第07話「初出荷! 野菜の値段がインフレを起こしてます」

「ノア様、そろそろ現金の収入が必要です」


 朝のミーティングで、シルヴィアが真面目な顔で切り出した。

 確かに、自給自足で生活はできているが、衣服や調味料、日用品などは外部から買う必要がある。

 貨幣経済の社会である以上、金銭は無視できない。


「分かった。収穫した野菜を近くの街に売りに行こう」


 最寄りの街までは、馬車で半日の距離だ。

 ゴードンたちが持っていた荷車を修理し、そこに山盛りの野菜を積み込んだ。

 特大キャベツ、ツヤツヤのトマト、黄金のトウモロコシ。

 どれも自慢の品だ。


「護衛はゴードンたちに任せる。フェンは……目立ちすぎるからお留守番な」

「くぅ~ん……」

 しょげるフェンに特製ジャーキー(干し芋)を渡してなだめる。


 ***


 商業都市・ベルン。

 国境近くに位置し、多くの商人や冒険者が行き交う活気ある街だ。

 僕たちは市場の片隅にスペースを借り、野菜を並べた。


「いらっしゃいませー! 朝採れの新鮮野菜だよ!」


 僕が声を張り上げると、すぐに数人の主婦が足を止めた。


「あら、見ない顔ね。……って、何この野菜!? すっごく大きい!」

「色も綺麗だわ。これ、作り物じゃないの?」


「味見もできますよ」


 僕が切ったトマトを差し出すと、主婦の一人が口に運んだ。

 その瞬間、彼女の目がカッ!と見開かれた。


「おいしぃぃぃッ!! 何これ、甘い! それに、なんだか体がポカポカするわ!」

「私の腰痛が消えたわ!」

「昨日の夜ふかしの疲れが吹っ飛んだぞ!」


 騒ぎを聞きつけて、あっという間に人だかりができた。

 飛ぶように野菜が売れていく。

 値段は相場より少し安く設定していたのだが、客たちが勝手に値を吊り上げ始めた。


「そのキャベツ、銀貨1枚出すわ!」

「なら俺は3枚だ!」

「邪魔だ! ここにあるもの全部、金貨10枚で買い取る!」


 市場はパニック状態だ。

 どうやら僕の野菜から溢れ出る魔力が、目に見えるほどのオーラとなって漂っているらしい。

 魔術師風の男が、震える手でナスを拝んでいる姿も見えた。


「こ、これは『世界樹の雫』を含んでいるに違いない……」

「国宝級の触媒だぞ!」


 そんな大げさなことを言われても困るのだが、結局、持ってきた野菜は一瞬で完売した。

 手元に残ったのは、ズッシリと重い革袋に入った大量の金貨。

 半年分くらいの生活費になりそうだ。


「すげえ……旦那の野菜、街じゃ伝説級の扱いですよ」


 ゴードンが呆然と呟く。

 シルヴィアは得意げに胸を張っている。


「当然です。ノア様の野菜は神の恵みそのものですから」


 帰り支度をしていると、身なりの良い太った商人が声をかけてきた。

 この街一番の大商会、『金鷲商会』の支店長だという。


「君、この野菜をどこで仕入れた? いや、君が生産者かね? 独占契約を結びたい。言い値で買おう」


 彼の目は笑っていない。

 金の匂いを嗅ぎつけたハイエナの目だ。


「いえ、僕は自由に売りたいので」

「フン、ガキが。後悔することになるぞ」


 捨て台詞を残して去っていく商人。

 ああ、これは面倒なフラグが立ったな。

 でもまあ、僕には最強の仲間たちと、最高の野菜がある。

 なんとかなるだろう。


 帰りの荷車は空っぽだが、僕たちの心は満たされていた。

 自分たちの作ったものが認められる。それは何よりも嬉しいことだ。


 夕日が沈む荒野の道を、僕たちは鼻歌混じりで帰路についた。

 ギルドハウスで待つフェンが、お腹を空かせて待っているはずだ。

 今夜は、街で買った肉でバーベキューだ!

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