『リプレイ・デス~死に戻りの代償~』

山太郎

第1話「死に戻りの始まり」

第1話「死に戻りの始まり」


借金地獄


俺の名前は、椎名リョウ。26歳。


3年前、勤めていた会社が倒産した。それ以来、人生は転落の一途を辿っている。


母はALSという難病を患っている。筋萎縮性側索硬化症。全身の筋肉が徐々に動かなくなる病気だ。治療法はなく、進行を遅らせることしかできない。


そのための治療費が、月に50万円かかる。


俺はアルバイトを掛け持ちして働いた。コンビニの夜勤。工事現場の日雇い。配達員。それでも、月に稼げるのは20万円程度だった。


足りない分は、借金で補った。


最初は、銀行から10万円を借りた。次に消費者金融から30万円。そして、闇金融から50万円。


気づけば、借金の総額は500万円を超えていた。


利息だけで、月に10万円。元金は一向に減らない。


そして今日、闇金融の取り立てが来た。


「おい、椎名。金はどうした?」


山田という男が、俺のアパートのドアを蹴破って入ってきた。40代くらいの男で、がっしりとした体格。スーツを着ているが、目つきは鋭く、明らかにヤクザだ。


「待ってください。あと1週間だけ...」


「1週間? そんなもん待てるか」


山田が俺の胸ぐらを掴んだ。


「お前、先月も同じこと言ったよな。もう待てねぇんだよ」


「でも、母の治療費が...」


「知るか。お前の母親が死のうが生きようが、俺には関係ねぇ」


山田が俺を突き飛ばした。俺は床に倒れた。


「明日までに100万円用意しろ。できなきゃ、お前の臓器を売るぞ」


山田が去っていった。


俺は床に倒れたまま、天井を見つめた。


もう、限界だ。


どうすればいい。


その時、スマホが鳴った。


見知らぬ番号からのメッセージだった。


「借金を全て返済したいですか? 7日間のゲームに参加すれば、1億円を差し上げます。詳細はこちら」


メッセージには、リンクが貼られていた。


1億円。


それがあれば、借金を全て返せる。母の治療も続けられる。


でも、怪しい。こんなうまい話があるわけない。


俺は一度、スマホを置いた。


でも、手が震えていた。


1億円。


その言葉が、頭から離れない。


俺は、リンクをクリックした。


画面には、こう書かれていた。


「デスゲームへようこそ。7日間のゲームに参加し、生き延びれば1億円を差し上げます。参加を希望する方は、以下の住所に明日の午後8時に来てください」


住所は、東京郊外の廃病院だった。


デスゲーム。


嫌な予感がした。


でも、俺には選択肢がなかった。


廃病院へ


翌日、俺は廃病院へ向かった。


電車とバスを乗り継いで、2時間。人里離れた山の中にある、古びた病院だった。


建物は3階建て。窓ガラスは割れ、壁には蔦が這っている。明らかに、何年も使われていない建物だ。


午後8時。


俺は病院の入口に立っていた。


重い扉を押し開けると、中は薄暗かった。廊下の電球が、いくつか点滅している。


「ようこそ、椎名リョウさん」


突然、声が聞こえた。


スピーカーから流れる、女性の声だ。


「あなたは、デスゲームに参加することを選びました。おめでとうございます」


「誰だ?」


俺は周りを見渡した。でも、誰もいない。


「私は、案内役です。これから7日間、あなたたちをサポートします」


「あなたたち...?」


「そうです。参加者は、全部で10名います」


その時、背後から足音が聞こえた。


振り返ると、9人の人々が立っていた。


年齢も性別もバラバラ。20代から50代まで。男性が6人、女性が3人。


みんな、同じように不安そうな表情を浮かべている。


「全員、揃いましたね」


案内役の声が続ける。


「では、ホールへ移動してください」


俺たちは、廊下を歩いた。


ホールは、病院の中央にある広い部屋だった。天井は高く、真ん中には大きなスクリーンが設置されている。


「では、ルールを説明します」


スクリーンに、案内役の顔が映った。


女性で、30代くらい。黒髪で、冷たい目をしている。


「あなたたちには、7日間のゲームに参加していただきます」


「毎日、1つの課題が与えられます。課題をクリアすれば、次の日に進めます」


「7日間を生き延びた方には、1億円を差し上げます」


1億円。


その言葉に、参加者たちの目が輝いた。


「ただし...」


案内役が続ける。


「課題に失敗すれば、死にます」


死ぬ。


その言葉に、ホールが静まり返った。


「嘘だろ...」


誰かが呟いた。


「嘘ではありません。これから、あなたたちには首輪をつけていただきます」


その時、天井から何かが降りてきた。


金属製の首輪だ。10個。


「首輪には爆弾が仕掛けられています。課題に失敗すれば、爆発します」


「ふざけるな!」


1人の男性が叫んだ。40代くらいの男性で、スーツを着ている。


「俺は帰る! こんなゲーム、やってられるか!」


男性が出口に向かって走り出した。


でも、ドアは開かなかった。


「残念ですが、もう帰れません」


案内役が冷たく言った。


「参加を決めた時点で、あなたたちの運命は決まりました」


「くそ...」


男性が壁を叩いた。


俺は、自分が何に巻き込まれたのか理解した。


これは、本物のデスゲームだ。


命を賭けたゲーム。


「では、首輪をつけてください。拒否した場合、即座に処刑します」


処刑。


その言葉に、俺たちは従うしかなかった。


俺は首輪を手に取った。冷たい金属の感触。重さは500グラムくらい。


首に装着すると、カチッという音がした。


ロックされた。


もう、外せない。


「良いですね。では、第1日目の課題を発表します」


スクリーンが切り替わった。


「第1日目の課題:記憶の橋」


記憶の橋


「記憶の橋?」


誰かが呟いた。


「これから、あなたたちには2人1組になっていただきます」


案内役が説明を続ける。


「くじ引きで、ペアを決めます」


スクリーンに、くじ引きの箱が映った。


「1人ずつ、くじを引いてください」


俺たちは順番に、くじを引いた。


俺のくじには、「5」と書かれていた。


「では、同じ番号の人同士でペアになってください」


俺は周りを見渡した。


「5番...誰だ?」


その時、1人の男性が手を挙げた。


30代くらいの男性で、眼鏡をかけている。細身で、優しそうな顔立ちだ。


「俺も5番です」


男性が近づいてきた。


「田中リクです。よろしく」


「椎名リョウです」


俺たちは握手した。


「では、ペアが決まりましたね」


案内役が続ける。


「これから、中庭に移動してください」


俺たちは、中庭へ移動した。


中庭には、1つの橋が架かっていた。


でも、普通の橋ではない。


橋の下には、深い穴が開いている。底は見えない。おそらく、10メートル以上の深さだ。


橋は細く、幅は1メートルほど。手すりはない。


「この橋を、2人1組で渡ってください」


案内役が説明する。


「橋の真ん中には、ボタンがあります。ボタンを押すと、橋は安全になります」


「でも、ボタンを押した人の記憶が1つ消えます」


記憶が消える。


その言葉に、俺たちは凍りついた。


「記憶...消えるって、どういうことだ?」


リクが聞いた。


「文字通りです。大切な記憶が1つ、永遠に失われます」


案内役が続ける。


「家族との思い出。友人との時間。恋人との記憶。何が消えるかは、ランダムです」


「ただし、命に関わる記憶は消えません。自分の名前や、生きるための基本的な知識は残ります」


「制限時間は、1時間です」


「1時間以内に全員が渡れなければ、首輪が爆発します」


1時間。


俺は時計を見た。午後8時30分。つまり、午後9時30分までに渡らなければならない。


「では、スタート」


案内役の声が響いた。


最初の挑戦


「どうする?」


リクが俺を見た。


「ボタンを押すか、押さないか...」


俺は橋を見つめた。


橋は細く、不安定に見える。ボタンを押さずに渡れば、記憶は失わない。でも、橋が崩れる可能性がある。


ボタンを押せば、橋は安全になる。でも、記憶が消える。


「俺が押す」


リクが言った。


「え?」


「俺には、娘がいる。5歳のユイって子だ」


リクが続ける。


「妻とは離婚したけど、娘だけは大切にしてる。娘のために、俺は生き延びなきゃいけない」


「だから、俺が記憶を失っても構わない」


「でも...」


「大丈夫。記憶が1つ消えるだけだ。娘のことは忘れない」


リクが橋に足を踏み出した。


俺も、後に続いた。


橋は、思ったより不安定だった。一歩踏み出すたびに、ギシギシと音がする。


下を見ると、暗い穴が口を開けている。


落ちたら、確実に死ぬ。


「大丈夫か?」


リクが俺を振り返った。


「ああ...なんとか」


俺たちは慎重に進んだ。


5分後、橋の真ん中に着いた。


そこには、赤いボタンがあった。


「これか...」


リクがボタンに手を伸ばした。


「待て」


俺は、リクの手を掴んだ。


「俺が押す」


「え?」


「お前には娘がいる。でも、俺には...母しかいない」


俺は続けた。


「母はもう、余命わずかだ。記憶を失っても、俺は生きていける」


「椎名...」


「大丈夫。俺に任せろ」


俺は、ボタンを押した。


その瞬間、頭の中に激痛が走った。


「うっ...」


俺は膝をついた。


視界が歪む。何かが、頭の中から引き抜かれていく感覚。


そして、記憶が消えた。


何の記憶が消えたのか、俺には分からなかった。でも、確かに何かが失われた。


「椎名、大丈夫か?」


リクが俺を支えた。


「ああ...なんとか」


橋が、しっかりと固定された。もう揺れない。


「行こう」


俺たちは、橋を渡り切った。


対岸に着いた時、他の参加者たちも続々と渡り始めていた。


全員が無事に渡り終えた。


「おめでとうございます」


案内役の声が響いた。


「全員、第1日目の課題をクリアしました」


「ただし、記憶を失った方が3組います」


3組。つまり、6人が記憶を失った。


「明日の課題は、明朝8時に発表します。それまで、ゆっくり休んでください」


夜の共同生活


俺たちは、病院の2階に案内された。


そこには、10個のベッドが並んでいた。簡素だが、清潔な部屋だ。


「ここで寝てください」


案内役の声が聞こえた。


「食事は、1階の食堂にあります」


俺たちは、食堂へ向かった。


食堂には、簡単な食事が用意されていた。パンとスープ。味は悪くない。


「みんな、自己紹介しようぜ」


1人の男性が言った。


桐生タクミ。35歳。元刑事だという。がっしりとした体格で、頼りになりそうだ。


「俺は、借金を返すためにここに来た」


タクミが続ける。


「元刑事だったけど、仲間を失って辞めた。それ以来、借金だらけでな」


「俺も借金だ」


別の男性が言った。


山田ケンジ。40代。会社員だという。


「妻の病気の治療費が必要でな。1億円があれば、妻を救える」


俺たちは、それぞれの事情を話した。


みんな、何かを抱えている。借金、病気、家族の問題。


誰も、好きでここに来たわけじゃない。


追い詰められて、ここに来た。


「椎名は?」


ユキが聞いた。


青山ユキ。22歳。医師を目指している学生だという。


「俺は...母の治療費のために」


俺は答えた。


「母がALSで、治療費が月に50万円かかる。借金が500万円まで膨れ上がって...もう、限界だった」


「そうか...」


ユキが優しく微笑んだ。


「私も、似たようなものよ。医学部の学費が払えなくて」


俺たちは、互いの境遇を理解し合った。


ここにいる全員が、被害者だ。


追い詰められて、デスゲームに参加させられた。


「でも、俺たちは生き延びる」


タクミが言った。


「7日間、協力して生き延びよう」


「ああ」


俺たちは頷いた。


その夜、俺はベッドに横になった。


天井を見つめながら、考えた。


記憶を1つ失った。


何の記憶が消えたんだろう。


母との思い出か。友人との時間か。


分からない。


でも、確かに何かが失われた。


その時、突然、地震のような揺れが起きた。


「何だ!?」


俺は飛び起きた。


建物全体が揺れている。いや、地震じゃない。


爆発音が響いた。


「追加課題です」


案内役の声が聞こえた。


「30分以内に、全員でもう一度、橋を渡ってください。失敗すれば、全員死にます」


追加課題


「ふざけるな!」


タクミが叫んだ。


「もう橋は渡ったじゃないか!」


「ルールは変わりません。30分以内に、全員で橋を渡ってください」


案内役の声が冷たく響く。


「制限時間は、午前1時まで。現在、午前0時30分です」


30分。


俺たちは急いで、中庭へ向かった。


橋は、さっきと同じ場所にある。


でも、今度は全員で渡らなければならない。


「急げ!」


タクミが先頭に立った。


俺たちは、橋を渡り始めた。


でも、5人目が渡った時、橋が揺れ始めた。


「やばい、橋が崩れる!」


誰かが叫んだ。


橋が、真ん中から折れ始めた。


「走れ!」


俺たちは全力で走った。


でも、俺の前にいたリクが、足を滑らせた。


「うわっ!」


リクが落ちる。


俺は、反射的にリクの手を掴んだ。


「椎名!」


リクが叫んだ。


「大丈夫だ、掴まってろ!」


俺は必死に、リクを引き上げようとした。


でも、重い。


腕が限界だ。


その時、タクミが戻ってきた。


「俺も手伝う!」


タクミと一緒に、リクを引き上げた。


「ありがとう...」


リクが息を切らしながら言った。


「礼はいい。急ぐぞ」


俺たちは、橋を渡り切った。


全員、無事だ。


午前1時ちょうど。


ギリギリだった。


「おめでとうございます」


案内役の声が響いた。


「追加課題、クリアです」


俺たちは、その場に倒れ込んだ。


疲労と恐怖で、体が震えている。


でも、生き延びた。


第1日目を。


死に戻りの発見


俺は、ベッドに戻った。


全身が疲れている。でも、眠れない。


さっき、リクを助けた時、俺は死を覚悟した。


あと少しで、俺もリクも落ちるところだった。


その時、俺は思った。


もし死んだら、どうなるんだろう。


本当に死ぬのか。


それとも...


俺は、ふと気づいた。


さっき、記憶が消えた時、頭に激痛が走った。


あの感覚、どこかで経験したような...


いや、違う。


経験していない。


でも、なぜか既視感がある。


俺は、自分の手を見つめた。


この手で、リクを助けた。


でも、なぜか俺は、リクが落ちることを知っていた気がする。


まるで、一度経験したかのように。


その時、壁に文字が浮かび上がった。


光る文字。


「代償は、始まっている」


代償。


何の代償だ。


俺は、不安に駆られた。


でも、答えは出ない。


俺は、そのまま眠りに落ちた。


夢の中で、俺は暗闇の中にいた。


そして、声が聞こえた。


「お前には、特別な能力がある」


「死に戻りの能力だ」


「死ねば、60分前に戻る」


「でも、代償がある」


「お前がリープするたびに、誰かの大切な記憶が消える」


「それを忘れるな」


俺は目を覚ました。


汗びっしょりだった。


死に戻り。


リープ。


代償。


俺は、自分に何が起きているのか、まだ理解していなかった。


でも、確かに何かが始まっていた。


窓の外を見る。


夜明けが近づいている。


第2日目が、始まろうとしていた。


次回予告:第2話『消えた記憶』


第2日目の課題が発表される。


「記憶の部屋」


8つの部屋に、それぞれの過去が映し出される。


誰か1人の記憶を奪えば、全員が次へ進める。


でも、記憶を奪われた者は、二度と戻れない。


椎名リョウは、仲間を救うために決断する。


そして、死に戻りの能力を初めて使う。


【第1話・完】

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