竜王国編

パンゲアの竜

竜王国王宮

 竜王エルターニンは真っ白なドワーフの妻ヘレナと遅めの夕食をとっていた。食堂の窓には分厚い桃色のカーテンがかかり、室内は暖かな明かりに照らされている。王宮は竜の巨躯へ合わせた大きさで作られ、巨大な扉に大きな庭、更にはエルターニンの使う魔術塔がそびえ立っている。竜王国の王都の名をアルビオンと言い、エルターニンの父ラドンが名付けた300年の歴史を誇る都である。

「私は恐ろしゅうございます。」

ナイフで魚を切り分けながらヘレナは言う。エルターニンは何故?と問う。

「東の海から狂人達が再び我らを襲おうとしているそうではありませんか。それを嘆かずにどうしろと。」

「おびえることはない。竜王である儂が追い返そうではないか。あの邪悪な王も討ち取ってくれる。お前は儂の帰りを待てば良い。」

妻の嘆きにエルターニンは意気をまく。炎の吐息が口へ運んだローストビーフを焼きウェルダンにした。

「死を恐れぬ戦士達に何時までおびえれば良いのですか?いっそのこと、あなたがあの悪党達の伏魔殿をガラス細工のように溶かしてしまえばよろしいのでは?」

「そのようなことをすれば、儂もただではすまん。そうなればおまえ達を守れなくなる。西のエルフに信書を送っておる、もう暫しの辛抱だ。」

そう妻を落ち着かせるようにエルターニンは穏やかに伝えたが、ヘレナはキッとエルターニンを睨み。

「そんなことをおっしゃって、あなたは死ぬのが怖いんだわ!ドワーフの血が流れていないあなたにはね!」

ヘレナはナイフを皿へ置くと侍女を連れてさっさと部屋を出て行った。エルターニンはそれを見送ることしかできなかった。

「おまえ達だけでは勝てないのだ。最早、槌と勇気だけでは国は守れないのだ。そしてこの儂も。」

エルターニンは以前のスペンサ王国との戦いを思い起こす。高速で飛来する岩玉、どんな戦士でも一撃で葬ってきた魔術で死なない人外の戦士達。エルターニン最強の技、竜の息吹によって終結した戦。

「ドワーフは儂に頼りロクな武装をしない。言っても、言っても阿呆みたいに儂へのおべんちゃらを並び立ておって!あの横着者の木偶共が!その口は川辺に浮く枯れ葉のような奴らだ!800年前、父と共に獣人の奴隷となっていた奴らを解放し、同胞達と再会させたのは誰だ!この豊かな国を与え、今まで守ってきたのは誰だ!儂だろうが!!」

エルターニンは激怒し豪腕でテーブルへ拳を振り下ろそうとしたが、その腕は力を失い床へ垂れる。エルターニンは激しく瞬きをしながら呼吸を落ち着かせ、誰も居ない食事処で項垂れ鼻先が冷えきったスープへ浸かった。


 寝室へ戻ったヘレナは早歩きでベッドへ向かいながら荒々しくティアラを外し、それを粗雑にダイアモンドや黄金で装飾された化粧机へ放る。侍女が慌てて布巾でティアラを掃除し紙へ包み込み、箱へしまう。

「奥様!奥様が王妃殿下であらせられたとしても、王家のティアラをこの様に粗雑に扱うなど。」

老婆の侍女がヘレナへ詰め寄り苦言を呈する。

「この冠は私の物、竜王の妻など私しか居ないのです。私の物をどう扱おうと私の勝手です。唾棄すべき冠、私をアルビオン一の歌姫から引きずりおろし、この狭苦しい檻に閉じ込める!」

「どうか落ち着いてください。お兄様からのお手紙をお読みしましょう。」

ヘレナは老侍女から封筒を受け取りボスンとベッドへ腰掛け、待ちきれない様子で強引に封蠟をちぎり中の手紙を取り出すと、一枚の紙が出てきた。彼女は手紙を読み始めた。手紙にはヘレナへの愛が綴られた文が3行ほど書かれていた。

「今回も素敵なお手紙でした。お返事の準備をして。とびきり綺麗な色紙を。」

ヘレナは手紙を窓際の物書き机持っていくと、柔らかな豚皮の椅子へ腰を下ろし侍女達に用意させた手紙セットを開いた。手紙セットの中にはエルターニンがこしらえた美しい硝子ペン、筆置き、文鎮、シール類が納められていた。シールの糊からは香ばしい香りが立ちこめる。ヘレナは侍女から透かしが入り、薔薇の香りが付いた桃色の用紙を受け取ると、先ず紙の四隅にハートやクローバーの形を模したシールを貼り付ける。ヘレナの側で若い侍女がインクを調合し彼女へ渡す、彼女はありがとうと青色のインク壺を受け取ると手紙をゆっくり書き始める。手紙は再会を楽しみにすることやまた歌いたいことを記し、ヘレナはウーンと部屋の天井を仰ぐ。天井には夜間でも明かりを灯す特殊な石がはめ込まれ、部屋は夜間でも読書や物書きが出来る。それからヘレナは文の末尾に傘のシールを貼り付けたが、糊が古くなっていたのか傘の一部がちぎれてしまった。

「まあ。書き直しましょうか。しかし、同じ言葉を書き写すのはちょっと気に入りませんね。そうだ。」

ヘレナは傘のシールを少し削り取った。

「なんて立派で雄々しい戦斧でしょう。見事だわ。乾かしてください。」

ヘレナは椅子を左にずらして老侍女を呼んだ。老侍女が手紙へ手をかざすと手紙へ乗ったインクはあっという間に乾いた。ヘレナはニッコリと微笑むと紫色の封筒へ丁寧に手紙をいれ、若い侍女から蠟を受け取ると封筒へ垂らした。

「奥様左手が蠟の側に、危ないです。」

若い侍女は慌てて警告したが既に遅く、アチチとヘレナは火傷してしまっていた。

「ごめんなさい。呆けていたわ。」

ヘレナは素早く指輪で蠟を押し老侍女へ封筒を押しつけ、次女達から手当てを受けた。

「次の手紙が恋しいわ。」

うっとりとヘレナは呟いた。


 竜王国財務官のアルダは同僚のオニールと共に馬車に乗り、竜王国最大の金鉱山『ラドンの鉄槌』鉱山査察へ向かっていた。

「どうせ今年も指摘なしだと良いが。」

「そうでないと私達が忙殺されるよ。」

オニールの呟きへアルダは彼の気持ちに同意し返事を返す。オニールは耳たぶをひと触りすると、皮の鞄へ二人で読み合わせをしていた報告書の束をしまう。彼らは連日定期査察をしていたのだ。鉱山査察では保護具やベル、トロッコの歪み等をチェックされ問題が指摘された場合は稼働が休止、改善指導に従い改善を行う。改善されない場合は担当箇所の職員を総入れ替えするといったものである。また、竜王への報告は緊張するものであり、場合によっては竜王が激怒し鉱山へ乗り込むことも過去に数度起こっている。そのため、査察は彼らにとって非常に大きなストレス要因となっている。

「それでお宅で預かっている兄さんはどうしてる?相変わらずか?」

「そうですね・・・。ドミナさんは相変わらずヘレナ王妃殿下のことを恋慕していますよ。」

「そうか。手紙のやりとりはしているのか?」

「ええ。一応血のつながりはあるそうで。」

しばらく車内で沈黙が続いた後。

「手紙の内容を確認したことは?」

「ありますよ。ただし、はっきりと言うのは不敬に当たると思いますね。そんな内容でした。」

「兄さんと同類か・・・。どうなってんのかね、この国は、竜王は。」

アルダは気怠げに人差し指をこめかみの所でクルクルと回す。

「それはそうと、ヒトが大軍勢を率いてこちらに向かってきているそうですよ。戦争が近いです。」

「お蔭様で物価も高騰してるからな。それで、何処まで攻めてきているのか解っているのか?」

オニールはアルダへ向けて身を乗り出す。アルダは神妙そうな顔をオニールへ寄せる。

「王都警備隊の友人曰く、ヒトの王、黄金の魔王も魔術で作り出した魔獣に乗り、出陣しているそうです。既に我が国の領有地を踏み荒らし、暴虐の限りを尽くしているそうです。」

アルダの言にオニールは頭を抱えた。

「300年前のかの戦いを再び起こそうというのか。漁港に居る獣人との間の子共は死んでもかまわんが、偉大なる竜王様、今回も我らをお救いください。」

そうオニールは東にある竜王の王宮を向き、両手をガップリと組んで祈りを捧げる。アルダもそれに倣い祈りを捧げる。

すると突然、馬車が止まる。動揺する両者へ、すぐさま馬車の扉が開かれた。腰から戦槌を下げた、筋骨隆々の半裸の益荒男が顔を見せる。ドワーフの自称戦士アーダンである。現在のドワーフ社会において戦士は存在しないため、彼は戦槌を持ったフリーターである。

「鉱山の様子がおかしいです。朝食の煙が見えません。ヒト族の尖兵が攻撃したかもしれません。」

「では馬を駆って見てくるのだ。中に何も居なければ我々が調査する。」

アーダンの報告へオニールが指示をする。アーダンはペコリと頭を下げ、馬の綱を解き、

「私がこの笛を鳴らしたら脇目をふらずお逃げください。よろしいですね!」

そう言うやいなや、ヒラリと彼は馬へまたがり街道から外れ草地を通り金網に囲われた鉱山へ向かった。


 先刻まで偵察を行っていた竜王エルターニンは、青空からバサリと城の庭へ舞い降り、王城の魔術塔へどしどしと入り込んだ。エルターニンは塔の一室へ入ると、そこに吊された扉へ手を当てる。

「父よ、儂、私が一体何をしたというのだ。海は見たこともない、暗黒を煮詰めた船に溢れかつての美しい様は思い出すことができない、既にあの邪悪の手先は我らの城から街4つ程に迫っている。西のエルフ達からは返事は無い。使者は三年前に送った、裏切られてしまったのか。」

天井から差す陽光が彼の顔を陰鬱に写す。エルターニンは部屋の隅に安置されている赤い宝玉へ向かい合うと手を翳す。宝玉は様々な色へ変わり最後には青色に輝いた。エルターニンは「あっ!!やった!やった!」と叫び飛び上がり、王宮の謁見の間へ扉を蹴破るように駆け出した。その様子をコッソリ盗み見ていたヘレナは隠れエルターニンが立ち去るのを待ち、扉が吊されている部屋へ入った。おっかなびっくり彼女は部屋へ入ると、先ず青色へ変色した宝玉へ目が行った。うっとりとしたヘレナは、

「なんて綺麗で立派な宝石なのでしょう。私のベッドへ飾りたいわ。あら?あれは何でしょう?」

ヘレナは宝玉から目を離して次は扉へ興味を持った。ゆっくりと彼女は扉へ近付くと扉へ触る。

「立派な扉、寝室の扉にでもするつもり?綺麗ね。でもこれは良くないわ。」

扉には無数の文字が一定間隔で刻まれており扉の優美さを台無しにしていた。気になったヘレナはカリカリと文字の端を削った。

『望みを言え。定命の者よ。』

すっきりとした壮年の声が響く。ヘレナは驚きつい、

「私は自由になりたい。好きな歌を歌って、もっと大好きな家族に会いたい。」

望みを口にした。

『容易いことだ。だが、やってもらいたいことがある。変種の女よ。エルターニンの最も愛する女の血を奴の使う杯へ注ぐのだ。』

ヘレナは扉の言葉にすがるように頷くと部屋から駆け出した。


 一方、金鉱山『ラドンの鉄槌』では、アーダンが斥候から戻りアルダとオニールへ状況を知らせた。

「では、誰も居らず、門から出た様子は無く、森に隣接した右手側の金網が裂けていたと。」

アルダは馬へ乗るとオニールの手を掴み馬上へ引っ張り上げる。

「戻りましょう、街に。まだ兵士が略奪中かも知れません。」

アーダンの提案を聞かず、アルダは馬を走らせる。

「略奪中の兵士を誰が討伐するのだ。警備隊は皆、王都へ唯一繋がる大門へ詰めている。竜王様は偵察と防衛に専念される。居ないのだ、守る者が。」

ピシャリとアルダは断言した。それから一行は一言も話さず、鉱山へ向かう。

鉱山へ着いた一行は先ず裂けた金網へ向かった。背の高い草をかき分け進むこと遂にくだんの金網へ到達した。金網は縦に裂け、ドワーフ2,3人は通れる程の大穴が空いている。その先の草地と木々は削れたように消えており異様さを醸し出す。オニールはしゃがみ込み、裂けた金網の断面を指でつついた。金網はボロボロに腐食しボロボロと崩れる。

「これは随分と腐食が進んでいる。金網の表面は僅かにこすれた後がある。きっと硬い何かが此処を通ったはずだ、鎧を着たヒトであると考えられる。」

アルダは穴から拠点の中を覗く。中には転がったトロッコとこぼれ落ちた金、銀、銅鉱石、物置、休憩所、1階の窓が割れた2階建ての寮を兼ねた監督舎が見える。

「建物の扉は無い、死体や血痕も無い。異様だ、皆居なくなっている。我々は何か悪い夢でも見ているのか?」

アルダは総毛立ち震えた。兎に角中へ入りましょう!とアーダンは2人を馬へ誘い、彼らはその場での調査を終了し、鉱山の採掘拠点正門へ周り、正門へ馬をつなぎ3人は拠点内へ入る。先ず坑道が全て水で満たされていることを確認した一行は監督舎、物置、休憩所を順に調査する。最後の休憩所に入った一行は手当たり次第に引き出しを開けていると、お!とアーダンは声をあげた。アルダとオニールはアーダンへ駆け寄るとアーダンは菓子の箱を手に持っていた。アーダンは2人の顔を見て語り出した。

「私は甘党でして。目がないのです。この箱はレアものでして水に落としても中が濡れないもので、5年前に西方から一度入ってきました。つまり中には」

アーダンは箱を開けると、中には崩れた干菓子が4つまみ程入っていた。彼はそれを取り出し、軽く解しクンクンと嗅いで少し手に取り舐める。

「おお、1,2年前ですねこれは。風味が悪く、湿気っております。」

アーダンの珍妙な発言に二人は肩をすくめた。

「バカなことを言っているな!全く何も記録が残っていませんね。書類も衣類も無い。国庫の入庫記録を確認しなくては。」

そう言うとアルダは床に転がる朽ちた釘をつまみ上げる。

「いつからだ?いつからこんな事が?この金山では先月も金がとれていたはず・・・早く竜王様へお知らせしなくては。」

オニールはアルダとアーダンへそう言うと一行は拠点から飛び出した。


スペンサ王国 王宮

 レグルスと従者達は謁見の間へ向い王宮の回廊を歩く。回廊は優美な庭へ面し、空は晴天、心地良い風が回廊へ流れ込む。

「良い天気だ。そして、良い日だ。」

レグルスは周囲を少し見渡し、ぴょんことスキップをする。

「殿下、おはようございます。ご機嫌ですね。」

スキップをするレグルスへ乾いた声がかかる。レグルスはピタリと足を止め声の主へ振り向くと、

「おはよう。ガル伯爵の息子ではないか。異世界の研究はどうだ?進んでいるか?共に謁見の間へ向かおう。西方のエルフ達との通訳を頼むぞ。謁見後の客人への対応もな。」

満面に笑みを浮かべ謁見の間へ指を差す。ガル伯爵の息子、宮廷魔術師ラディウスは「順調です」「・・・承知いたしました」等と返事を返す。

謁見の間の扉へ着いた両者はその場で別れ、ラディウスは手早く謁見の間へ入っていった。

「そろそろ良いかな。私より遅く入る貴族はいるかな?」

冗談を言ったレグルスは足を組み換えて右足から謁見の間へ入る。荘厳な謁見の間は美しい装飾に彩られ、凄まじい迫力の彫刻が天井に彫られている。レグルスは宰相から王錫を受け取ると王座腰をかけると宰相へ合図を送る。

「面を上がられよ、使者殿。王の御言葉を賜る。」

と宰相が言い1歩後ろへ下がる。

「よくぞおめおめと来たな。殺されに来たのか?来た理由を申してみよ?」

レグルスの言葉をラディウスはエルフ語で面をあげたエルフ達へ伝えた。エルフ達はレグルスへエルフ語で訴え始めた。かぶりを振ったラディウスは、

「第一王子、アルゴが新王になり、その祝いを催して欲しいと申しております。」

と王へ伝える。

「良かろう、アルゴ王を快く迎えよう。土産を持たす。しかしながら新たな友を祝福する気持ちが抑えきれない。そのため、土産はおぬし等の船には乗り切らん、是非届けよう。」

エルフ達は翻訳されたレグルスの言葉へ、答える間もなく、

「騎士達よこの者らの首をはねよ。エルフの船にその首を積み送り返せ。船には腐肉も乗せろ。」

レグルスの命令によって騎士達の剣がエルフ達の首を切り落とす。

 従僕から蜂蜜漬けクルミを受け取ったレグルスはやれやれとそれを咀嚼し、飲み込んだ。それから彼は一息つき、大きな声で「入ってくれ」と言った。その言葉に応じて謁見間に一人の鱗が生えた女が入ってきた。見たことも無い羽衣を纏った女で鱗は体中を覆い人の顔をした蜥蜴のような風貌である。女はレグルスの前でお辞儀をすると、

「お招きいただき光栄でございます。新たなる黄金の王よ。ラドンの妻、北方の秘境に住まう竜母レイアと申します。この度は警告と提案を申しに参りました。警告については貴方が呼んでいたユニグラム、私の魔術によるとあれは生きております。今は大海で魚共や海藻を食らい、遂には貴方の都すら飲み込むでしょう。さて、提案は私が治める結界へ異世界研究者を送っていただけないでしょうか?この地があの悪魔の手に落ちたとしても生き延びる可能性が産まれます。」

傲慢なレイアの流暢なヒト語による物言いにレグルスは言い返す。

「脅迫か。ユニグラムが生き残っていたにしろ何故もっと早く言わない?その物言いではずっと解っていたようではないか?」

「王が早期に捜索していればユニグラムは討伐され、私はこの会談に預かれずあのエルフ共と同じく生首で祖国に帰ることになったでしょう。」

レイアは慇懃無礼にレグルスへ礼をする。レグルスは怒った。

「蒙昧な竜母よ。おまえ達の国は滅びるぞ。」

王錫をカツンと地に突き立てレグルスはうなるように言った。レイアは鼻で笑い言葉を続ける。

「我が国には結界がある。結界内で研究を進めればいずれユニグラムから異世界転移で逃げられる。王は既に転移実験は行っていたのでは?」

宰相が鋭い目つきで辺りを見渡す。

「よい、犯人捜しは後ほどでな。確かに先々代から先王時代にかけて4度偶発的に起こったそうだ。いずれも皆帰還しなかった痛ましい実験事故だ。お前の結界内にはお前のような者が居るのか?そうであればそやつらを手当たり次第に送ると良い。」

「王は恐ろしいことをお考えになる。結界内は誰も、私以外居りません。これからドワーフ、エルフも幾人か我が結界内へ入れるつもりです。」

レイアの言葉を聞いたレグルスは「国では無いのか、ボケ老人が」とため息をつき、しばし考えた後。

「では幾人程か?」

「200です。我が結界は狭いので。」

レグルスは喉までせり上がった侮辱の言葉を飲み込み。

「良かろう、10日程滞在されよ。その間に200人を選定する。」

承知いたしましたとレイアは下がろうとするが、レグルスは王錫を持たない左手を掲げ、待てと彼女を呼び止めた。

「余が王冠をかぶるようになったのは二年前からだ。ユニグラムを討伐し帰国後に戴冠した。父は肉体を捨て鋼鉄の騎士となり、20万の兵士を連れて竜王国へ向かった。その意味が解るか。」

レグルスは王座からグッと立ちあがりレイアへ近づく。レイアは1歩、2歩後退する。

「我らは竜王を抹殺する手立てを得たのだ。伝説は終わる。『お前の』結界も絶対では無い。仕組みも解らん物を過信しすぎるなよ。」

そう言うと、レグルスはレイアの退出を許可し、彼女は騎士達と共に謁見の間から退出した。

 

 レグルスは王座に座り直すと宰相へ目配せをする。宰相は1歩前に出て、

「結界へ赴く者は既に決定しております。結界内での他種族との戦闘を考慮し100人の騎士、10人の研究者及びその家族25人、魔術師5人、独り身かつ従軍経験のある各種専門家60人を予定しております。」

「これは余の意思でもある。」

宰相の言にレグルスが口を挟んだ。

「ラディウスよ。お前は我が国の異世界研究の全容を把握しているな。お前が研究指揮をとれ。騎士アラストル、皆を良き方へ導け。短気は起こすな、慎重にことを運べ。さて、宰相続けるのだ。」

ラディウス、アラストルは恭しくお辞儀をする。

「竜王国との戦は圧倒的です。連戦連勝で、一年足らずに奴らの王都アルビオンへ肉迫しております。【魔力誘導爆弾】も3発配備済みです。竜王の援軍でエルフ共が来るとは思いますが、想定通りです。かの決戦兵器を1発でも竜王へ着弾させれば、エルフ共は竜王を攻撃するはずです。そこで、我々の目下の問題はユニグラムです。あのババア、竜母レイアの発言が真であるのならば、早急に捜索し討伐するべきかと。王、部隊の編成を進言します。」

「良きに計らえ。西方への防備も厚くせよ。」

真剣な宰相へレグルスはのんびりとした声色で返事を返す。

(もしユニグラムが海で大きくなっていたとしたら、海軍が海底からの魔の手に狙われ、我が国は圧倒的質量に飲まれる。最早、討伐など手遅れだ。王都でも異世界の研究を進め、異世界へ逃げ延びる方法を考えねば。あの老いぼれめ、余にこの世界を諦めさせるとは。)

レグルスはボンヤリと思考し呟く。

「余が何をしたというのだ。」

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