第12話 12. 討伐

世の趨勢にあまり関与することなく陽翔は、

その二年間を学院で学び、時には冒険者として

帝都周辺に現れる魔物の討伐に従事した。


「ねえ、フィン。ちょっと聞いているの?」

目の前の魔物を苦も無く屠りながら、

話すクリスだった。それは陽翔も同様だった。


帝都周辺にも頻繁に魔獣が現れ始め、

陽翔達学院生も勉学どころでなく討伐に駆り出されていた。


「どしたのクリス?」

陽翔は汗を拭いながら、クリスの方を振り向いた。

周囲は魔物の血の臭いで充満していた。

他の学生たちは、臭いに耐えかねて顔を歪めていた。

しかし、2人は特にそれを苦にしている様子はなく、

他の学院生の様に魔物の飛散した血や肉で

汚れていなかった。

2人は明らかに他の学院生たちと一線を画していた。


「うーん、こんな状態、

いつまでこんなことが続くのかなと。

帝都ログリーナが陥落したら、他の国も

更に危険な状況になるのは明白なのに人々は

権力闘争にかまけている」


「我関せずで森に籠ったままの

エルフも大して変わらないよ」


むっと拗ねた表情のクリスだった。

拗ねた表情ですら、人々を魅了してやまなかった。

それは決して陽翔も例外でなかった。

周囲の男たちは陽翔に羨む視線を送っていた。


 ログリーナ学院の雌雄一対の俊英、

いつしか陽翔とクリスは、戦場で

そう呼ばれるようになっていた。


戦場で華麗に舞い踊るよう細剣を振るい魔物を倒すクリス、

対して一意専心愚直に魔物を斬り伏せる陽翔。

二人は戦場で背中を預け、戦っていた。


「全員、いるな。死傷者はないな。

これより帝都に戻る。道中、気を抜くなよ」

学院生を率いる帝国の新米騎士は号令をかけた。

その表情と態度は、殊更、クリスに見せつける様に

だった。

その魂胆は見え見えだったために学院生たちは

堪えられずに噴き出して笑った。

新米騎士は一睨みすると、先頭に立ち、移動を開始した。


「ぷっ、無駄な努力をしているな、あの騎士様」


「気持ちは分かるけどな。まあ、結果はお察しだよな」


「クリスの前にまた、屍が積み重なるだけだ」


学院生たちは、口々に近い将来、新米騎士に

訪れる結末を話していた。


無論、陽翔とクリスにもそんな無駄口は聞こえていた。

「フィン、どうしましょう。

また決闘を挑まれたら、どうしますか?」

いたずらぽく笑うクリス。


「挑まれたら、無論、全力をもって応じるさ。

ただそれだけだ」

陽翔はにこりともせずに答えた。


「むむっ。未だチェザ先生に

心を囚われているようですね」

左手の人差し指で陽翔の頬を

ぐりぐりと押すクリスだった。

陽翔の心臓の鼓動は毎度のことながら

跳ね上がっていたが、陽翔の表情は能面のようだった。

稀に見る美男子だったエルフに心を囚われている俊英、

それが学院生の一般的に知られている陽翔だった。

クリスの無駄な努力にいつもの光景に学院生は

日常を感じ、緊張が緩んだ。

周辺の魔物たちは一掃されたこともあり、

新米騎士も学院生たちを咎めることはなかった。


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