第三話 静寂の部屋



 ――――だ。十秒経っても、この静けさが続くなら、階段を昇ろう。


 急に訪れた不気味な静寂に、潰されないよう、頭で数字を積み重ねる。


 一、二、三……! よし、行こう!


「ご、ごめんなさい! 俺、びっくりして、思わず引き金を引いてしまいました! もう、何もしません! そっちに行きます!」


 万が一のために、俺は両手をあげて、今更ではあるがをアピールする。白い病院の寝巻に、銃を隠し、階段を昇りだす。


 恐い。いきなり、撃たれたらどうしよう。


 恐怖を隠すために、階段の段差を数えながら、上を目指す。


 


 階段の踊り場には開かれた扉が一つ。

 

 扉の上の看板には『一階』と書かれている。俺はどうやら地下で眠っていたらしい。


 部屋の中を見回す、様々な機械だった装置が眼を引く、どれも、嵐の後のように硬質のはらわたを、静寂の部屋に晒している。

 

 この部屋で、綺麗な原型を留めているのは、先程の銃撃者だけだ。


 彼も、地下の男のようにマシンガンを構え、白い目で泡を吹き、佇んでいる。


 軍隊や警察の特殊部隊のような重武装の服装だ。


「あ、あの」


 手で彼を押す。


 同じように地面に音もなく、倒れてしまった。


 これは一体どういうことだ?


 なにか手がかりを探すために、周囲を見回す。この部屋にも窓は無く、用済みと化された機械と、扉が一つ。


 足元に気をつける。


 裸足なので、足元の破片で足を切ったらたまったものではない。


 扉に手を掛ける。


 鍵が掛かっていた。


 この部屋を出るために、一つの答えが浮かぶが、それを受け入れたくなく、鍵を机や、壁に掛かってないが調べるが、見つからない。


 しかたない。


 生きるためだ。


 日常に帰るためだ。


 彼をみる。視界に納める。体は動いていない。


 空っぽの胃から、酸性の液体が、食道を焼き、渇いた口内を濁流の勢いで爆発させる。


 それを床にぶちまける。


 そして、


 ああ、


 きっと地下の人もだ! 



 っく! 京香の声が、俺を壊さないよう支えてくれた。体を動かしてくれた。


 彼の服に手を触れて、鍵がないか確かめる。


 そこまで、上手い話は無く、鍵は見つからなかった。


 扉を見ると、大きめのがある。


 そうか! ガラスを割って、鍵が反対側にあれば!


 ガラスを触る。結構頑丈そうだ。適当に固そうな機械を手に持つ。


 だめだ! この裸足では踏ん張れず、上手く力が入らない。


 少し離れ、部品をガラスに投げつける。


 小さい傷がつく。


 何度かそれを繰り返し、ガラスを確認する。小さい傷が悪戯に増えるだけだ。


 これでは、何日掛かるかわからない。


 ならば!


 俺は銃を向ける。


 静寂の部屋を小さな火花が、大きい音で突き抜けた!




『大丈夫です。皆様、です。ご安心ください』


 我が家にそぐわない、防護服に身を包んだ男が優しくこちらを見回す。


『ああ、良かった』


 右で安堵の表情を浮かべる母。


『だから、大丈夫だっていっただろう?』


 左で母の肩を、叩く父。


『あの、隣の玉井さんは?』


 疑問を口にし、防護服の男を見上げる俺。


『私達が着いた時には、もう』


 防護服の男が顔を俯き、静かに呟く。


 堰を切ったような、過去の京香の泣き声が、静まり返った部屋に、俺を戻した。




 そうだ! 京香の両親は! 亡くなってしまった!



 俺は、病院服を破り、簡易的なマスクで口を覆う。


 この男達の白い目、泡。


 これは、だ! 


 握る銃に、俺の汗が伝わり、銃口から、床に雫を垂らす。


 となった。

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