と、微かな希望が入り混じっていた。
「お願いだ。私を救ってくれ」
一刀は少し考えてから、頷いた。
「店に入ってくれ」
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