第2話

春風がカーテンを揺らし、満開の桜が薄紅色の波となって、窓辺を彩っていた。


菅野賢治は高等部三年一組の教壇に立っていた。エスカレーター式の学校のせいか、生徒たちの表情はどこか柔らかく、素直そうに見える。競争社会にまだ染まっていない、と言えば聞こえはいいが・・・


「はじめが肝心」と、菅野は一人ひとりの目を見るような気持ちで自己紹介を始めた。


「菅野賢治、27歳。この春、岩手県から上京してきました。ピンときた人もいるかもしれませんが、名前の由来は岩手の作家、宮沢賢治からです。担当は国語。引っ越してきたばかりで、この辺りのことはまだよくわからないので、みんなにいろいろ教えてほしい。よろしくお願いします!」


早速、生徒たちから質問が飛ぶ。


「菅野先生、彼女いるんですか?」


「岩手の名産ってなんですか? わかめ?」


「先生、大きいけど身長いくつくらいですか?」


「好きな芸能人は?」


生徒たちの質問にそつなく答え、ようやく教室のざわめきが落ち着いたところで、菅野は窓際の空席に気がついた。


(あの席は、確か例の生徒だな・・・)


着任早々、中学二年の一年間、全く学院に来なかった生徒が自分のクラスにいると引き継ぎで聞いていたのだ。そして、高3になった今も、不登校気味であると。菅野は、名簿に目を落とした。


生来 大(セイラ ダイ) 高等部三年 留年のため19歳


「誰か、生来の休みの理由を知っている者はいるか?」


菅野が問いかけると、生徒たちが口々に話し始めた。


「ダイは、中学から来たり来なかったりなんです」


「留年してるから、本当は私たちより一つ上なんだよね〜。そんな感じしないけど〜」


「学校来ないのに、めちゃくちゃ頭いいんですよ、あいつ。でも、出席日数が全然足りてないって」


「まあ、猫みたいなやつだから、そのうちふらりと来ますよ」


「ダイって、めちゃくちゃイケメンだから、先生、惚れちゃダメだよ」


付属の高校で、長い付き合いからか、一つ年上の生来(セイラ)とクラスメイトの間に距離がある印象は受けなかった。むしろ、生徒たちはこの勉強ができて、イケメンで、不登校の生徒をどこか誇らしく思っているようにも見えた。


「よし、後で職員室から電話してみるよ」


菅野は名簿をパタリと閉じると、生徒たちの自己紹介タイムに移った。

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