3.混戦

 最後の空間跳躍を終え、本艦はズム・ヘルート星系に侵入した。


 妨害電波が飛び交っている。電探レーダー見張りも電波による通信もできない。赤外線もおそらく意図的に出されているため、赤外線見張りもほぼ役に立たない。

 星系内のあちこちで明滅する光――光線ビーム砲か、爆発か、あるいは囮の発光弾か。


 先着している電撃奪還隊には、本艦が属する第21駆逐隊も参加している。3隻の僚艦を探して合流を――と目論んでいたが、その考えは甘かったようだ。

 乱れる電波、赤外線、そして光。あちこちに艦艇が動いているのは辛うじて探知できるが、それが敵か味方か、どんな艦種か、全く判別できない。この中から僚艦を見つけ出すのは不可能だ。


 ともかくも味方を支援するため、本艦は前進することとなった。目的は味方を見つけること。あるいは敵の陣地を襲い、砲艦を沈めること。砲艦の防御力はほとんどない。至近距離へ躍り出たなら、駆逐艦の主砲で艦体を貫通できる。


 混戦状態のズム・ヘルート要塞へ、艦は慎重に進み始めた。


・・・・・・


 ズム・ヘルート要塞の構造は完全に分かっている。元々わが軍が建造したものだ。こんな短期間で改造することはできないだろうから、いま手元にある情報を信じてよい。


 元となったズム・ヘルート星系は主星ズム・ヘルートを中心に8つの惑星を持ち、2つの小惑星帯が横たわっている。第5惑星と第7惑星は特に巨大で、大きな輪を持っている。衛星も多い。


 これを要塞化するにあたって、わが軍はまず「堡塁」を築造した。

 堡塁には戦艦主砲並みかそれ以上の要塞砲が備えられ、全方向をにらんでいる。内部には燃料弾薬、乗員向けの食料その他生活物資を蓄え、艦船の応急修理程度ならできる工作能力を持つ。

 通常の要塞ならばこの堡塁が2つか3つ、主星に対し公転する形で――つまり人工惑星として、配置される。

 しかしズム・ヘルート要塞は通常の要塞ではない。堡塁は全部で8つある。1号堡塁は大型、2・3号堡塁は中型、その後の4・5・6・7・8号堡塁は小型のもの。これらがそれぞれ違う軌道に投入され、死角を補い合っている。その数も、戦闘能力も、他の要塞を凌駕している。


 また、星系内には「陣地」が造られた。

 ズム・ヘルート星系が要塞化に好適であったのは、陣地が造りやすかったためである。要塞砲を補完するための砲艦をどこかに隠しておかねばならないが、この星系にはその場所が多く存在していた。

 2つの小惑星帯と第5・第7惑星にある輪。これらは小天体の集まりであるから、中に艦艇を隠すことができる。要塞化するには好都合である。

 さらにわざと流した漂流物――主に古い艦艇の残骸だが、その陰に砲艦を隠れさせておく。


 堡塁と陣地。さらに機雷その他の罠を適宜仕掛けて敵艦の進行を妨害するようになっている。


 このようにして星系全体を改造し、ズム・ヘルート要塞は築き上げられた。


・・・・・・


「艦長、8号堡塁の射線に入ります。左70度へ変針を――」

「だめだそっちには6号堡塁がある」


 8つの堡塁が射線を補い合う――その強力さを、皮肉にもわが軍が思い知らされることになった。


「第7惑星の陰に入る、それで堡塁はやり過ごせる」

「陣地があるかもしれません」

「砲艦くらいなら撃ち負けはせん、とにかく艦を隠す」


 堡塁からの砲撃をかわすため第7惑星に向かう。今の位置関係であれば、この惑星の反対側に8つの堡塁全ての射線が通らない場所ができている。

 一緒にこの星系まで来た「ミーティア」の姿は見えない。どこかではぐれたらしいが、探そうにも敵味方の識別すらできないこの状況では見つけられない。


 8号堡塁の射線内に入り、虎の尾を踏む思いで進んでいく。堡塁の方はまだ本艦を見つけていないらしく、砲撃してこない。


・・・・・・


 黄土色の巨大惑星が艦橋スクリーンの視野一杯に映り、本艦は8号堡塁の射線から逃れた。最後まで気付かれなかったのは幸いだった。


「両舷前進原速」


 機関の推力を下げて第7惑星の輪に入ろうとする。ここに隠れて、味方の巡洋艦を見つけたら後を追うことになった。この戦場で、駆逐艦1隻だけではどうにもならない。巡洋艦の火力を頼りについて行くしかない。


「砲艦陣地があるかもしれん、よく見張れ」


 艦長の言葉に、見張員たちは自分の操作盤に食いつくように目を凝らす。相手が砲艦ならば、この近距離では大したことはない。しかし砲艦陣地には、護衛の駆逐艦がいることもある。それが危ない。


おもかじ


 針路を調整するため舵を切る。艦首が右に回り始めた。


「雷跡――! 60度、俯仰角なし!」

「面舵一杯!」


 突然の見張員の叫びに、艦長がすぐ舵を一杯に切らせた。

 右斜め前方からやって来た2本の魚雷は、滑るように右へ回った本艦の右舷至近を抜けていく。


もどーせ」


 魚雷が来た方向に艦首を向け、ひとまず難を逃れた。本艦が初めから回頭していたのと、それから敵の発射位置も遠かったらしく、かわすことができた。


 ――?


・・・・・・


「対潜戦闘、爆雷戦用意!」


 号令がかかり、爆雷が用意される。

 艦首方向に艦らしきものは見えない。にも関わらず魚雷が走ってきた――潜空艦が、そこにいる。


「第2戦速」


 一挙に増速しながら潜空艦の推定位置へ向け突っ込んでいく。近くに潜空艦がいるのなら、すぐに倒さねばまた魚雷を撃たれる。反撃しなければならない。

 高速を出したまま敵潜の推定位置を航過し、同時に爆雷が投下された。ややあって、後方の空間が爆雷の炸裂によって歪む。


「第5戦速。航海長、通れそうな場所を探せ」


 艦長は爆雷攻撃の効果を確認せず、敵潜に艦尾を向けたままさらに速力を上げさせた。

 敵はそう甘くはなかった。この場所が全ての堡塁から死角になるのは、各堡塁と惑星の軌道を突き合わせれば分かる。本艦はそれを分かってここへ来たのだが、敵も同じく分かっていて、潜空艦を伏せていた。

 艦が隠れそうな死角には、あらかじめ潜空艦を配置して補っている――


 つまり、死角はないのだ。このズム・ヘルート要塞には。


・・・・・・


 もう潜空艦を振り返りもせず、ひたすら高速で走る。航海長が逃げ場を探したが、このまま走ってまた8号堡塁の射線に入るか、まだ潜空艦がいるかもしれない第7惑星の陰に戻るか――このふたつ以外に行き場はないと分かった。


「敵味方不明の艦影、340度、仰角10度」


 見張員が新たな目標を報告する。


「艦種は、数は?」

「艦種不明、数は1」


 不明艦である。もし敵であれば脅威であるが、この星系には味方艦もいるはず。味方であれば、特に巡洋艦であれば大きな助けになる。


 が――


「340度の艦影、敵駆逐艦らしい」

「確かか」

「形状が味方のとは違います」


 敵艦であった。

 駆逐艦というと、砲艦陣地の護衛か、あるいは機動戦力として遊弋していたか。


 敵は速力を変えず舵も切らない。本艦に気付いていない、もしくは敵味方の識別ができていないらしい。


「対艦戦闘、砲戦、魚雷戦用意」


 艦長が号令し、艦内は砲戦と魚雷戦の配置に変わった。


「水雷長、魚雷は2本撃て。後のは撃ってから判断する」


 駆逐艦に魚雷を撃ち込むことになった。確かに先に敵味方の識別をつけた本艦が有利であるから、上手くいけば無傷のままあの駆逐艦を撃破できる。

 高速で走りながら少し上げ舵をとり、敵を本艦の射角に捉える。発射管は準備が整った。


「最大戦速、面舵」


 艦首が右に回り始める。敵艦を左に見ながら発射する態勢をとる。

 突如、その方向に巨大な光のかたまりが生じた。位置不明、敵味方不明の艦が発光弾を撃ったとみられる。

 その光に敵の艦影がクッキリと浮かび上がった。


「敵は軽巡洋艦らしい!」

「識別、敵で間違いないか」

「間違いありません」


 艦橋の空気が揺らぐ。いま本艦は、格上の軽巡洋艦に向かって単艦で突撃しているのだ。

 砲撃を受けたら無事では済むまい。威力も射程も、敵の方が上だ。


「予定通り撃つ、発射始め!」

「発射始め、ヨーイ……」


 艦長の号令に続き、水雷長が発射の時機を見極める。


「撃て!」


 閃光の中の艦影めがけ、2本の魚雷が走り出した。


「敵艦発砲!」


 さすがに本艦に気付いた敵が光線砲を撃ち始めた。真っ青な光が艦底を抜けていく。


「左砲戦、主砲、ちーかた始め」

「撃ちー方始め!」


 瞬時、スクリーンがまばゆい青に染まり、本艦の光線砲が放たれる。続けて第2射、第3射――砲撃が当たるよう、面舵を戻して直進を保つ。

 敵も直進しつつ撃ってくる。幾本もの青白い光線が艦底を擦過せんばかりに迫り、さらに2、3発が上甲板を掠めた。

 夾叉きょうさ――放った光線が目標の両側を抜けるものだ。これは正確に目標を捉えている状態であり、このまま撃たれ続ければいずれ命中する。


 また数発、本艦の上下を光線がはしった。


 再び炸裂する発光弾。軽巡洋艦の艦影が黒い影となって浮かぶ。

 その影から、青白い光線が次々と本艦に降り注いでくる。


 くぐもった衝撃音と同時に、艦が振動した。


「艦底中部、至近弾!」


 これまでか……


・・・・・・


「……」


 激しい光の明滅が、不意におさまった。

 スクリーンを注視してみると、発光弾の閃光に映る黒い艦影がふたつに折れている。


「――魚雷命中!」

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