第2話 人生、諦めが肝心

 実家は都心から離れた住宅地にあった。


 僕はしばらく失業保険で自分の人生を見直すことにした。と言っても、僕にはこの家と母が遺してくれたほんの少しの預金だけだ。いつまでも食い潰すわけにもいかないので、再就職は必須だとは思っている。

 思っているが、今はいい。


「つかれた」


 結局どこに行っても人間関係からは逃れられない。ずっと気を遣い、体裁を整え、建て前だけの、偽りの自分。すなわち道化ピエロを演じなければ上手く生きていけない。



 1月3日曇りのち雨。

 

 夕刻。駅前のスーパーで買い物を済ませた僕は、折りたたみ傘を差して帰路へとついていた。


 雨のせいもあるだろう。辺りはすでに薄暗くなっており、街灯が濡れたアスファルトに光を落とす。僕はその光を遮るように、黒い折りたたみ傘に身を隠して街路を歩く。

 雨のせいか人通りも少なく街の喧騒よりも、雨の音が耳に入るくらいだ。


 冬の雨は冷たく、傘を持つ手が風を受けてかじかんでいる。

 早く家に帰って風呂にでも入りたい。


 住宅街に入り、足早に帰路を急いだ。これ以上雨に打たれると、こんな折りたたみ傘では心許ない。


「ちょっとそこどいてえええええ!!」


 どさり。


「いったああああい! のいてってったやん!?」

「えと⋯⋯は、はい。なんか、すみません」


 まさか、空から人が降ってくるなんて思っていますませんでしたから。こんな折りたたみ傘しか用意しておりませんでした!


「こらっ! 天音あまね待ちなさい!」

「あ、やばっ! ほらっ、ぼさっとしてんと、早よ逃げやな!」

「えっ!? あ、はいっ!」


 空から降ってきた女子高生らしき年頃の天音さん。尻もちついてた僕の手を引いて、勢いよく走り出した。

 あ、傘が⋯⋯壊れちゃったし、諦めよう。ズボンもぬれて、パンツまで雨が染み込んで気持ち悪いけど、人生、諦めが肝心。最近学んだことだ。だけど。


 今日の天気は曇りのち雨だったはず。


 まさか女子高生?が降ってくるなんて、世の中というものは、なんともままならないものだ。僕は、自分の手につながる先の人物の背中を見て。


 そう、思った。




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