第08話「大商会の嫌がらせが、なぜか肥料になって返ってきました」

 市場での大成功から数日後。

 ギルド【グリーンハンド】は、不穏な空気に包まれていたわけでは……なく、相変わらず平和な農作業日和だった。


「ふんぬっ!」


 僕が気合いを入れてクワを振るうと、カチカチの荒野がバターのように切り裂かれ、美しい黒土の畝(うね)が出来上がる。

 最近、【土壌改良】のスキルが馴染みすぎて、クワを持っただけで土の機嫌が分かるようになってきた。


「旦那! 北の畑に妙な連中が現れましたぜ!」


 見張り役のゴードンが血相を変えて走ってきた。

 妙な連中? またお腹を空かせた冒険者だろうか。


 現場に向かうと、そこには黒ずくめの男たちが十数人、凶悪な顔つきで畑を取り囲んでいた。

 手には松明や、毒々しい色の瓶を持っている。

 あれは……先日の商人「金鷲商会」の手の者か。


「へへへ、生意気なガキの畑だ。燃やし尽くしてやる! あと、この『強力除草剤(猛毒)』を撒いて、二度と草が生えない死の土地にしてやるぜ!」


 男の一人が瓶を地面に叩きつけた。

 紫色の液体が飛び散り、土に染み込んでいく。


「ああっ!」


 僕は悲鳴を上げた。

 せっかく育てた土が!


 しかし、次の瞬間。


 ボコボコボコッ!


 液体がかかった場所から、凄まじい勢いで「雑草」が生えてきた。

 いや、ただの雑草じゃない。キラキラと輝く、見たこともない草花だ。


「え?」


 犯人の男たちが動きを止める。

 僕も目を丸くした。

 すぐに鑑定してみると――。


『名称:マナ・ハーブ(最高品質)。土壌の毒素を分解し、強力な魔力養分に変えて成長した薬草』


 どうやら僕の作り上げた「超・有機質黒土」は、撒かれた毒すらも栄養として吸収し、即座に分解・無害化してしまったらしい。

 むしろ、強い刺激を与えられたことで土壌菌が活性化し、爆発的な生命力を生んでしまったようだ。


「す、すごい! ありがとう! 肥料不足で困ってたんだ!」


 僕が満面の笑みでお礼を言うと、男たちは顔を引きつらせた。


「な、なんだこの土は!? 猛毒だぞ!? なんで逆に育ってんだ!」

「くそっ、なら実力行使だ! この魔物をけしかけてやる!」


 男たちが檻を開け放つと、中から巨大なイノシシのような魔獣「ロックボア」が飛び出した。

 岩をも砕く突進力を持つ危険な魔獣だ。

 それが真っ直ぐ、僕に向かって突っ込んでくる。


「危ない、ノア様!」


 シルヴィアが叫ぶが、僕は冷静だった。

 ちょうど、収穫のために手に持っていた「豊穣の鎌(カマ)」を構える。


「……そこだ」


 突進に合わせて、軽く鎌を横に薙ぐ。

 狙うのは首ではなく、足元の土。


 ザシュッ!


 鎌が空間ごと土をえぐり取った瞬間、地面が波打った。

 突進の勢いのまま、ロックボアは柔らかくなりすぎた土に足を取られ、ズボッと顔面から埋まってしまった。

 見事な一本背負い状態だ。


「ブモォ……?」


 土に埋まり、身動きが取れなくなったロックボア。

 そこへ、昼寝から目覚めたフェンがのそのそとやってきた。


「わふっ(お、肉だ)」


 フェンの一吠え(衝撃波付き)で、黒ずくめの男たちは「ヒィィィッ!」と悲鳴を上げて逃げ散っていった。

 残されたのは、素晴らしい肥料で育った薬草と、これまた良い肥料になりそうな魔獣(とお金になりそうな装備品)だけ。


「彼ら、何しに来たんだろう?」


「……おそらく、ノア様への貢物を届けに来たのでしょう。随分と手荒な配送業者でしたが」


 シルヴィアが呆れたようにため息をついた。

 嫌がらせすらも養分に変えてしまう。

 この農園の土は、まさに最強だった。

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