離行

ユニグラム到達予想30~25日

一方、ユニグラムは昼夜問わず街道をたどり町から町へ無音で移動をつづけリング同様に圧倒的な質量でほぼ無抵抗の人々を虐殺し街を灰燼に帰した。生き残りは木こりや出稼ぎから帰ってきた物売り達のみだった。彼らは廃墟となった故郷で家族の名前を叫び絶望した。ユニグラムが通った街道は道路脇の芝や雑草地が砂地に変わり熊手で砂をひっかいたような跡が残された。

蹂躙を開始してから約1週間後、既にユニグラムは70万人の王国民を平らげていた。その身体は膨れ上がりリングでの損傷を回復して余りある大きさに変貌した。ここまで王国民が無抵抗に近い形で殺害された事には理由が3つある。1つは港湾都市の迎撃準備を整えるため、避難によってユニグラムの注意を都市へ向けさせないためである。2つに無音であるということ。3つにユニグラムがあまりにも早く皆殺しにするためである。自由に体を硬化させることが出来るユニグラムは硬化した巨体で素早く街中に侵入し、巨大な身体を液化させて街中で大波を作り人間を取りこむという作業を行っていたのだ。運良く逃れた者も、数ミリの細さの触手が軽く触れるのみで全て取り込まれた。

 その中、ユニグラムを監視する集団がいた。港湾都市が派遣した偵察隊である。彼らの氏名は大砲をユニグラムへ2発撃つことである。弾は質量を重視した鉄塊である。彼らはユニグラムを追ってガストンという小さな町を大きく緩く包囲するように付近の洞窟、林や丘に潜伏していた。偵察隊は各員に馬が与えられているが追跡を続けている彼らは休まず馬に並みの速度で移動するユニグラムの恐ろしさを知っているため生きた心地がしなかった。ユニグラムは相変わらず住民を皆殺しにしていったがここ2、3日全滅させる事を心がけ始めた。全滅後、家々の食器や家具をそとへ並べている様子が見られている。中にはそのせいで地下室へ逃れていた親子が引きずり出されいたぶり殺されていた。その時、隊員達はユニグラムへの怒りで大砲を撃とうとしていたが落ち着いた隊長の様子を見て恥ずかしそうに落ち着いた。

 「大砲を撃ったら信号班が効果に応じて信号弾を撃つ。信号弾は2発目の弾着後に連続して発射される。大砲は連続して撃つ。1発目は不意打ち、2発目は硬化強度を見る。距離は500。俺達は2発撃ったらトンズラこくぞ。俺達と信号班が囮になって連絡班を逃がす。」大砲隊長が砲手達を見渡す。

「逃げ切っても良いんでしょ。」

「無論だ。」

「なら、俺たちにも芽があるね。」

隊員達は大砲についた照準器をカラカラと回し砲身を調整する。

満足したのだろう液化していたユニグラムは一カ所へまとまる。

「1発目、撃て」隊長が命令を下す。

空気が揺れ砲弾はユニグラムへ命中した。命中した部分は飛びちり、大きくユニグラムの身体が凹んだが、瞬きの間に修復された。木々を取り込みながら大砲隊へ迷いなくユニグラムは突撃する。2発目が発射される。命中した。砲弾はユニグラムの体表で砕け散り僅かな窪みとヒビを作る。1発目程の痛痒は与えられていないようだった。

パン、パンと連続して音が鳴る白い光、緑色の光の順で空を照らす。信号弾である。ユニグラムはビックリした人間のように揺れ信号弾を撃った信号班へ突撃した。砲撃班はその隙に一目散に馬へ向かったが馬は腹の皮が破れており走れる状態では無かった。

「散開しろ。少しでも注意を引きつけろ。」隊長が言い終える前に班は散開して全力で走り出した。


ユニグラム到達予想24~15日

その時から妙な動きをユニグラムは始めた。急に止まり、急に動く。周囲を確認する素振りを見せたかと思えば全速力で移動を行っていた。更にユニグラムはヒトを襲わず森に入り木々を取り込み始めた。木々が根こそぎ取り込まれた山はすっかりはげ山になってしまい、木こりが多いこの地域では多くの失業者が生じるだろう。更には冬を越す木炭も足りなくなり凍死する者も生じることは想像に難くない。それ以上にユニグラムは更には二回りも大きくなり小さな山のようだった。ユニグラムは木々を取り込みながら森林地帯を抜け山へ登った。そこからは辺りの美しい景色が一望でき港湾都市も景色に入っていた。山からはケトス川が流れ港湾都市へと続いている。ユニグラムは山頂で5時間ほど居座ると港湾都市の反対側へ降りドロリと溶け地面へ沈んでいった。


 突如として山向こうから姿を現したユニグラムに街は緊張を隠せなかった。街の避難は一時中断し港は無人である。軍艦は10 km離れた崖に停泊中である。街の外には迎撃のための5000人規模の部隊が北門の両翼に展開されており、大砲を構えていた。レグルスは右翼で兵士達と共に大砲の調節を行っていた。

(早すぎる。まだ連絡班も帰還していないというのに。伝え聞いていた速さを考慮するとこちらの射程からゼロ距離までは6分かかる。兵士の恐怖心を考慮すれば1台せいぜい10発が限度か。)レグルスは体当たりをするように大砲を移動させながら山をチラチラと伺う。山頂に陣取ったユニグラムはこちらに気づいて居るのかもわからない。唯々大きな身体をアイスの上にのせたジャムのようにポツンと置いている。軍の展開は1時間ほどかかり完了した。軍とユニグラムのにらみ合いは3時間程度続いた。その間、人々は緊張に包まれていたがユニグラムはズルリと身体を揺らし山向こうへ引き返していった。レグルスはそれを見届けると小走りで馬の元へ行き後方の天幕へ向かった。

 天幕は静かであった。ユニグラムの報告ではわからない不気味さにおののいていた。荒々しく天幕へ入って来たレグルスが沈黙を破る。

「急ぎ陣をより広範にせよ。この天幕も取り払い籠城のフリをするのだ。そのためのハリボテの城壁だしな。」レグルスはニヤリと笑う。

「ですが大砲は増やせません。広げても意味は無いかと。それよりもこの港湾都市を放棄して開発中の【魔力変換爆弾】の完成を待つべきでは無いでしょうか。」

「そうです。移動大砲用の榴弾は30発しか準備できておりませんし、大砲で倒せるとは思えません。あれは動く山です。」

「結局調査隊は帰ってこなかった。奴は予想以上の速さを誇るのでは?」

幾人かの将校らが撤退を進言する。

「【魔力誘導爆弾】爆発範囲を異次元へ転送する自由飛行可能な爆弾、完成間近だったのか。」

鎧を身に着けた都市長が喘いだ。

「馬鹿を言うな。あの爆弾は竜王を始末するためのモノだ。あれは見た目ほど強くない。余に考えがある。」

レグルスの考えは以下の通りであった。港湾都市内へ1度ユニグラムを誘い込む。戦艦から砲撃し、堅くなったユニグラムへ榴弾を叩き込む。爆発によって弱った所を燃やして灰にするというものであった。

将校達はそれを聞き考え始めた。

「でしたら城壁の上にも大砲を設置するべきですね。地上からの砲撃で硬化させて城壁から榴弾を打ち込み、城壁の脅威をわかりやすく奴へ教えた方が誘導できそうです。」

一人の将校が考えを述べると賛同する声もチラホラ上がる。

幾つか改良案が述べられた後、城壁内の指揮者が募られた。確実に死ぬ役回りである。

「私がその役目拝命しましょう。」

騎士アルタルが即座に名乗りをあげた。他の騎士達は悔しそうにする。

スペンサ王国における騎士階級は非常に特殊である。騎士とは軍の力と精神性を象徴する者の事である。騎士達は裁判を開くことができ、己の良心と王国への忠誠心に従い処刑や投獄の勧告を正式に下し執行する事が出来る。彼らは死後、王国宮廷魔法使い達の儀式によって戦車へ改造され侵略戦争の尖兵として生を全うする。

 次々と新たな配置が決定される中、海上のアルファード提督も部下を伴い天幕へ駆け込んできた。

「殿下、ご無事ですか。」提督はレグルスへ跪く。

「問題ない。良く来てくれた。」

将校が作戦の詳細を提督へ伝えた。

提督は仲間殺しに悩む素振りを見せたが了承した。

「殿下、以上でよろしいでしょうか。」将校の一人が尋ねる。

良い、そうしろとレグルスは満足そうに笑う。

レグルスは天幕に掲げられている国旗を持ち将校達と共に天幕から出る。

「旗を街に掲げろ!!邪悪な竜の名を持つ化け物を滅ぼせ!スペンサ王国は竜殺しの国である!!」と彼は叫んだ。


 ユニグラムが姿を現した翌日、兵士達は城壁近くで待機し続けていた。食糧は海から運ばれ、仮設トイレで用をたし、残飯と糞尿は専用の船に積まれて国境付近の海へ廃棄される。彼らはユニグラムの緊張から解放され、だらけきっている。一方レグルスは再び都市庁舎へ赴いていた。今回は執務室ではなく2階の応接間へ通された。間もなく都市長が現れる。

「良い応接間だ。この都市の発展ぶりを感じさせられる。」都市長が失礼いたしますと姿を現すや否やレグルスは淡々と言った。

「殿下、このような場所でおくつろぎになっている場合ではありません。」都市長がピシャリとレグルスへ言うと。レグルスはジロリと都市長へ目を向け、椅子を指し「座れ」と言い都市長を座らせた。

「都市長、焦りすぎだ。ここでの目的はユニグラムを打ち倒すことだ。」

「それはもちろんです!ですが私の街はどうなるのです!ここまで築くのに一体どれだけの資源と時間が掛かることかおわかりですか・・・。」

平坦なレグルスの声にかぶせる勢いで都市長が声を張り上げ、しおれたように語尾が弱る。

「そう言われてもあの化け物が闊歩していては経済効果など期待できまい。化け物が消えても街が焦土になってしまうからな。直ぐには軍港としての運用しかない、その後は魔術研究基地にしようかと考えている。使用物資が特殊であるため既存のルートで輸送したくない。渡りに船だな。」

レグルスは言葉を返そうとする都市長へ片手を向け制し続けた。

「落ち着け都市長、君はこの建物が何で出来ているか知っているか?」

「はい、石灰、粘土、砂に砂利です。中には鉄芯が入り30年は堅牢なものです。」

「そうだ。しかしいつかは壊れる。我々は未来を見据えるべきだ。ここ200年、近隣諸国と我が国は戦争中だ。所詮、ここはどこにでもある戦場の一つだよ。」

グニュウと眉をひそめレグルスは言う。

「更に北はエルフが生息しているが、今回の件は考えようでは良い事だとも言える。」

レグルスは続ける。

「あの化け物が焦土作戦として役立つ。エルフは南下出来ない、あの蛮族共の生活基盤となる狩猟が不可能なのだからな。あれからあいつらが生きていればの話ではあるか。」

レグルスは真顔になり、茶を一口含みベコリと嚥下した。都市長は口を震わせ何かを言おうとしたが口をつぐんだ。

「続ける。西方戦線のエルフ共はお家騒動でごたついている。下手に刺激をしてまとまられても困るため、先に東方の竜王国を滅ぼし、竜族とその家臣であるドワーフ共を浄化する予定だ。優秀な君には、是非とも竜王国の跡地を立派な街にしてもらいたい。あそこは鉱物資源が大量に手に入り、我が国の躍進に大きな助けとなるはずだ。魔術師も何人か同伴させよう。実は更に計画があって、学園都市の設立を目指していていてな。後日王都へ参れ、そこで都市計画の話を進めよう。」

レグルスは椅子の肘掛けに肘を立て、頬を緩ませて自身の白い顎をつまむ。

「殿下へ伺いたい。ここから北に残された人民はどうなりますか?見捨てられるのですか。」

都市長はレグルスへ質問を投げかけるとレグルスは小首をかしげ答えた。

「残念ながら人民はみな死んでいるだろう。本当に慚愧に堪えない。だからこそ邪竜の名を冠する、いや邪竜ユニグラムを討伐して竜王国の非道を宣伝するのだ。そういうことになっている他の皆は知っている。」

「そうですか・・・。殿下、平和は訪れるのでしょうか?」

(この王子、王は人間以外の知的種族を全滅させる気だ。だがどの種族も勝つために戦争、領地拡大に貪欲で、この衝突は必然か。)

レグルスの言に都市長はおののいたが納得もした。

「平和は個人の解釈によって異なる。余の解釈で良ければ話そう。」

レグルスへどうぞと都市長は続きを促した。

「平和は相対的なモノだ。国家にとっての平和は我々が人間で有る限り訪れない。内面的邪な感情あるいは異世界、異種族や自然といった外的脅威が有る限りは。」

「ではそれらが無くなれば。」

「そうなれば我々は人の段階を昇格させる事になる。現在、実際に異世界の研究をしている。その結果の一つが【魔力誘導爆弾】だ。更には異世界の物をこちらに運ぶことにも成功している。コップや片方の靴等の小さな物しか持ってこられないが。着実に進む研究は異世界研究のブレイクスルーは起こるだろう。」

「どう繋がるのでしょう。」

都市長との問答にがっかりしたようにレグルスは肩をすくめる。

「目的は創世よ。高次の精神を得た我々に相応しい世界を手にするのだ。そのための騎士達、戦争だ。我々の技術発展、より高潔な心の育成、結果は出ている。異世界を知った我々にとって所詮この世界は数あるリソースの一つでしかないのだ。いずれ、我々はパンゲアの牢獄から飛び出し星々を手中に収めるのだ。」

ここで一旦言葉を切ると、レグルスは人差し指を茶が入ったカップの中へ入れた後、指をかき混ぜるように回しながら腕を引き上げる。

「君も俯瞰して物事を捉え給え。余が導く。」

レグルスは残った茶を一気に飲み干し、サッと身を乗り出すと都市長の肩を掴んだ。ついでに指を都市長の服で拭いた。

「学園都市の名前。考えておいてくれ給え。ごちそうさま。」

レグルスは立ち上がり応接間の絵を数秒眺めた後部屋を後にした。

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