港湾都市ヒュプリム

 港湾都市ヒュプリムは城塞都市リングから約40 kmほど南下した位置にある都市で街の北にある中程度の山から流れるケトス川の下流域から出来た三角州により発展した。都市の3分の1が港であり、港は西と東で商業用と軍港に分かれている。有事の際は商業用の港にも軍艦が停泊できるようになっている。内陸部は商業地帯、住宅街、養鶏場や養豚場が区画ごとに設定されている。生活排水はケトス川へ垂れ流しになっており近年問題視されている。商業区画には工場地区は設定されておらずここへは港や列車や馬車による陸路で製品が運ばれて来る。なお、都市庁舎は商業地区に一際優美に建てられている。夏真っ盛りな現在軍港には小規模の艦隊が停泊していた。軍港の内陸側に面した真っ白な迎賓館の前には送迎用の車が止まっていた。金属の正門が憲兵によって慣れた手つきで開けられ迎賓館の扉からは二人の身なりの良い男達と士官達が姿を現した。男達は二人ともパリッとした夏用の正装で左を歩く男は老年でやや痩せ気味、服には階級章と勲章が幾つか。右の男はリングから生還したレグルスである。その胸には王家の家紋と国旗のバッジが飾られている。

 「では、今は村々を順繰りに襲っていると。戦隊司令官よ、ここまでどれくらい掛かりそうだ?」

「後1ヶ月です、殿下。」

レグルスの質問へ彼の後方を歩く戦隊司令官、コモンは間髪を入れずに返答した。

「やつの速さが大体車と一緒。これは脅威ですな。」

レグルスと並んで歩くアルファード提督は眉をひそめぼやいた。

「そうでもない。奴は元々ほぼ液体だった。場合によっては波のような速さになっていた。」

「では段々と堅くなっているということですかな?」

「恐らく。意図的にまとまって移動するために硬度を変化することが出来るかもしれないが。何とも言えない。」

「いえ、貴重な意見です。予備戦力の配置変更を検討しましょう。」

二人は会話を続けながら送迎用の車へ乗る。シートは牛の皮で出来ている。金属のリムをはいた木製の車輪が一人のるたびにユラリと揺れる。二人が車へ乗っている間に士官達は馬に乗っていた。車は黒い息を吐き出して都市庁舎へ向かった。都市庁舎は職員の宿舎ではあるが役場としての機能や王国騎士の駐屯所でもある。都市庁舎へ着いた一行は都市長のアンクベスから歓迎を受けていた。

「本日もいらして下さりありがとうございます。どうぞおかけください。」

2人は執務室まで通され各々椅子に腰掛けた。執務室には既に幾人かの騎士と将校が居た。部屋の調度品はどれも見事であり、彼らの前には大きな地図が置かれていた。地図の上には怪物を表す黒い石、王国軍を表すいくつもの青い石がおかれている。現在パンゲア大陸は戦争状態ではなく、小康状態が五年ほど保たれている。その理由としてスペンサ王国西部に隣接するドレイク竜王国の王、老竜エルターニンが文化保護を訴えて停戦を訴えたためである。スペンサ王国はこの提案に乗り、本日まで竜殺しのための準備を整えてきた。当然どちらも文化保護をするつもりなどサラサラない。この世界、パンゲアはほとんどの大地が地続きであり、終わらない生存競争が強いられているのだ。

「座って話そう。」レグルスは全員へ呼びかけ窓、扉から離れた位置へ座った。

全員が着席し資料が配付されると「では、最新情報です。」都市長が左右を見回して口火を切った。

「住民達の不満と疲労が無視できません。既に都市としての機能は失われつつあります。」

ヒュプリムは化け物への対策を練り始めてから生活用水は一切使用せず街の水門は完全に降りている。更にケトス川増水時の水門を開放し都市から離れた位置へ川の流れを変えている。街へ入った水はそれぞれ水面に火を近づけ異常が無かった物を煮沸し使用した。枯れた川底は魚と藻類が転がりそれらは焼却処分となった。門からは夜通し魚と泥が焼ける匂いが立ちこめていたらしい。

更に都市長は続ける。

「どうやら、かの化け物は街道をたどって村や町を襲っているようです。更に、大きな街道を避けて捕食ですね、、、それを続けています。」

「毎回思うんだが化け物じゃなくて他の名前はないのか。化け物ならかの竜王も化け物ではないか。」

「閣下、それは外交問題へ発展する言動ですぞ。」

現実味を感じていない将校達が脱線した話をする。

「もう良い、あの化け物の名前はユニグラムだ。城壁を囲んだ無数の首は伝説の邪悪竜その物だった。」レグルスは両者をいさめた。

「しかし外交問題とは。何か問題があるとは思えないな、ん?」レグルスは先程外交問題の発言をした将校をねめつける。

「外交とは何か、お前は理解できていない。外国と馬鹿みたいに仲良く交流する事では無いのだよ。外交とは防衛であり更にはこの様に。」レグルスは腰から拳銃を抜く。部屋はシンと静かになる。

「敵を打ち倒すためのモノだ。」レグルスは将校の腹へ引き金を引いた。将校の白い制服が赤く広がり顔から脂汗がたれ始める。ウーウーとうなり将校は歯ぎしりをして痛みを紛らわせる。部屋の外に居た兵士達が部屋へなだれ込むが

「我々は群れであり、ヒトである。王という心臓、軍隊という拳、労働者という血。全てをもって、今日まで異種族の奴隷ではなく覇権国家として君臨している。諸君の鉄と忠誠が俺達を勝利へ導く。」レグルスは立ち上がる。更に間髪入れず、呻く将校の胸へ3発弾丸を打ち込んだ。

「このウジを魚共と一緒に焼け。馬へつないで運べ、目につくように。」レグルスは言い終わるとゆっくりと椅子へ座り続きを促した。死体は兵士達に荷物のように運ばれた。

「偵察隊によると疎開は遅々たるもので、凡そ70万人は既に捕食されています。現在この都市の北馬で三日程度の距離の街道を町や村をしらみつぶしに巡っているとのことです。更に大きさは砦程、小銃で射撃した者の報告ではめり込んだとのことです。」

何かご意見はありますか?都市長は参加者達の顔を見る。次々に手が挙がる。

「そのユニグラムは射撃を受けた時、何か反応はあったのか?」

「無反応で街道を進んでいたそうです。」

「質量はどうなのでしょう?もしかしたら地雷が有効かも知れません。」

「射撃を受けた際に微動だにしなかった事をふまえますと重量はかなりのモノかと。」

「ユニグラムが取り込めるモノは報告にあった通り有機物のみであるなら地雷の類は無効化される可能性がある」

「地下の件はどのように?」

「既に充填しております。後1週間あれば地下には入り込めないでしょう。」

会議は先程の騒ぎが無かった物として展開される。

「ちょっと検証実験して欲しいことがあります。」一人の騎士が手をあげた。

「ユニグラムは硬化出来そうですね。であればその条件を確かめて欲しいのです。もし攻撃に反応する場合は榴弾砲や地雷を機能させることが出来るかも知れません。」

「ならん。検証は小銃での射撃のみだ。」レグルスはピシャリと言った。

「リングで奴に焼夷弾を撃ったが初弾着のみしか確認できなかった。つまり奴は何故か解らないが焼夷弾を理解しているということだ。試すのであれば虎の子は使わず砲弾の直撃までに留めるべきだ」そうレグルスは続けた。

「ちと頭が回りすぎでは?何者かが戦略的に操っている可能性も否定できないですぞ。」

提督が疑念を口にした。

「もっともです。ではユニグラムの周囲を見張る部隊を幾つか増設しましょう。」

陸軍将校が名乗りをあげた。提督は彼に「頼んだと言い」椅子の背に体重を預けた。

「燃焼剤の手配については私にお任せを」「私達は城壁を組んでおきましょう」「私は都市の憲兵へ砲撃の指南を」各々の役割がまとまり、更に会議が進み港湾都市の避難、防衛隊の配備についてそれぞれ決定される。

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