第13話 13. 会敵
こふっ、クリスの口から血が零れた。
「クリス」
陽翔が絶叫した。
クリスの胸が剣で貫かれていた。
鎧、そして精霊の守りをその剣は
何事も無いように貫いていた。
「そんなに初々しい恋を見せられてしまうと、
ふふふ、妬けるなあ。
それに彼女が知ったら、嫉妬に狂ってしまうよ。
知ることもないけどね」
その声はクリスの真後ろより聞こえた。
クリスを貫いた剣は、ゆっくりと空に向かって
持ち上げられると、夕陽の方へ放り投げられた。
周囲は一掃したはずの魔物で溢れかえっていた。
一瞬のことに周りの学院生は呆然自失となっていた。
そして、絶叫した陽翔もそれは同じだった。
陽翔の瞳に映るクリスの血塗られた剣、
それは見紛うことなき剣だった。
「それにしてもログリーナ学院の雌雄一対の俊英、
雌の方は噂程ではなかったね。君はどうかな」
腸は煮えくり返り、口から血が滲み出ていたが、
陽翔は激情に駆られて、動くことはなかった。
周囲では魔物に狩られて、悲鳴を上げる声が方々で
上がっていた。
突然のことに士気は崩壊し、散り散りになって学院生たちは
逃げだしていた。
「なんでなんでその剣を持って、
その型を構えている。貴様、何者だ」
目の前の風貌の男は、陽翔の記憶になかった。
髪はぼさぼさの伸び放題な上に脂やフケだらけ、
瞳は紅く濁り、歯は黄ばんでいた。
服はよれよれで裾は擦り切れ、穴が開き放題だった。
しかし、服から垣間見える肉体は引き締まっているようだった。
陽翔と男の周囲は、魔物の雄叫びと
学院生たちの叫びが入り混じって、収集のつかない混乱を
極めていた。
「つれないな。君にとっては20年にも
満たないことだろうけど、僕にとっては300年、
いや400年かな。
恋焦がれる程に待ちわびた瞬間だよ」
陽翔は自然、目の前の男と同じ型を構えていた。
「うんうん、懐かしいな。その構え。
目の当りして、確実に確信できたよ。
どうしても右腕が下がる癖は抜けきらないものだ。
あれほど指摘したのに困ったな。
まあ、それも思い出って事なのか」
陽翔の心臓の鼓動は一気に跳ね上がっていたが、
陽翔の表情は能面のようだった。
「ブレッドなのか?
いやブレッドの記憶を覗きこんだ食わせ者だな」
「陽翔、それはないだろう。
これほど君との邂逅を待ちわびた僕に失礼じゃないか」
男は両手を夕陽に向かって大きく広げて、
謳うように語った。
「全ては君を見つける為に伝統という名の下に
魔術も剣術も捻じ曲げて、伝えたのさ。
君ならその違和感に気付いてくれると思ってね」
「諜報から噂は聞いてはいたが期待していなかった。
しかーし、そう、今ここで君を見つけた。
魔物を大発生させて、侵攻させればアレの妨害が
あったとしても偽物でもあってもとりあえず
現れると思ってたが、在外、早かったよ。
ログリーナ帝国が滅亡するまでは見つからないと
思っていたからね」
嬉々として語る男を陽翔は憎々し気に睨みつけた。
「ブレッド、ログリーナ帝国は君が建国したのだろう。
そして君の子孫が代々統治していたはずだ」
陽翔の声は低く、重かった。
「ふふふ、質問なのか何なのか良く分からないけど、
何故かという事を知りたいんだね君は。
私情より大義を優先するところ、少しは成長したのかな」
戦場の喧噪の中、2人は剣を構えて、対峙していた。
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