竜王の息吹
竜王国 王宮 謁見の間
竜王エルターニンは広大な謁見の間に座していた。謁見の間には政に関わるドワーフ達が並び立つ。エルターニンは口火を切る、
「皆の者、喜ばしい話がある。西方のエルフ達が援軍にやって来る。儂の魔術証を受け取ったエルフ達が三日後、この城の庭へ500人転送される。事故が起きぬよう、庭への立ち入を禁止する。我が国が侮られぬよう、立ち振る舞いにも気をつけるのだ。」
そう言うと翼を雄々しく広げたエルターニンは満足げにドワーフ達を見下ろす。ドワーフ達大喜びし「宴会だ」等と騒ぎ出した。エルターニンは緊張感の無い連中に青筋を立てた。
「静まれ、静まれ。」
竜の一声に謁見の間は静かになり、エルターニンは言葉を続ける。
「エルフは敵の敵だ。味方では無い。おぬしらは勇敢な300人の警備隊を率いてエルフから大砲の使い方を学べ、30門は譲ってもらう手筈になっている。15門はそのままエルフ達と肩を並べ、ヒトを迎え撃て。残り15門はアルビオンの防衛へ回すのだ。ヒト、邪悪な軍勢は想定よりも進軍が遅い。戦の準備をする時間は十分に取れる。余は飛び回り奴らを牽制する。」
恭しくドワーフ達はお辞儀をする。彼らの低い背がもっと小さくなりエルターニンのくるぶしよりも小さくなる。
(哀れで弱い種族だ。戦士ごっこをして野犬を追い払う彼らは、本当に戦うことを理解しているのか。)エルターニンは静かに彼らを見下す。
エルターニンが更に口を開きかけた時、謁見の間にあるドワーフ用の扉がバンと開く。二人のドワーフが駆け込んできた。駆け込んできたドワーフ、アルダとオニールは金鉱山『ラドンの鉄槌』での事情をエルターニンへ訴えた。ふむと考えたエルターニンは、
「500の警備隊の内20人を貸し出す。えぐれた森を辿れ。2日おきに報告をするのだ。しかし、空からでは何も異変は無いように感じたが、画家も連れて行け気になった箇所は描かせろ。儂も確認したい。さて、アルダとやら、今は金の行方を追うよりも、この国難を乗り切ることが重要だ。虚偽の記録を精査することは非常に時間がかかる、この戦に勝ってから検証を進めるべきだ。そうではあるが、お前の忠誠心に感謝する。」
と言うと、アルダとオニールは恭しく礼をし、謁見の間を後にした。
「さて、皆に夜よりも暗い話をしなければならない。・・・ヒトの王、黄金の魔王アーギルが我らの都を睨んだ。儂は暁に輝く黄金の鎧がアルビオンの大門を一望できるカナイの丘へ掲げられたのを見た。」
エルターニンがそう言うと、ドンドン、ガンガンと地を踏みしめ鋼鉄がぶつかる音が俄にドワーフ達の耳へ入る。音は徐々に大きく鳴り始め、ラッパが響く。謁見の間にいた地質学者のドワーフはうつむき口を小さく開ける。
「休め?休憩?彼奴ら休憩してる。」
彼は素っ頓狂な顔でポカンとエルターニン達を見た。その顔を見たエルターニンは淡々と説明する。
「奴らは大門の前、一息のところで野営をするつもりだ。あの合図は、休憩じゃなくて野営の準備だな。覚えておくと良い。生き残れたら役立つ機会も有るだろう。我らはエルフを待つ機会が与えられないかもしれない。物見へ貼り付け。投石機を引っ張り出し、家を崩して弾にせよ!さあっ、かかれアルビオンの護り手達よ、邪悪の徒を白亜の礫で討ち滅ぼせ!!」
轟く竜王の命令はドワーフ達の心臓をもみほぐし、いきり立ち猪と化したドワーフ達は謁見の間を礼も無く、飛び出す。彼等の足元からパララと湿った藁が舞う。
「エルフ達はあと一日で来る。耐えしのげばなんとかなる。母レイアよ、私に勝利を。」
とエルターニンは自らへ鼓舞し、震える手を押さえ、謁見の間をノッシノッシと大股で後にする。
ヘレナは外の喧騒をよそに彼女の寝室で物書き机の椅子へ座り、再びウキウキとしていた。兄へ手紙を送ってから3日、そろそろ返事の手紙が来る頃だ。これまで兄からの手紙は全てひとまとめに鞄へ入れている。彼女は自身が自由になった際、その鞄を抱えて着の身着のまま兄の元へ行くつもりなのである。
「早く届かないかしら。ああ、楽しみ。お手紙セットの準備をお願いします。きっと今回も素敵なお手紙に違いないわ。」
ヘレナは手を組みアルビオンを向き祈る。次女達はなんとも言えぬ複雑な表情である。
それから幾ばくもなく扉のベルが鳴り、老侍女が小さな若木がとめられた封筒を持って息を切らし入ってきた。ヘレナは花のような笑みを浮かべ、待ちきれず椅子からガタリとはしたなく立ち上がり、彼女は老侍女へありがとうと言い抱きついた。しばしの抱擁を終えヘレナは老侍女から封筒を受け取った。ヘレナは封筒を物書き机へ置くと、彼女は態度を一変させ侍女達を部屋から追い出してしまった。ヘレナは竜の装飾が入った小さなナイフで封蝋を慎重につつき若木を外すと、木の下から小さく折りたたまれた紙が転がり落ちた。手紙の内容は7日後にアルビオンの大門へヒトが進軍して来るとのことで、その先導を兄の友人達が請け、兄は竜王とヒトが戦っている間にヘレナを迎えに行くと書かれていた。
「なんて、なんて勇敢なドワーフなのかしら!16にこの城へ連れられ7年間囚われてきた。ようやく逃げ出せる!」
彼女は感極まり落涙し、震える手で封筒から一通の手紙を取り出す。手紙には、
『我が槌と斧そして妹に誓ってこの愛を示す。』
と力強い筆跡で書かれていた。ヘレナは返事の手紙を書こうとしたが逡巡し、彼女は2枚の手紙をその場で食い、侍女を呼んだ。
「入って!お兄様は手紙を入れ忘れたみたい!」
ゾロゾロと入ってきた侍女達はそうでございますかと納得し、老侍女はヘレナへ手紙を送るかと尋ねた。
「いらないわよ。うっかり者のお兄様には、私と同じく寂しい思いをしてもらうのだから。」
ヘレナはニッコリと微笑んで髪を指で梳く。老侍女は何かを言いたそうにしたが、口をつぐみヘレナへ黙礼をし、彼女の寝室から早足で立ち去った。
王都アルビオンは阿鼻叫喚であった。かつて、竜王ラドンとその妻レイアが魔術によって一日で作り上げた白亜の街は、暴れる戦士の格好をした老人達、盗みを働く子供、逃げ出す親子そして家々を崩す警備隊員凡そ100人によって荒れ果てた。警備員達は戦槌で白亜の石を砕き馬車の荷台へ放り投げる。たちまち満杯となった荷馬車は大門へ走る。男達は半裸になって運ばれた瓦礫を門上へ滑車によって引き上げ滝のような汗をかく。門上の瓦礫は、所狭しに並ぶ古ぼけ小ぶりな投石機の麓へ、ゴロゴロと集め置かれる。そのような者達を余所に街の若い男達は街の外れに集まっていた。男達の中心へ立つのはドナンという若者だった。ドナンは小さな木箱へサッとおどり上がると、
「ドワーフの偽りなき戦士達、そしてその子孫達。槌と斧を持っているか!」
ドナンの叫びに男達は応と答える。
「我が名はドナン、ドワーフ族の族長の子孫である。我が妹ヘレナはかの邪竜エルターニンに囚われている。卑怯な邪竜はそのように我らを脅し、そして恐れても居る。」
ドナンそう言うと、諸手を挙げて男達を見渡す。男達はゴクリと唾を飲んだ。
「王宮内は華美な黄金で彩られ、太陽を遮る垂れ幕は桃色、寝室は宝石が埋め込まれた家具が並ぶと言う。」
そう言ったドナンはパンと手を鳴らす。男達も手を鳴らす。
「我々は白いつまらない家に住み、俺達は不味い飯を食い、冷たい鉄の机に泣いている。そして今、まさにそのつまらない家も奪われようとしている。だが、だからこそ俺達の不屈の血は獣人の圧政をはねのけたように、今度は邪竜をはねのけるのだ。」
ドナンの言葉へ男達は欲望へ目をギラつかせ、そして待つ。
「取り戻せ!!」
ドナンが拳を振りあげる。取り戻せ!!取り戻せ!!とドナンと共に男達は拳を振りあげ叫び、やがて掲げられる手には槌と手斧が握られ、彼らははち切れんばかりの理不尽な怒りをため込んだ。ドナンは目一杯息をため、
「ホオオ、誇りを!!・・・取り戻せ!!」
と彼は大声を張り上げ、雄叫びをあげる暴徒達を先導し、ドカドカと無秩序に王城めがけて走り始めた。
一方、大門を望む丘へ野営地を構えたスペンサ王国軍は戦の準備を整えていた。大砲を馬が引き、兵士達は銃を掃除し、戦車達は背の砲塔を竜王の王宮へ向けていた。
「誰か!おるか!」
機械的で力強い老人の声が野営地へ響く。
「こちらに、先王。」
白銀の鎧に身を包んだ騎士クロメスがひときわ大きい戦車、先王アーギルへ跪く。戦車の上部にはアーギルの鎧が指揮椅子へ固定され鎮座する。
「ドワーフの間者はどうしておるか。あの大門を避けて通る道は見つけられたか?あの竜の気がそらせれば仕留めやすくなるのだが。」
「殺しました。騎士ヴァロスが抜け道の捜索は行っておりますが、未だ発見出来ておりません。」
クロメスの返答を聞いたアーギルは戦意をたぎらせ、側面から伸びた鋼鉄の細腕を車上で組む。
「今攻撃しよう。あの大門の惨状を見ればエルフ共の到着を待つまでも無い。門がアルビオンに近すぎるのは嬉しい誤算だった。丘を降り三時間ほど進めばアルビオンを狙撃できる。」
アーギルは鋼鉄の腕を持ち上げ、大門の左手に建ち並ぶ白亜の街を差す。
「かの兵器は丘へ隠します。」
クロメスはアーギルの言に頷き、提言した。アーギルは良きに計らえと言葉を残し、ゴリゴリと鈍重な音を立て野営地を走り始めた。
本隊から離れ、鎧の騎士ヴァロスは8人の兵士を引き連れ抜け道を探し山間の森を進んでいた。ヴァロスは兵士達を止め肩に掛けたライフルの紐を外し、腰だめに構えゆっくりと歩く。兵士達は姿勢を低くし木陰に隠れ先行するヴァロスへ追従する。彼ら慎重に進んで行くと彼等の前に出て美しい池が静謐にたたずんでいた。ヴァロスは俊敏な動きで木陰に息荒く隠れた。
「森が、削れている。破壊痕は彼方から始まり池で止まる。私はこの様な現象を見たことも学んだことも無い。おまえ達は何か心当たりがあるか?」
ヴァロスの問へ1人の兵士が震える声で答えた。
「ロイです。私はヒュプリムでユニグラムの処理作戦に参加しておりました。その際に山間の森へ立ち入ることがあったのですがその時の破壊痕と酷似しております。」
「恐るべきユニグラム。生きていたのか。池へ入ったのかそれとも出て行ったのかは解らないが報告しなければ、撤退するぞ。奴は近くに居るかもしれない。」
ヴァロスは兵士共に脱兎の如く撤退したが、彼らの報告の前にアーギルはユニグラムの懸念について気にするなと一言で切り捨てた。
「ヴァロスよ、お前が見つけたその道は放置せよお前には騎兵隊を率いてアルビオンを蹂躙せよ。大門は我らの大砲が打ち砕く。」
アーギルの命令でヴァロスは礼を取り、足早に騎兵隊の将校達の天幕へ向かっていった。
天幕へヴァロスが入ったことを確認したクロメスは先王の巨体へ向き直り、
「先王アーギル、ご英断を。」
と訴えた。
「戻ってきたのかクロメス、お前は急ぎ本国へ戻り、王へユニグラムの生存と場所を伝えよ。我らは奴の餌だ。ここに必ず奴は現れる。お前が間に合えば再び陸上で戦えるかもしれない。」
クロメスは王の言葉を聞くや否や馬の手綱を引く。
「先王、さらば。」
「儂の船に乗れ。一番速度が出る。」
クロメスは王へ会釈をすると、転がった先王の兜を拾い上げ、馬へ飛び乗り風の様に走り去った。
『ラドンの鉄槌』 元鉱山
アルダとオニールは着の身着のまま屈強な警備隊員20名を連れ『ラドンの鉄槌』の件の金網まで進んでいた。隊員達は異様さに気付き腰の戦槌や戦斧へ手を伸ばす者も居る。
「この異質な道は私たちが先行します。」
緊張で震える声アルダ達へ隊長が声をかけ、3人の隊員と共に他の土と比べて異様な硬さの地面を馬の腹をけって先行し始める。動向した画家は欠けた金網や、そこから覗く殺風景な鉱山を手早くスケッチする。トンネルのようにぽっかりと森に開いた穴はどこまでも続いているようだった。綺麗に丸く削れた木々の断面はツルツルとしたさわり心地でとても奇妙だった。アルダとオニールが指示する箇所を絵描きが記録する。削られた木々が彼らへしなだれかかり、その度に身をかがめ木の葉を手で払い黙々と道を進む。
「結構長いですね。」
「そうですね、いつまで続いているんですかね。」
アルダの呟きを隊長が拾う。オニールは少し早く進みませんか?と全員へ問うと皆賛同し、早駆けを始めた。
一行が馬へ休憩を取らせること2回、不気味な痕跡を辿るアルダは森から覗く太陽を確認し、
「ちょっと暗くなってきましたな。戻りましょうか。」
と同行する一行へ訴えた。それに同意した隊長は更に提案した。
「ではここで野営しましょう。朝にここから引き返して竜王様へ報告を。」
一行はいそいそと馬から毛布を外し、カチカチの地面から離れたふかふかの若草へ敷いた。荷物を置いて毛布へ寝転がったオニールは、床へ置いた背負い物からカチカチのパンを取り出すとナイフで少し削り取り口へ含んだ。パンは唾液で少し柔らかくなりオニールはモクモクと咀嚼を始めた。幾人かの兵士達は既に寝入り、アルダも大あくびをする。画家はまだ明るいうちにとせっせと絵の細部を書き込んでいる。
トンネルでアルダが寝入る頃、竜王エルターニンは巨大な翼を広げ、大門の上で寝ぼけるドワーフ達を尻目に進軍を始めたスペンサ王国軍を空から見下ろす。太陽が陰り赤銅の光線がカナイの丘を照らす。ひときわ大きい戦車は鏡面のように太陽の光を吸い込むとレグルスの宝剣の様に赤く輝き、まるで太陽が地上に降りたようにも見える。エルターニンはアーギルの黄金鎧を見つけた。息を吸い込んだエルターニンは声を張り上げ先王アーギルへ呼びかけた。
「強欲な魔王アーギルよ。ゴテつく金の鎧を身に着けた臆病者よ。かつてスペンサ王国の国王は竜を前にわきまえていた。父、ラドンはおまえ達の謙虚な姿勢を称え、己の息吹で鍛え上げた青銅の鎧をおまえ達へ下賜した。だが、青銅の鎧は既に朽ち果ててしまったようだな。軟弱で重い黄金でクジャクのように身を飾り何と嘆かわしく、哀れなことか。ここで止まり国へ引き返せ!おまえ達の先祖に免じ、此度は赦そう!」
エルターニンの弁へアーギルは装甲を少し開き、機械じみた恐ろしい声で叫ぶ。
「この鎧は富と力の象徴。お前らの慈悲など、我が国の歴史には無い。何故お前は300年前の戦の如く、両国を隔てる山脈を迂回する我らの船へ襲いかからなかった。それ程に我らが恐ろしいか!臆病で恩知らずなペットを飼う間抜けな男よ!お前の藁が敷かれた臭い城を焼き払ってやろう!」
アーギルの声に一気にスペンサ王国軍は進軍を始める。騎兵隊が駆け出し、大砲は大門とアルビオンを狙う。
「愚か者共が。」
エルターニンは長年積もった埃を払い落とすかの如く、ウンザリとそう吐き捨て、アーギルの目の前へ隼よりも速く急降下し、根を張るようにドシンと地に着地する。向い合った両者はほぼ同じ体躯であった。アーギルは後方の王国兵を挽きつぶしながら後退し、背の大砲をエルターニンへ向ける。黄金の鎧はアーギルの背から地へガシャリと振り落とされ、泥にまみれた。エルターニンは大砲を掴もうとドシンと地を揺らし追いすがるが、集敏なアーギルを捕らえられずアーギルの砲撃を顔面に受ける。エルターニンの顎の鱗が爆ぜ、頬の肉が削げ、竜王はのけ反るが腕の3倍太い尾を地に張ると、ロケット噴射のような竜の息吹をアーギルへ向ける。アーギルは轟音と暴風を立てる息吹から逃れるためエルターニンから離れるが、灼熱の息吹はアーギルを炙る。その白銀の装甲はやや赤みを帯び歪み、彼の背に取り付けられた大砲の弾倉が誘爆して大爆発を起こした。竜の息吹の熱波を受けた騎士や兵士は瞬時に体がバラバラになり、焼け焦げ、積み上げた木屑へ息を吹きかけたようにポーンと彼方へ吹き飛ぶ。遠い者は炭化した。竜の息吹を走り回るアーギルへ吐き続けるエルターニンの喉を強かに背後から忍び寄ってきた戦車が至近距離から砲撃し、一目散に離れていった。エルターニンの喉はグニャリと歪み、彼はたまらずえづいた。歯を剥き出しに青筋を立てた竜王は卑怯な戦車を睨んだがそれも束の間。エルターニンの頭が激しくガクンと揺れた。側面の装甲を外したアーギルが鋼鉄の腕に隠すように取り付けられた鋭い砲弾を飛ばし、再びエルターニンの後頭部目がけて突き立て爆発させたのである。エルターニンは後頭部から鮮血を垂らしながら器用に尾を這わせ体制立て直そうと試みたが、尾を他の戦車に捕まれる。うっとしそうに振り返ったエルターニンの柔らかい喉へ再度砲弾が直撃し、苦々しげに彼は翼を1度はためかせて家一軒分飛び上がった。これはエルターニンを不利にした。飛び上がる竜王めがけて戦車達は雨の様に砲弾を飛ばす。エルターニンは咳き込みながら咄嗟に尾へ張り付いた戦車を盾にした。その刹那に盾にした戦車が爆発し、まき散らされる破片が彼の右眼の瞬膜を傷つけた。更に、砲弾はエルターニンの見たことも無い形で細長く鱗へ当たるとひしゃげ、最強の鱗はその度ヒビが走った。アーギルはこの期に乗じ野営地へサッサと退避し、熱でひしゃげた装甲と爆発で破損した背の大砲を取り替えていた。
王城の城門へ息を切らして走りついた愚かなドナンと暴徒達は荒い息で肩を怒らせ、気力を全身へ満たしていた。城門の両脇には広大な向日葵園がドワーフの事情など知るかと、美しく眩しい程に広がる。街での怒号と威勢は竜王の威厳へ吹き飛ばされ、頼りない武器を持つ彼らの表情は緊張に満ちていた。竜王が城へ戻れば己の末路は決まったようなものである。怒りの炎は文字通り彼らを一片も残さないだろう。ドナンはここで尻込みしていた。真っ先に入りたくはなかったが暴徒達はドナンが扉を開くのを、ぎょろつく目を彼へ向けて固唾を飲み待っている。
「警備隊が居なかったのは幸いだった。さあ、おまえ達先に入れ、俺は後方から来る警備隊の警戒をしてから城へ入る。俺は皆が心配なだけだ。」
腰の引けた物言いに暴徒達は呆れかえり我先に城門へ手を掛けたが、一分も動かない。男達はウーンと顔を真っ赤に、門を引っ張る。彼らが身体をピンと張って全身で門を引っ張ると、勢いよく門が開き男達は吹き飛ばされた。ドナンも吹き飛ばされ向日葵園へ埋もれた。扉からは灰色の小札鎧を纏ったエルフ達が駆け出した。エルフ達は弓を迷い無くドナン達向け、矢をつがえると一斉に指を緩めた。一斉に放たれた矢は鳥のように飛び、ドワーフ達の頭蓋を穿ち矮躯の男達は次々と四肢を萎えさせる。ドナンは倒れたまま身じろぎしない同胞へ隠れた。エルフ達の先頭に立つ、馬の尾があしらわれた兜をかぶったエルフはドナンのわからない言葉で叫ぶと大門を見事な赤い弓で指す。それを聞いたエルフ達は死体すら確かめず、エルフ式のずんぐりとした大砲を引いて大門めがけ大急ぎでドコドコと駆け出した。ドナンは小さく浅い息をゆっくり吐きながらエルフ達が去るのをじっと待った。次第に彼の耳へ生き残りの同胞達がつく吐息が聞こえてきた。ほっとしたドナンはゆっくりと立ちあがると、彼と同じ事を考えた3人の男達がノソリと起き上がっていた。ドナンは転がる同胞を目に映さないよう城へ入った。
「何処にお宝があるんだ?もうエルフだったよな?それは居ないよな?」
男達の一人が心細げに言うとドナンはニヤリと笑い無言で人差し指を立てると、一行は左手に見える階段へ駆けていく。
「友よ、エルフはきっと邪竜がヒトと戦うために呼んだ。そう俺は考えている。あいつらが慌てて、貴金属の音も立てずに城から出て来たのは遅れたからだ。でないとここに警備隊が居ないのは不自然だ。略奪もしていないから俺達の宝も残っているはずだ。」
ドナンは駆けながら得意気に皆へ話すと、彼を含めた男達はたちまち欲望の火を己にたぎらせ、目一杯短い足で巨大な王宮を駆け抜けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます