第14話 14. 過去
時を遡る事、約400年前のこと、
陽翔を転生させた後に残った5名の仲間は、
魔の王を倒した。
そして魔物の湧き出る地獄の蓋を閉じた。
しかし、5名も無傷とはいかずに多大な傷や怪我を
負っていた。
その中でも銀髪の勇者と呼ばれたブレッドは
霊薬ですら回復不能な瀕死の重体で死が目前に迫っていた。
「リッ、リリーア、すまない、後事を託す。
たっ民を導いてくれ」
ブレッドの焦点は既に何も捉えておらず、
瞳にはリリーアが映っているだけだった。
ブレッドはリリーアの腿を枕の変わりに
永遠の眠りについた。
暫くの間、沈黙が仲間を支配した。
「リーリア、ブレッドは神に召されたのです。
あなたも理解しているでしょう。
彼の思いを成すためにも故国へ戻りましょう」
オリヴェルの言葉にリーリアは頷くと、
ブレッドの頭部を慎重に地へ寝かすと、立ち上がった。
「オリヴェル、確か陽翔の万物の霊薬が
残っていましたね」
「確かに残っているが、あの霊薬では死者を
甦らせることはできない」
リーリアは最後の一本を飲んだ。
だれも彼女の行為を止める者はいなかった。
「私にはブレッドの意思を継ぐのは重すぎます。
彼の支えなしでは、心が壊れてしまいます」
リーリアは泣いていた。誰も口を挟むことはなかった。
「私には無理でも彼ならば、あなた方の協力があれば、
大志を成せるでしょう。
彼無き世を生きるには、私にとって厳し過ぎます」
「これより蘇生の儀を執り行います。
我が魂と引き替えに彼を再び、
この地へ顕現させます。
彼の事をブラッドのことをよろしくお願いいたします」
他の仲間たちが引き止める間もなく、
凄まじい光が2人を包み込んだ。
眩い光に誰しもが瞳を閉じてしまった。
光は城の天井を透過し、リーリアの魂は天へ至り、
ブレッドの魂を呼び戻した。
肉体は蘇生し、その傷みは、全てリーリアに
転換された。
それは祈りとは言えなかった。
光の中心より狂おしい絶叫が仲間たちに聞えた。
絶叫が収まると、光はブレッドに収束した。
リーリアの肉体は一片も残っていなかった。
暫くして、横たわり呻くブレッドをガイグリフォンが
何とか担いで魔の王の城を後にした。
気に病んでいたが仲間の励ましとリーリアの
思いのためにブレッドは立ち直り、民草を導き、
建国した。
残念なことに初代帝王ブレッドは
子をなすことはなかった。
遠縁にあたる優秀な子を養子として迎え入れ、
国を継がせた。
そしていつの間にかブレッドは、帝国より姿を消した。
地獄の底へ潜む魔神を倒しに旅立ったとか、
想いの人を探しに旅立ったとか、
政敵に暗殺されたとか様々な憶測が
民草の間で噂されたが、真相は闇の中であった。
ログリーナ帝国建国100年後、ブレッドは、
各地を彷徨っていた。
否、己にかけらた呪いを解くために各地の伝承や
禁書を調べていた。
仲間の一人であるオリヴェルは既に鬼籍となっていた。
奇しくも世は、国同士で大戦争真っ最中だった。
オリヴェルの立てた仮説と数多の資料から、
ブレッドは、まず陽翔を見つけ出す事にした。
そのために剣と魔術を捻じ曲げて伝えるようにした。
陽翔であれば、そんなまやかしに惑わされることなく
剣と魔術を振るい、ブレッドが構築したネットワークに
引っ掛かりやすくなるだろうと推測した。
ブレッドは徹底気にこの戦乱を煽り、国々を破壊し、
改めて剣と魔術の似非理論を構築した。
かつての仲間であったガイグリフォンは、
そのことに反意を示し、ブレッドに抗したが
力及ばず戦乱で命を落とした。
ソフィアもまた、反対し、ブレッドに抗したが、
力及ばず、姿を隠した。
「死にたい」
ログリーナ帝国建国200年後、
剣と魔術はブレッドが誘導した歪な方向へ進んでいった。
いまだ浸透しきれてはいなかったが、
世は戦乱の傷を癒し、民草は平和を享受していた。
その世界をブレッドは当てもなくふらついていた。
「死ねない」
ログリーナ帝国建国300年後、
ブレッドは呪詛のようにそれを呟いていた。
国同士での多少の諍いはあれど概ね平和であり、
戦うための剣と魔術は、世に左程、必要とされていなかった。
まれに戦うための剣の型と魔術の術式に
疑問を呈する者が現れたが、いずれもブレッドが
探している人物ではなかった。
「・・・」
ログリーナ帝国建国400年後、
ブレッドは当初の目的を忘れかけていた。
陽翔という男に会う事だけを目的に生きている様だった。
世界に刺激は少なく、平和に飽き、停滞の様相を
示していた。
ブレッドの心に刺激を与えるような出会いもなければ、
事件もなかった。
ブレッドは陽翔を見つける事ができずに
この世界に絶望していた。
いつしか徹底的な世界の再構築がアレと会うためには
必要だと妄想していた。
ブレッドは自らが封じた地獄の蓋を再び開けた。
世は魔物で溢れかえり、再び混乱を極めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます