第11話「実家が没落したらしいですが、僕は農作業で忙しいです」

 季節が巡り、収穫の秋が近づいてきた頃。

 ボロボロの服を着た一団が、農園の門を叩いた。


「ノ、ノア……! ノアはいるか!?」


 聞き覚えのある声。

 現れたのは、かつて僕を追放した父と、二人の兄だった。

 かつての威厳ある姿は見る影もなく、頬はこけ、目は血走っている。


「父上? どうしたんですか、その格好」


 僕がクワ片手に対応すると、父は泣きつくように柵にしがみついた。


「アークライト家の領地が……死んだのだ! 作物は枯れ、魔物は暴走し、民は逃げ去った。お前がいなくなってから、全てが狂った!」


 どうやら、僕が無意識に屋敷の庭や畑を【土壌改良】していたおかげで、彼らの領地は保たれていたらしい。

 僕がいなくなったことで魔法の効果が切れ、土地本来の痩せた姿に戻ってしまったのだ。


「ノア! 戻ってこい! お前の力が必要だ! 今なら特別に副当主にしてやる!」

「そうだぞノア! 俺たちの魔法攻撃とお前の土いじりがあれば、また這い上がれる!」


 兄たちも必死だ。

 だけど、その言葉には「愛」も「反省」も感じられない。

 あるのは、僕を便利な道具としてしか見ていない身勝手さだけだ。


 僕は静かに首を横に振った。


「お断りします」


「な、なんだと!?」


「僕には今、守るべき仲間と、大切な場所があります。あなたたちの都合で、ここを捨てることはできません」


 きっぱりと言うと、父の顔が怒りで赤黒く歪んだ。


「貴様! 親の命令が聞けんのか! こうなれば力ずくでも連れ戻してやる! おい、やれ!」


 父が連れてきた私兵たちが武器を構える。

 しかし。


「俺たちのボスに指一本でも触れてみろ。土の養分にするぞ」


 ゴードンが大剣を肩に担ぎ、ヌッと立ちはだかった。

 背後には、武装した(というか農具を持った)ギルドメンバーたちが殺気を放って並んでいる。

 さらに屋根の上には、魔力をチャージしたシルヴィアと、巨大化したフェンが眼光を光らせている。


「ヒッ……!?」


 歴戦の冒険者と伝説の魔獣の威圧感に、父たちは腰を抜かした。

 彼らの貧弱な私兵など、比較にもならない戦力差だ。


「お帰りください。二度とここには来ないでほしい」


 僕の静かな通告に、彼らは悲鳴を上げながら逃げ帰っていった。

 ざまぁみろ、とか、スッキリした、という感情はあまりなかった。

 ただ、「過去との決別が終わったんだな」という静かな納得だけがあった。


「ノア様、大丈夫ですか?」

 シルヴィアが心配そうに覗き込んでくる。


「うん、大丈夫。……さあ、午後の作業に戻ろうか。カボチャの収穫がまだ残ってる」


 僕たちは笑顔で畑に戻った。

 ここが、僕の本当の家だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る