第4話最強の剣士、ローズさんと「お見合い」という名の処刑場へ向かう

魔王軍四天王がローズさんの投げキッス(物理)によって成層圏外へ不法投棄され、嘆きの平原が地図から消失した翌日。

 王都は奇跡的な平和に包まれていたが、冒険者ギルド『筋肉の揺り籠亭』の裏手にある宿舎の一室では、この世の終わりを告げるような重苦しい空気が漂っていた。

「……なぁ、カイル。諦めろ。これも世界の均衡を保つための、尊い犠牲なんだ」

 魔法使いのゼノンが、まるで戦死した戦友に語りかけるような沈痛な面持ちで、親友の肩に手を置いた。

「ふざけるな! なんで俺なんだよ! オーガだってシエルだっているだろ!」

 剣士のカイルは、絶望に顔を歪ませながら叫んだ。その手には、一枚の桃色の封筒が握られている。中身は、ローズさん直筆の、文字が全て筋肉の形に見えるほど力強い筆致で書かれた『お見合いのお誘い(※強制執行)』である。

「無理だよ、カイル。僕たちはローズさんの『好み』じゃないんだ」

 シエルが、金貨を磨く手を止めて冷徹に告げる。

「ローズさん曰く、『オーガちゃんは筋肉がガサツすぎて美しくない』、そして『シエルちゃんは目が金貨の形をしていてロマンがない』。消去法で、一番『普通の男』に見えるあんたがターゲットに選ばれたんだよ。おめでとう、一国の姫君とお見合いするより生存確率が低いお見合いだね」

「笑えねえよ! 『愛のアイアンクロー』を毎日食らってる相手と、どんな顔して向かい合わせで紅茶を飲めばいいんだよ!」

 カイルの絶叫が宿舎に響くが、その時、部屋の壁が「パカッ」と、まるで薄い板チョコを割るような手軽さで崩壊した。

「……あら、カイルちゃん。準備はできてるかしら?」

 崩れた壁の向こうには、最新の勝負服(※特注のフリル付きドレス。背筋のせいでシルエットが三角形になっている)に身を包んだローズさんが立っていた。

 その顔には、一キロ先からでも視認できるほど濃いめの化粧が施され、薔薇の香水の匂いが物理的な質量を持ってカイルたちの呼吸を奪う。

「ひ、ひいいいっ! ロ、ローズさん! 壁! そこ、一応は女子禁制の男子寮の壁ですよ!」

「そんな細かいこと気にしてたら、真実の愛は掴めないわよッ! さあ、高級レストラン『ゴールド・マッスル』を予約してあるわ。遅れたら、あんたの骨を一本ずつ、私の新しいイヤリングに加工してあげるわね♡」

 ローズさんの瞳から放たれる「愛(という名の殺気)」に圧され、カイルは白目を剥きながら引きずられていった。

【高級レストラン:ゴールド・マッスル】

 王都で最も格調高く、そして最も「壁の強度が自慢」のレストラン。

 その最上階の特別席で、地獄のようなお見合いが始まった。

「……どうしたの、カイルちゃん。そんなに震えて。私のドレス、似合ってないかしら?」

 ローズさんが、テーブルに置かれたフォーク(※ローズさんの握力に耐えられる特注の鋼鉄製)を指先で弄びながら微笑む。

「い、いえ……最高に、その、パワフルでお美しいです。ええ、もう、目を開けているのが眩しいくらい……」

 カイルは、向かい側に座るローズさんを見ることができず、ひたすら目の前の前菜(魔獣のカルパッチョ)を凝視していた。

「うふふ、お上手ね。でも、今日は真面目な話をしに来たのよ。私、最近思うの……。ギルドの受付嬢として、たくさんの男たちを見てきたけれど、あんたたちみたいに『手のかかる坊や』が、一番可愛いなって……。特に、あんたのその、絶望した時に見せる震える子鹿のような瞳……ゾクゾクしちゃうわ♡」

 ローズさんが、恥ずかしそうに頬を染めながら(※その衝撃で周囲のグラスが共鳴して割れる)、テーブルの下でカイルの足を「そっと」撫でた。

「ぐはっ……!?」

 カイルは悲鳴を飲み込んだ。そっと撫でられたはずの右足の脛骨から、ミシミシという不穏な音が聞こえたからだ。

(助けてくれ、ゼノン……シエル……オーガ……。誰でもいい、今すぐ隕石を落としてこの建物を更地にしてくれ……!)

 カイルが心の底から神に祈っていたその時、隣の席で様子を窺っていたゼノンたちが動き出した。

「……よし、今だ。カイルを救出するぞ」

 ウェイターに変装したゼノンが、毒にも等しい激辛スパイスをたっぷり入れたスープを運んでくる。

「失礼いたします。シェフ特製の『灼熱の愛を込めた地獄のコンソメ』でございます」

 これを飲ませてローズさんを悶絶させ、その隙にカイルを連れ出す作戦だ。

 ローズさんは、上品に小指を立てながらスプーンを運び、そのスープを一気に飲み干した。

「あら……少し刺激的ね。でも、今の私の燃えるような恋心には、これくらいのアツさがちょうどいいわぁ!」

 ローズさんの口から、火炎放射器のような火柱が噴き出した。

「ぎゃああああ! 髪が! 俺の髪が焼ける!」

 ウェイターの変装をしていたゼノンの前髪が全焼した。

「次は俺だ!」

 別のテーブルで客のフリをしていたオーガが、わざとらしく椅子を倒して立ち上がる。

「おい、そこの女! 俺と腕相撲で勝負しろ! 俺が勝ったら、その男を解放してもらうぞ!」

 ローズさんの意識を「勝負」に向けさせる作戦だ。

「あら、オーガちゃん。無作法ねぇ。今はカイルちゃんとの大切な時間なのよ?」

 ローズさんは、オーガの方を見ることすらなく、空いている左手でオーガの頭を優しく「ポンッ」と叩いた。

 ドゴォォォォォォォォォン!!!

 オーガはレストランの床を三層下まで突き破り、厨房の巨大なスープ鍋の中に消えていった。

「あ、あはは……オーガ、いい出汁が取れそうですね……」

 シエルが震えながら計算を始める。「えーと、床の修理費とオーガの治療費、合わせて金貨一万枚……。カイル、もう諦めてローズさんの旦那になってくれ。それが一番安上がりだ」

「見捨てるなシエル! 金で解決してくれ!」

 カイルの魂の叫びも虚しく、ローズさんの「愛」は加速していく。

「ねえ、カイルちゃん。お食事の後は、二人で夜の王都を散歩しましょう? 私の行きつけの『特訓場(※という名のデートスポット)』があるの。そこで、あんたの剣技と私の愛をぶつけ合いましょうよ……。ふふ、夜通し、あんたの体が悲鳴を上げるまで……可愛がってあげる……♡」

 ローズさんの手が、ゆっくりとカイルの首元に伸びてくる。それは優しく触れるつもりなのだろうが、カイルには巨大なプレス機が自分を圧殺しに来るようにしか見えない。

 

「……ああ、神様。魔王を倒したあの日、俺たちは確かに英雄だったはずなのに。どうして今、俺の首はオネエの指先一つで、熟したトマトのように潰されようとしているのでしょうか」

 カイルが覚悟を決め、目を閉じたその時。

 レストランの入り口が、盛大に爆発した。

「ローズ様ァァァ! お迎えにあがりましたァァァ!」

 現れたのは、昨日ローズさんに星にされたはずの、ボロボロになった四天王の生き残りだった。彼らはローズさんの「投げキッス」の威力に心酔し、いつの間にかローズさんの熱狂的な親衛隊(ファンクラブ)へと成り下がっていたのである。

「邪魔よッ! 今いいところなんだから!」

 ローズさんの怒りの一撃がレストラン全体を揺らす。

 その混乱に乗じて、ゼノンが叫んだ。

「今だ! カイル、逃げろ! 【全力逃走用・空間転移(チキン・ゲート)】!」

 カイルの体が光に包まれ、ローズさんの魔手から逃れる。

「あ、あんたたちぃぃぃ! 私のカイルちゃんをどこへやったのよォォォォォォォッ!!!」

 夜の王都に、恋に破れた(?)最恐オネエの絶叫が響き渡り、王宮の尖塔がその振動でへし折れた。

 最強の四人は、この日確信した。自分たちは、世界を救うことよりも、ローズさんから逃げ切ることの方が遥かに困難な道であることを。

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カイル君、命からがらの脱出成功!

しかし、ローズさんの執念は一国の魔王軍をも凌駕します。

約3000文字の熱量で、お見合いという名の処刑場を書き上げました。

次回、いよいよ最終回!四人が選んだ、あまりにもデタラメな結末とは!?

ぜひ「★」と「フォロー」で、カイルの冥福を……いや、応援をお願いします!

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2026年1月11日 18:00 毎日 18:00

魔王をワンパンした最強四人組、ギルドに帰ったらムキムキのオネエ受付嬢に絞め落とされる 〜お前らみたいなガサツ男は愛のアイアンクローよ!〜 たらこの子 @mentaiko327

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