2. 応急措置開始

 翌日は曇天で、予定通り作業を開始する。


 集まったのは、魔導士協会の一行、地元の青年団が二名の、計六名。

 ソーカルが指揮を執る。

「昨日のうちに、危険範囲には黄色い旗を立ててある。作業中、俺が常に音魔法で地中の音を拾っているから、避難合図を出したらすぐに逃げてくれ」

 道幅は、荷馬車がようやく通れる程度。崩落の距離は10メートル程度。小規模な崩れだが、土砂からはまだ細く泥水が流れ出し、土はやわらかい。

「なんだ、魔法使いがいれば安全なんじゃないのかよ」

 青年団のひとりが言ったが、

「そんな魔法が開発されたら、魔導士おれたちの仕事がなくなるよ」

とソーカルはいなし、作業は開始された。


 場所は山道。道の北側に崩落した斜面、南側には下り道の林が続いている。適度に人の手が入った林は明るくて風通しがよい。

 復旧の手順に従い、まず土砂から水を逃がすための溝を掘る。

 その後、水魔法が得意なキーチェが、地下の水の流れを調整して、溝を使って効率的に水を排出した。

 問題は、ここからだ。

 状態を観察していたトレフル・ブランが、面白くなさそうに告げる。

「倒木が、めんどくさいね。一気に取り除くと、ダムの崩壊なんかといっしょで、土砂があふれてくるんじゃないかな。浮かせるのはやめて、切断するのが正解だと思うよ」

「だな。大きさは適当でいいか?」

「再利用するので、このくらいの大きさでお願いします。あ、枝葉も切ってください」


 トレフル・ブランがこの手の事態に慣れているのは、本人いわく「孤児院生まれ、森林育ち」だからだそう。偉大な魔法使いに弟子入りした彼は、自然の険しい森の中で魔法を学びながら育ったそうで、自然科学に詳しい。


 ソーカルは風の刃を使って、子どもの胴ほどありそうな倒木を、次々切断した。

「おぉー」

 青年団とともに、ユーリも拍手を送る。

 簡単にやっているように見えるが、断面や枝葉の処理も丁寧。なにより、彼は常時魔法を展開して、音を拾っている。並行処理が増えるほど、より技術が必要になるのは当然のことだった。


「それで、再利用って?」

 トレフル・ブランの指示通り、枝葉を拾い集めるユーリとキーチェ。

 トレフル・ブランは、少し離れるように告げると、少し長い呪文を唱えて、自動人形ゴーレムを作り上げた。

「すげぇ、初めて見た」

 青年団たちが、興味津々で眺めているゴーレムは、丸太と泥と枝葉で作られている。ちゃんと髪の毛らしきを乗せているのが、彼らしい細部だった。


 重いものはゴーレムに任せて、人間たちも土砂撤去作業に加わる。地道にスコップで、南側の斜面へ捨てていく。

 ここで、ようやくユーリにも活躍の機会が訪れた。

「全員いったん、退避してくれ。

 ユーリ、土砂の中から出てきた岩を、お前の火炎魔法で砕け」

 ソーカルの指示で、喜んで魔法銃を取り出すユーリ。

 なんと言っても、魔法の醍醐味だいごみは派手な音と光だと、ユーリは思っている。

 そんなユーリに、友人たちがちくちくと釘を刺す。

「すごーく小規模な爆発でいいんだからね」

 というトレフル・ブランの言葉に、キーチェが、

「大が小を兼ねる物事ばかりではありません。時には繊細さこそが重要です」

と重ねた。

(ひとを爆破魔みたいに言わないでほしいなぁ)

 一般人もいる場で、危険な真似をするつもりはない。

 ユーリは、なるべく対象に近づいて、正確に、だけど光だけは派手に魔法を放つ。


 ――パン、パン、パン!

 意外と軽い音がして、岩は砕け散った。


 しかし、順調だったのはここまで。

 雨が、降り始めた。

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