第13章 炎上——プロパガンダの罠



 偽勇者事件から一ヶ月後。


 勇者パーティーは、東部の村々を巡回し、魔物討伐を行っていた。


 認知度は五十パーセントを超え、支持率も上昇していた。すべてが順調に見えた。


 しかし——


 その日、事態は一変した。


     ◆


 クロートは、王城のオフィスで報告を受けた。


「ベルン村が、壊滅した?」


「はい」


 報告者は、ガルドだった。


「昨夜、大規模な魔物の群れが襲撃しました。村は全焼。死者は、五十名以上」


 クロートの表情が、強張った。


「勇者パーティーは、どこにいた」


「隣のアーデル村で、別の魔物を討伐していました。ベルン村への救援は——間に合わなかった」


 沈黙が、部屋を満たした。


 やがて、クロートは立ち上がった。


「街の様子は」


「……荒れています」


 ガルドの声が、重くなった。


「『勇者は、アーデル村だけを守った』『ベルン村は見捨てられた』という噂が広まっています」


「そんな馬鹿な。同時に二つの村を守れるわけがない」


「わかっています。しかし——」


 ガルドは、一枚のビラを差し出した。


『勇者は特定の村だけを贔屓している! 彼らは本当に民衆の味方なのか?』


 クロートの顔色が、変わった。


「これは——」


「街中にまかれています。誰が、いつまいたのかは不明ですが——」


「情報操作だ」


 クロートは、ビラを握りしめた。


「誰かが、意図的に勇者パーティーの評判を落とそうとしている」


     ◆


 街に出ると、空気が違っていた。


 市場では、ひそひそ話が交わされている。酒場では、勇者への批判が公然と語られていた。


「勇者なんて、あてにならない」


「結局、俺たちのことなんか考えてないんだ」


「自分たちが目立つことしか考えてない」


 クロートは、歯を食いしばった。


(これは——炎上だ)


 前世で何度も見た光景だ。一度火がついた悪評は、真実かどうかに関係なく、瞬く間に広がる。


 反論すれば、「言い訳だ」と言われる。黙っていれば、「認めた」と言われる。


 どちらに転んでも、評判は落ちる。


「どうする……」


     ◆


 オフィスに戻ったクロートは、勇者パーティーを集めた。


 全員の顔が、暗い。


 特にアルトは、完全に打ちひしがれていた。


「俺のせいだ……」


「アルト——」


「俺がもっと速く動けていれば。俺がもっと強ければ——」


「違う」


 クロートは、きっぱりと言った。


「これは、敵の策略だ。お前たちは、できる限りのことをした。同時に二つの場所を守れないのは、物理的な限界だ」


「でも——」


「アルト。今、お前が自分を責めても、何も解決しない」


 クロートは、全員を見回した。


「問題は、この状況をどう打開するかだ」


 セレナが、疲れた声で言った。


「反論するの? でも、反論しても——」


「しない」


「え?」


「反論は、しない」


 クロートは、首を振った。


「言葉では勝てない。相手は、こちらが反論すればするほど炎上が広がることを知っている」


「じゃあ、どうするの」


「沈黙する。そして——行動で示す」


     ◆


 クロートの戦略は、「沈黙と行動」だった。


 批判には一切反論しない。その代わり、勇者パーティーは黙々と各地を巡り、魔物を討伐し、民衆を助け続けた。


 一週間、二週間——


 最初は、効果が見えなかった。批判は続き、評判は低迷したままだった。


 しかし、三週間目——


 変化が起きた。


「ねえ、聞いた? 勇者たち、ウェストン村でも魔物を倒したって」


「ああ、俺も聞いた。毎日どこかで戦ってるらしいぞ」


「批判されてるのに、まだ続けてるのか……」


「……すごいな、あいつら」


 人々の視線が、少しずつ変わっていった。


 「批判されても、黙々と働き続ける勇者パーティー」——その姿が、逆に民衆の心を打ち始めた。


     ◆


 一ヶ月後。


 炎上は、沈静化した。


 認知度は一時的に下がったものの、その後V字回復し、五十五パーセントに達した。


 何より重要なのは、「信頼度」の上昇だ。


「言葉より、行動で証明する」


 クロートは、オフィスで報告書を読みながら呟いた。


「それが、最も説得力のあるプロモーションだ」


 しかし——


 この試練は、パーティー内部にも影響を与えていた。


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