「明日は雨が降るかも」と言った私は、虹の龍を手懐ける。

水定ゆう

第1話

「あー、明日は雨が降るかも」


 なんて言葉を呟く私。

 窓の外をボーッと眺めていると、不意にそんなイメージが湧いて来た。


「ニジカ、雨が降るの?」


 隣の席のサミーが訊ねる。

 うん、明日は間違いなく雨が降る。


「うん、多分雨が降ると思うよ」


 私が頷き返すと、サミーは嫌な顔をした。

 それはそうだよ。だって雨が好きなんて人……あっ!


「おっ、マジでか!?」


 アマヤドリがハイテンションだった。

 普段からハイテンションだけど、雨の日はもっとハイになる。それがアマヤドリだ。


「アヤマドリ君、雨の日にテンション上げないでよ」

「おいおい、サミー。雨だぜ、最高だろ!」

「全然最高じゃないよ。ニジカもそう思うよね?」


 アヤマドリは雨の日にテンションが上がる。ウザい。

 サミーは逆に、雨の日はテンションが下がる。ウザい。

 同意を求められても、私には答えられないよ。


「私は……うーん?」


 私は雨が好きでも嫌いでもない。

 だから何とも言えない。

 微妙な返事をすると、サミーはグッと顔を寄せる。


「いやいや、雨だよ? 濡れるんだよ?」

「濡れるかもしれないけど、傘をさせばいいよね?」


 雨に濡れるのが嫌なら、傘でもさせばいい。

 それが嫌なら、レインコートでもなんでもある。

 

 私がそう返すと、サミーはムッとした。

 そういう話ではないみたい?

 うーん、よく分からないな。


「はぁー、分かってないなー」

「分かってないぜ、全くよー」


 二人して私のことを否定する。

 あれ、もしかして私が少数派?

 いやいや、待ってよ。私が少数派になるのは違くない?


「どうして、否定されたの?」


 何故私が怒られたの?

 全然分からない、理解出来ない。

 しようとも思わないけど、キョトンとした顔で慎む。


「いやいや、雨の日は気分が落ち込むんだよ?」

「いやいや、雨の日は最高にテンションが爆上がりするだろ!」


 二人とも意見が全く異なっていた。

 そんなに違うことある? 真逆だよ?

 しかも私一人に訴えないで……って、教室には私達三人だけか。


「はい?」

「はっ?」


 短い言葉、そして威嚇の顔。

 睨み合いをすると、バチバチと火花が散る。

 このまま雷でも落ちるのでは? そう思うと、本当に落ちそうでウザい。


「喧嘩はよくないよ?」


 二人は喧嘩腰だった。

 止めた方がいいのかな? いやいいよね。

 別に私が止めなくても、どのみち明日は雨が降る。


「喧嘩なんてしてないよ?」

「喧嘩じゃねえよ、これは譲れない言い合いだ!」


 いやいやいやいや、喧嘩だよね?

 私にはそうしか見えないけれど、喧嘩ではないと言い合う。訴えられても知らないけど。


「いや、それが喧嘩なような?」


 これは喧嘩なのでは?

 喧嘩以外の何者でもないのでは?

 困り顔を浮かべると、私は首を捻る。


「「喧嘩じゃないよ!」ねぇよ!」

「あっ、うん、そうだね」


 もう黙るしかなかった。

 完全に黙らされてしまうと、私は言葉を飲む。

 目を泳がせると、とりあえずこれが無難だよ。


「ねぇ、ニジカ。どっちが正しい?」

「なぁ、ニジカ。どっちが正しいと思う!」


 どっちも正しい。けど、そんなことを言うと、また喧嘩になる。

 嫌だな、ウザいな、喧嘩って。

 少なくとも、私のことを巻き込まないで欲しい。


「どっちでもいいけど?」


 関わったらダメな話だ。

 私は速攻で切り上げると、パッと立ち上がる。

 明日は雨が降るから、私も対策をしよう。

 とりあえず、虹でも引っ張ってこようかな?


「ねぇ、私帰ってもいい?」

「「はぁ!?」」


 これ以上の喧嘩には付き合ってられない。

 私も暇ではない。

 これから虹を引っ張って来ないといけないんだ。


「これから虹を連れて来るから」

「えっ、ニジカ?」

「ニジカさーん、ちょいと、それはその……」


 私が虹を連れて来ればいいのでは?

 だって、そうしたら喧嘩の意味は無いよね?

 うん、それがいい。だから止めないで欲しいな。


「早く雨がやめばいいよね?」


 早めに雨がやめばいい。

 もちろん雨量は確保する必要がある。

 だって、美味しいお米も小麦食べたいから。


「それじゃあ……」


 私は鞄を持って、教室を出る。

 ここにいても仕方ない。早く虹を見つけて連れて来よう。

 チラチラ視線を窓の外に飛ばすと、何となくの輪郭を見つける。


「いや、それは」

「コメダワラの奴が許さないだろ」


 私は教室を後にした。

 何か言っているみたいだけど、全然気にしない。

 真顔で学校を出ようとすると、玄関で大福顔の男性に呼び止められてしまった。

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