炎の檻

 再び山頂からユニグラムが姿を現した。朝日を浴びた山頂から飛び出るようにそびえ立ち、山のような巨体をそびえさせたユニグラムは神話に出る怪物その物にも見える。

大きく広がった北門前には前回の倍の1万の陸軍が大砲班、爆弾班、後詰めの処理班に分かれて両翼に布陣していた。大砲は固定式ではなく固定機と車輪のついた機種に変更されており有効射程距離は5 km程度で1分間に5発の砲弾が発射可能である。ハリボテの城壁の上には10門の大砲が並びこちらの射程は4 km程度で榴弾が装備されている重量が軽いものである。大砲班は一門につき8人の訓練された兵士達で班分けされその中の一人は火炎放射器を背負っている。下位士官達は10斑の砲撃を指揮し状況に応じて大砲の移動を命じる。処理班は陣の内側と外側に大砲班を挟む形で布陣する。

「デタラメな大きさだ。」兵士ユーリは唖然として声をあげた。

彼の手は恐怖で強ばり大砲の照準器のつまみが上手く扱えなかった。

「チクショウ。こんな手袋。」

歯で手袋の指先を噛んで無理矢理剥がし、素手で調整を始めた所で目の前に星が回り数秒後強烈な痛みがつむじを走る。後ろを振り返ると班長が拳を振り下ろしていた。

「何しとる。手袋を着けろ、指を怪我するぞ。」

「はい。着けます。」

慌ててユーリは手袋をはめた。

「皆、あんなバケモンでも大砲が当たりゃイチコロだ。心配するなよ。」

「「「はい。班長。」」」

ユーリは班長の声に班員と共に返事をする。

彼らの後方では爆弾班の騎士達が馬に乗り、腰には手投げ爆弾を3本下げ突撃を待つ。彼らは突撃後、都市内へ入りユニグラムを迎え撃つ役割である。


「さっき街中で鉄の怪物が走っていたんだが上官へ教えた方が良いかな。」

左翼に位置する大砲班のケージが同じ班の班員へ大声で尋ねた。

「ああ、あれは戦車様だよ。」

「始めて見ました。この街の警備をずっとやっていたもので。」

成るほどと同僚は気が無い返事をして双眼鏡を構えて山頂を睨んでいる。

それを見たケージも落ち着かなそうに大砲へ取りつき発射態勢に入る。

「あれは山だよ。」

「ああ。」

「山が波のように打ち寄せてくるよ。」

「黙ってろ。」


港湾都市内には戦車が3人配備され、それぞれ火炎放射器に武装が換装されている。特に上部へ取り付けられた特殊バーナーはドラゴンブレスと呼ばれる兵器であり巨大な火炎を放射する対民間人用の非人道武器である。戦車と言っても装甲車の方が形状的には近い。内部に騎士の脳が納められそれによって駆動系が制御されている。装甲は生前の鎧を模した形状に整えられ車体側面にアームが取り付けられおり戦場での物資運搬等にも活躍している。王都では休日にボードゲームをする姿も見受けられている。その鋼鉄の騎士は戦場において恐れられており獣人の絶滅の立役者として知られている。

 レグルスは前回同様右翼で大砲班へ所属し、そこでは照準を担当していた。

(あれには親近感を感じる。リングで見せた代官の処刑に今の堂々たる立ち振る舞い。余に似ている。だからこそ今のうちに、、、)

レグルスは必ずユニグラムをこの街で倒すことを決意した。

人々が固唾を飲んで山を見上げていると遂にユニグラムは破城槌のように細く変形し音も無く下山を始めた。

「下山を始めたぞ!」城壁の兵士が信号弾を発射し叫ぶ。

更に街中央で戦車がアームに内蔵された信号弾を発射する。停泊中の軍艦を呼ぶためだ。

猛スピードでユニグラムは城門へ向かって進み遂に建ち並ぶ100門を超えた大砲の射程へ入った。

あちこちで「撃て」と号令が上がり、決められた順番で発射された鋼鉄の波が絶え間なくユニグラムを襲う。砲撃音で空気がビリビリと震え、ドーンとユニグラムへ命中した弾ははじけ飛ぶ。前進を続けるユニグラム体表へは僅かなヒビが入る。更に次々と体表へ弾着するがユニグラムの体表が少し欠けるのみである。しかしながら、ユニグラムは減速したものの着実に進みヒビもあっという間に回復する。更に身体を鋭く細く変形させ、細くなった身体は直撃する弾はあれども殆どの弾はかすり後方へ流れ、生命が吸い尽くされた大地へ激突し土埃を舞上げた。遂に、城壁の射程へ入ったユニグラムに向かって榴弾が発射される。硬化したユニグラムの上部へ10発全て弾着し爆発が起こる。ユニグラムの上部の一部は吹っ飛び、形状が崩壊し、動きが目に見えて鈍る。そこでユニグラムの一部が液状化することで右翼を襲おうとするが各班のマスクをつけた火炎放射器持ちが食い止める。押し寄せる砲弾の中、更に榴弾が命中する。液状化した身体を引っ込め突撃を再度実行するユニグラムは体表をボロボロボロにしながらも大砲の砲撃角度から外れ城門前で液化しようとするが、騎士達の投げた爆弾が炸裂しユニグラムの身体をまくり上げるように爆発する。途轍もない悪臭が周囲へ撒き散らされその臭いを嗅いだ兵士達は嘔吐した。ユニグラムは逡巡するように2秒静止する、その後猛然と城門へ突撃した。ユニグラムはすれ違うように人間を大勢捕食し城門を和紙にパンチする程容易く砕いて街を睥睨した。この時のユニグラムは依然として巨大だったが、既に以前街へ姿を現した時程度の大きさしか無かった。騎士達は門が砕かれる際に、逃げるまもなく捕食された。ユニグラムは街中へズルリと入り込みあっと今に住宅街へ入り込んだ。住宅街へ入ったユニグラムは住宅を硬化した触手で包み込み、北門周辺の城壁目がけて投げつけた。投げつけられた家は巨大な礫であり砲手達を轢殺しハリボテの城壁が決壊した。

 ユニグラムは突如進行方向を変更し城門へ引き返そうとモゾリと身動ぎするとガラガラと白銀の戦車が港側の建物から、集合住宅が建ち並ぶ大通りから火炎放射器を構えて現れた。2台の戦車はユニグラム付近の兵士ごとアームの火炎放射器及びドラゴンブレスの炎でユニグラムを焼いた。火のついた松の木のようにユニグラムは炎上しその巨体を住宅街の戦車へドスンと叩きつけた。戦車は逃げる事も出来ずそのまま潰されひしゃげた車輪が路上へ投げ出される。港側の戦車は火炎放射を続け、そのあまりにも大きな炎は無慈悲に左翼陣へ向かい兵士たちも炭にした。

「退避!左翼北へ500 m前進!」と将校は叫ぶが大砲班は耳栓を着け、更には既に焼けて悲鳴を上げている者もいた。そのため前進の号令は届かず、危機感のある者のみが山へ向かって先進を始めた。右翼は既に前進を済ませ、砲門はユニグラムへ向けられた。

火炎放射を続ける戦車は港へ後退していた。へユニグラムは戦車へ追従し巨体で家々をなぎ倒しながら進む。戦車はぐねぐねとした旧市街を器用に進む。ユニグラムは家屋を潰し材木や吸収できる物を吸収しつつ崩れた石や建物の欠片をハリボテの城壁へ飛ばし、遂に城壁の十門は全て破壊された。逃走を続ける戦車は両腕の火炎放射器の燃焼が切れたため火炎放射器をユニグラムへ投げつける。戦車は再び港湾部へ全速力で向かった。しかしながら火炎放射器を失った戦車は囲まれないように三方向に火を放つことが出来ず、ユニグラムは回り込み、やや西寄りの港で戦車はユニグラムに捕えられた。ユニグラムは戦車をギチギチと覆うが、戦車は左腕が覆われる前に空へ腕を向け、内蔵された信号弾を発射した。ユニグラムは腕を掲げた戦車を執念深く挽きつぶした。その間に平野部に展開した陸軍は500 m程度山方向へ移動し大砲を港湾都市へ向け海軍の砲撃を待っていた。


街中から信号弾が打ち上がる。信号を見た陸軍将校が大砲班へユニグラムへの攻撃命令を下し、同時に海側から猛々しい蒸気船の煙が幾つも走ってきた。

(損切りをしたか。奴に選択させ続けろ。戦いなれていないうちになるべく弱らせろ。)

レグルスは照準器でユニグラムとの距離を算出しつつ、ニタリと笑った。港には停泊中であった軍艦、威風堂々たる装甲艦が8隻なだれ込み、海上に浮かぶ計32門の大型大砲によるユニグラムへ容赦無い砲撃が始まった。一撃一撃が移動可能な大砲とは訳が違う。高質化させた身体を盾のように構えるが弾が当たる度にボロボロとユニグラムは崩れる。ユニグラムは高質化した身体の裏でゴム質の身体を作り衝撃を殺し、じりじりと都市庁舎へ向かう。大砲班は街内の建物のため車線がとれていない。

「全く、あれだけ撃っても倒せないのか。生物の粋を越えているな。」

アルファード提督は甲板で憎々しげに吐き捨てる。ユニグラムはこの街で最も大きく立派な建物である、都市庁舎へ後退りたどり着いた。砲撃によって見るも無惨に損壊した都市庁舎の破片がごみのようにころがっている。ゴムのように伸縮する腕をユニグラムは瓦礫へ伸ばしギュムリと鷲づかみにする。グニと曲がった腕は凄まじいテンションがかかりはち切れんばかりである。一気に腕は解放され砲弾じみた瓦礫、現代では鉄筋コンクリートの塊が散弾のように8隻の内の2隻の装甲艦へ降り注いだ。瓦礫の弾は甲板を打ち据え、鋼鉄の装甲がガタガタにへこみ、木片が飛び散る。機関部は問題なかったが2隻共に大砲の操作員や射撃計算員が特にひどく被害を受けて砲撃の手が鈍る。間髪いれずにユニグラムは2射、3射と被弾した2隻の装甲艦へ瓦礫の散弾を投射した。殺人的な降雨は砲台のフードや看板前後のシェルターへの退避が余儀なくされる。更に悪いことに船内の伝声管が滅茶苦茶になり、装甲の破損による浸水が始まった。

 スペンサ王国栄えある大型装甲艦レルネは散弾による浸水を発していた。兵士達は足首まで濡らし駆け足であちらこちらを駆け、船体のヒビ、排水の処理を行っている。その矢先大きく船が揺れ更に浸水が進んだ。「火薬庫が撃たれた」という声があがり瞬く間に沈んだ。

 燃え上がるレルネを見たアルファードは歯軋りをする。

「撃ち続けろ。奴は確実に弱っている。」アルファードは伝声管により船内へ伝え後部甲板からユニグラムを臨んだ。

 更に被弾したもう1隻も煙を上げ轟沈した。ユニグラムが執念深く火薬庫を狙い始めたのである。放物線を描いていた投射物の軌跡はより直線的に、より洗練され、僅か数十分で投石器から大砲へ進化していた。ユニグラムの砲弾は徐々に装甲艦の装甲を轟音と振動を立てて噛み千切る。戦艦からの反撃も凄まじくユニグラムの周囲は既に瓦礫の山と化し、北の平原が港からも望む事が出来る。

 そこで、街に潜伏していたもう1人の戦車がユニグラムの後方から炎を浴びせかけた。瓦礫を持ち上げていたユニグラムの腕はギュギュッと焼けて縮み、腕から瓦礫がガラリとこぼれる。正面から砲撃を受けているユニグラムは高質化した身体を変形し移動させることが出来ない。ユニグラムは太い触手を2本作り戦車へ向け、叩き潰そうとする。戦車は1本目を軽やかに交わし火あぶりにするが、もう1本に強かに叩きつけるように打たれる。車体が割れ、ひしゃげ、装甲が剥がれ内部が露出し機器につながれた脳が晒される。半壊の戦車はのろのろと重い車体を引きずりユニグラムへ向かう。車体の腕は片方がもげもう片方はひしゃげた火炎放射器を持つ。戦車は腕を軸が曲がったのか、ガタガタさせながら何とか火炎放射器を放り、側面のハッチから小銃を取り出しユニグラムへ発砲する。ガタガタの腕からはまともに狙えなかったが巨大なユニグラムへは全て命中した。ユニグラムは戦車をさらに作り出した腕で弾き飛ばす。戦車は破片をまき散らしてごみのように港へ転がる、その最中に戦艦からの砲撃でバラバラになり、数秒後に残骸が虚しく爆発した。

ユニグラムはじりじりと港へ向い至近距離で軍艦との打ち合いを始めた。戦いはユニグラムへ傾き始めていた。堅く堅牢になった殻とも盾ともいえるその変形は最早戦艦の砲撃を防ぎ始めていた。ユニグラムは細かい瓦礫を集めて砲座へばらまき、細かい破片は砲手達を撲殺した。砲手が減った艦は士官達も砲撃に参加し、後一時間もあれば戦艦で戦える者は居なくなるだろう。

「撃て」大砲班から離れたレグルスは大砲班の指揮を継承し、北門平原後方から宝剣を引き抜き、命令を下す。宝剣の赤い宝石が光を反射して炎のように輝く。配置についた右翼20門の大砲が砲弾をユニグラムへ浴びせかけた。放たれた砲弾の多くは鉄の砲弾であったが、中には数発の榴弾が混じり、砲弾は街の建物を障子のように貫通し、ユニグラムの大きくしなる触手へ鏃のように命中した。ユニグラムの身体は大きくたわみ、巨大な波紋が身体をいくつも走り、その身体はミチミチとはじける。巨体は両側からの砲撃から身を守るため、貝のように硬い盾を二枚作り、身体を挟んだ。ユニグラムの両面から浴びせられた砲弾はその堅牢な盾を崩壊させるが瞬く間に修復される。盾の隙間から小さな触手が覗き小さな瓦礫片を大砲班へ投げる。投射されたその小さな砲弾は大砲班の測量員や指揮員へ命中し小さな身体の肉をちぎり飛ばし屍の山を作る。流された血によって芝の青やユニグラムによって命を吸われた砂地の橙が鮮血と臓物で赤黒く、そしてテラつく桃色に染め上げられる。その糞や血生臭い地獄の中、投射された一片が激を飛ばすレグルスへ飛び、彼の駆る駿馬の頭部を貫く。レグルスはドチッと倒れ、急ぎ馬からもがき出て、宝剣を掲げて走る。騎士達も馬を下馬し大砲へ取りつき兵士達と共に装填し、時折飛んでくる瓦礫から兵士達を頑強な鎧で庇う。

一方、鉄壁を誇るユニグラムの内部は度重なる衝撃により沸騰した湯よりも遙かに熱く、体内で密かに崩壊が始まっていた。ブルブルとユニグラムは震え、地面を触手でたたき始めていた。地面はボロボロと崩れたが地下にはコンクリートが敷き詰められ、身体を入れる場所が無い。

「ユニグラムが港方向に南下。速度は早駆けです。」

ユニグラムの攻撃が弱まったため甲板に出てきたアルファード提督たちは観測員の報告でのそのそと港へ移動を始めるユニグラムを確認した。

「奴を海へ逃がすな!焼夷弾を使え!」

そうアルファードは怒鳴りさらに通信員へ信号弾の命令を下す。

 黒い雲からピカピカと信号弾が打ち上がる。ユニグラム逃亡開始の合図だ。

「焼夷弾に変更しろ!焼き殺せ!」

レグルスや士官達は喉を枯らして叫ぶ。次々に火炎がユニグラムを包み込む。業火に巨影が踊り、崩れる建物の音が怪獣の絶叫にも聞こえる。ユニグラムは狂ったように自身の触手をちぎっては放り投げ続け、遂には腐臭を放つ肉塊と化した。肉塊はドロリと炎に焼かれ、砲撃はその後一時間は続いた。火炎放射器を携えた処理班達が街へ突入し残った肉塊を一つ残らず焼き、警戒は1年間続けられる見通しだ。残骸は宮廷魔術師達に引き渡すため廃墟となった街の広場へ集められた。

「奴は倒れた。同胞よ、お前達の剣を取り返す。」

レグルスは臓物の海で悔しげに斜陽の太陽へ歯を食いしばりながら宣言した。


ユニグラムが倒れた翌日、レグルスは指揮官達や兵士達にねぎらいと報酬を渡した後、輸送船へ乗り込んでいた。彼には王からの召喚がかかっており急遽船に乗り込んだのである。レグルスが後方を振り返ると煌々と燃えるユニグラムの残骸とゆっくりと帰港に入る装甲船3隻目に映る。

「5隻失ったか。この程度で討ち取れて良かった。あれが海原へ出たら我々は終わる。」

そう独り言を言うとホッとレグルスはため息をつく。

(北方に魔術師達の調査隊を向ける必要があるな。原因を探らねば国が傾く。)

レグルスの胸はハラハラとむかつき船室へ戻った。ギシギシと床を鳴らして船室へ戻り茶を側仕えへ頼みお気に入りのクッキーをポリポリ齧る。

「次は竜王か。」

頬杖をついてレグルスはついぼやく。

側仕えは何も返さず微笑むが何も言わない。

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