第3話:魔王軍四天王、ローズさんの「渾身の一撃」で星になる

王都から北へ数十キロ離れた、呪われた不毛の地『嘆きの平原』。

 かつて数多の勇者たちが散り、魔王軍の残虐な宴が繰り広げられたその凄惨な場所には今、再起を期す魔王軍の生き残り、精鋭中の精鋭である『四天王』が集結していた。

「……ククク。魔王様が不慮の事故(くしゃみ魔法)で倒れられたと聞き、人間どもは平和の美酒に酔いしれているようだが、甘い。ヘドが出るほどに甘すぎるぞ」

 四天王のリーダー、漆黒の魔鋼鎧に身を包んだ『剣王バルバロス』が、身の丈を超える禍々しい大剣を大地に突き立て、地響きのような低音で吼えた。

 彼の背後には、一国を一夜で灰にする禁呪を操る『叡智のザラム』、音もなく空間を裂く暗殺王『静寂のシモン』、そして全身が移動要塞のような破壊甲冑『剛力のゴメス』が、威風堂々と並び立っている。

「我ら四天王が一人でも健在である限り、魔王軍は何度でも、より強大になって蘇る。まずは、この奪い取った馬車の物資を再興の軍資金とし……む? バルバロスよ、この妙にフローラルな香りがする積荷は何だ? 古代の秘薬か?」

 ザラムが訝しげに尋ねると、バルバロスは自慢げに略奪した豪華な木箱の蓋を、大剣の先でこじ開けた。

「見よ、ザラム! この純白の輝き、そして嗅ぐだけで意識が遠のくほどの高貴な香り! これこそ人間たちが王宮へ必死に運ぼうとしていた秘宝……商品名『超極濃・ヒアルロン酸配合・オーガニック美肌泥パック(期間限定・薔薇の香り)』だ!」

「………………バルバロスよ。我々は、美容用品のために命をかけて騎士団を壊滅させたのか?」

「黙れ! これほど厳重に運ばれていたのだ、何か恐ろしい魔力の触媒に違いない! これを魔王城の玉座に供えれば、魔王様の無念もきっと潤うはずだ!」

 四天王がそんな不毛な議論を繰り広げていた、ちょうどその時。

 地平線の彼方から、「ゴオオオオオオオオオオオオ……!!」という、巨大なジェットエンジンが接近してくるような、あるいは大陸そのものが砕けるような、凄まじい衝撃音が聞こえてきた。

「なんだ!? 王国の伏兵か!?」

 四天王が反射的に武器を構える。土煙を突き抜け、音速の壁を何度もブチ抜きながら現れたのは、昨日魔王を塵に変えた、あの「最強の四人組」だった。

「どけえええええええええ! そこをどけ、この角付き野郎どもおおお!」

 先頭を走るカイルが、白目を剥き、よだれを撒き散らしながら絶叫する。

「ローズさんのパックを返せ! 今すぐ返せ! あれがないと、俺たちがローズさんの『スキンケア用スクラブ』に加工されるんだよ! 人間としての形を保てるリミットまで、あと五分しかないんだ!」

 四天王の面々は、そのあまりの勢いと支離滅裂な言動に呆気に取られた。

「何を言っている、下等な人間め。我が名は四天王の一人、冷酷なる――」

「知るかよボケ! 【とりあえず視界に入るもの全部爆発しろ(エクスプロージョン・ギガ・カオス)】!!」

 ゼノンが詠唱もクソもなく、指パッチン一つで大気を圧縮・点火した。

 ドガァァァァァァァァァァァン!!!

 平原の中央が半径五百メートルにわたって一瞬で蒸発し、広大な更地に巨大なクレーターが出現した。だが、流石は四天王。瞬時に古代の防御結界を展開し、爆風を凌いで空中に逃れる。

「おのれ、卑怯な真似を! ならば我ら四天王の連携奥義――」

「待て貴様らぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!! 私のパックに、その汚い魔族の指を一本でも触れるんじゃないわよォォォォォォォ!!!」

 平原全体が、今のゼノンの爆発魔法が子供の遊びに見えるほどの、絶望的な地響きに包まれた。

 カイルたちの背後。

 そこには、時速五百キロを超える猛烈な爆走を見せ、制服の隙間から摩擦熱による真っ赤な蒸気を噴き出している、怒りの化身――ローズさんがいた。

「ロ、ローズさん!? なんで追いかけてきてるんですか! 俺たちに任せておけって言ったじゃないですか!」

 重戦士オーガが恐怖に顔面を土色にし、走りながら絶叫する。

「あんたたちが、自分の筋肉の使い方も知らないトロトロした走り方をしてるから、パックの『お肌への浸透ゴールデンタイム』が過ぎちゃうじゃないの! ……あら、そこに浮いてるブサイクな四人組。あんたたちが私のパックを盗んで、私の乙女のナイトルーティンを台無しにした犯人ね?」

 ローズさんが一歩踏み出すたびに、嘆きの平原に新たな断層が生まれる。

 四天王最強を自負するバルバロスも、流石に本能が、DNAレベルで「逃げろ、今すぐこの惑星から脱出しろ」と叫んでいた。

「な、なんだあの山のような女は……。人間か? いや、あれは物理法則が服を着て走っているだけの何かだ……!」

「失礼ね! これでも王都のギルドでは『揺れる可憐なシャクヤク』って呼ばれてるのよ(※ローズさんの昨晩の自称)。……いいわ、パックを盗んで私の美意識を侮辱した罪、その薄汚い魔力ごと、この平原の肥やしにしてあげるわッ!」

 ローズさんはぴたりと停止した。その急ブレーキによる凄まじい摩擦エネルギーで、足元の土砂が一瞬にしてダイヤモンド並の硬度の結晶へと変質する。

 彼女は、丸太のような腕を大きく振りかぶった。その瞬間、周囲の空間は耐えきれずにバリバリと音を立ててひび割れ、次元の隙間から異界の風が吹き出す。

 

「カイルちゃん、ゼノンちゃん、オーガちゃん、シエルちゃん。あんたたちはそこで、私の『最新の愛のカタチ』を、その目に焼き付けてなさいッ!!」

 最強の四人は、一秒の迷いもなく、阿吽の呼吸で平原へ五体投地した。

「……来るぞ! 全員、地面に指を突き立てろ! 内臓を魔力で保護しろ! 鼓膜を自ら潰してでも身を守れえええ!」

 カイルの警告を鼻で笑い、四天王はそれぞれの暗黒神から授かった最強の魔具を構えた。

「笑わせるな! たかが女一人の遠距離攻撃、我ら四天王が全魔力を合一させれば、神の一撃すら防ぎきって――」

 ローズさんは深く、深く息を吸い込み、限界まで力を溜め込んだ。

 彼女の大胸筋が二倍、三倍と膨れ上がり、周囲の空気が気圧の変化によって巨大な渦を巻く。

 そして、全てを解き放つ咆哮を上げた。

「ラブリー・インパクト・フィストッ!!!(物理破壊神の怒号)」

 放たれたのは、直径百メートルを超える、見る者の目を焼く光芒を放つ「超高密度圧縮エネルギー衝撃波」であった。

 それは瞬時に音速の壁を数百回ブチ抜き、衝撃波で嘆きの平原の地表を深さ五十メートルほど削り取りながら、絶対的な死となって四天王へと迫る。

「ぐわあああ!? なんだこの圧力は! 魔力じゃない、ただの『物理的な圧力』だというのかぁぁぁ!」

 四天王が全霊を込めて展開した、核攻撃すら防ぐはずの『絶対暗黒不落結界』。それがローズさんの「愛」に接触した瞬間、まるで熱した鉄に触れた氷のように、一瞬で蒸発して消滅した。

 ドガガガガアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!

 衝撃波が直撃した瞬間、嘆きの平原に、巨大なクレーター……いや、もはや「海」のような大穴が出現した。

 四天王は、文字通り「消滅」した。彼らの存在した痕跡、魂、そして誇りは、ローズさんの愛の重圧に耐えきれず、原子レベルまで粉砕されて成層圏の彼方へと吹き飛ばされた。

 後に残ったのは、ローズさんの優しさ(物理)によって守られた、綺麗に置かれたままの『美肌パックの木箱』と、半径十キロが完全に更地と化した平原の惨状だけだった。

「……ふぅ。ちょっと、パックが手に入らないかもしれないと思って力が入りすぎちゃったかしら♡」

 ローズさんが、はち切れんばかりの大胸筋を優雅に撫でながら、満足げに微笑む。

 

 その背後で、カイルたちは震えながら、泥だらけのまま動けずにいた。

「……なぁ、ゼノン。俺たち、もう魔王軍の残党なんて探す必要ないんじゃねえか?」

「ああ……。ローズさんの渾身の一撃で、魔界の生態系が絶滅の危機に瀕したぞ……」

「……あら、あんたたち。何か言ったかしら?」

 ローズさんの鋭い眼光。その瞳には、まだ使い切れていない「愛(破壊衝動)」がギラギラと宿っている。

「「「「いえ! ローズさん、今日も世界一! いえ宇宙一お美しいですっ!!」」」」

「うふふ、素直な坊やたちは大好きよ。さあ、パックも無事に回収できたことだし、ギルドに戻って『深夜の泥パック・オールナイト美容パーティー』よ! あんたたちの顔も、私の愛でドロドロに綺麗にしてあげるから覚悟しなさいッ!」

 最強の四人の絶望的な悲鳴が、物理的に更地(元・嘆きの平原)と化した大地に、虚しくこだました。

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投げキッス一発で四天王が蒸発。これがこの世界の日常です。

次回、第4話はカイル君の貞操が最大の危機に!?

ぜひカクヨムで最新話チェックと応援をお願いします!

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