第2話

「待ちたまえ」


 イケボで呼び止められる私。

 いや、廊下を通行止めにされている。

 格好付けて、壁の柱に背中を預ける男子生徒が居た。


「えっ、コメダワラ?」


 現れたのは、コメダワラ。

 ポチャっとした大福のような顔、俵のような胴体。背は低いが、両腕も両脚も脂肪ではなく筋肉の鎧を纏っている。

 相撲部に所属している……らしい、奴。


「ニジカ君、君は今、雨を止めようとしているね」


 如何してそんなこと知ってるの?

 コメダワラに私の思考を読む力は無い筈。


「う、うん」

「そんなこと、断固として許さんわぁい!」


 コメダワラは激昂した。

 激しく怒鳴り散らかすと、私を非難する。


「う、うるさいよ?」


 私はまともに返した。

 特にビビることもなく、淡々と呟くと、グッと詰められる。

 ち、近い。近いな、顔が近いし蒸し暑い。


「いいか、米は日本人の国民食! 米の単価も年々増加している、その背景には、圧倒的な米不足と、米の需要に対して供給が怠っているせいなんじゃ!」


 確かにニュースでもよく言われている。

 インバウンド需要? とか何とかで、米の価値が鰻上り。

 そのせいで米の市場価格は年々増加中で、スーパーで見る米の値段はとんでもない。


「それを言われても、私にはどうすることもできないよ?」


 私に言われても仕方ない。

 だからマジでやめて欲しい。

 耳がキンキンして痛むと、コメダワラをガン見する。そんなに見つめられても、何も出ないし出来ないけど。


「いや、いやいや、君にはできるんだよ」

「できるって?」

「ニジカ君、君の力で虹を呼ばれると、せっかくの雨が台無しになってしまうんだ。わかっているかい? 米にとって、水は……」

「命?」

「その通りなのだよぉ!」


 確かに私は虹を呼べる。って言うか、間接的にさ。

 っていうか天気に干渉出来る。そんな風に思われている?

 でもそれとこれとは別では?


 実際、私だって雨が絶対に降らなければいい。なんてこと、腐っても思わない。

 米にとって水が大切なのも百も承知。

 けれど、コメダワラの熱意は尋常では無い。


「米にとって水は命。綺麗でミネラルの豊富な水は、米の旨味を爆増させる栄養素! それを君、濡れたくないと言う理由だけで虹を呼ぼうなどと……言語道断!」


 確かに美味しい米には美味い水が必要不可欠。

 この町の雨模様は、大変豊富なミネラルを含んでいる。

 そのおかげで、旨味成分が爆増するのだが、限度がある。ずっとずっと、雨が降られると困る。

 だからこそ、明日の雨は止めたい。何せ明日の雨は連日連夜続くから。


「即刻取りやめて貰おうか?」

「えっ、断るよ」


 顔がにじり寄る。ウザいな。

 私は手をスラッと逸らすと、壁際に寄せられていることに気付く。


 蒸し暑い、胸糞悪い。

 ここは断固として拒否すると、何食わぬ顔で身を逸らす。


「よっと」

「ぬぁっ!? 逃げるな、卑怯者」


 私はコメダワラの制止など聞く耳を持たない。

 スッと横切ると、意味不明な謂れを受けた。

 卑怯者? 私が? はい?


「卑怯でもいいよ?」

「待てい!」


 コメダワラは俊敏に切り返す。

 私の姿を捉えて追うと、パッ! と駆け出した。

 目の前に立ち塞がると、敵っぽい言葉を吐く。


「この先を通りたければ、この俺を……」

「よっと!」


 いや、もちろん通るよ?

 普通に私は何食わぬ顔をして、廊下をピョン! と跳んだ。


「ぬぁっにぃ!?」


 私はコメダワラの頭を使った。

 ポン! と踏み台にすると、首がグビッと下がる。

 頭上を飛び越えて見せると、軽やかに舞う。


「はい」


 スタッ! と廊下に着地。

 コメダワラの背後を取ると、そのまま玄関へ。

 下駄箱に靴を取りに行くと、私は一言。


「コメダワラ、私は天気を操るんだよ?」


 天気を操るんだ。少しは上を見て欲しい。

 何せ天気は下には無い。常に上にある。

 それを忘れたら、私は捕まえられないよね?

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