第12章 競合対策——偽勇者との戦い



 セレナのスピーチから一週間後。


 新たな問題が発生した。


「偽勇者が現れた?」


 クロートは、報告を聞いて眉をひそめた。


「はい」


 報告者は、セレナだった。彼女は、情報収集担当として街の噂を集めている。


「王都の東門付近に、『俺こそ真の勇者だ』と名乗る男が現れたそうです。神剣に似た剣を持ち、民衆に演説している」


「神剣に似た剣?」


「レプリカらしいですけど、遠目には区別がつかない。民衆は混乱しています。『どっちが本物の勇者なのか』って」


 クロートは、考え込んだ。


(情報攪乱か。誰かが、意図的に混乱を起こしている)


 魔王側か、それとも宰相派か——どちらにせよ、放置はできない。


「その偽勇者、今どこにいる」


「東門の広場で、毎日演説しているそうです」


「行ってみよう」


     ◆


 東門の広場には、人だかりができていた。


 中央に立っているのは、三十代前半の男だ。筋肉質な体格に、派手な鎧。手には、金色に輝く剣を持っている。


「民衆よ! 俺こそが、真の勇者だ!」


 男は、大声で叫んでいた。


「神剣を抜いたのは、俺だ! あの『アルト』とかいうガキは、偽物だ!」


 群衆が、ざわめいた。


「どっちが本物なんだ?」


「わからない……」


「でも、この人、神剣を持ってるじゃないか」


 クロートは、群衆の中から男を観察した。


(演説はうまい。自信に満ちている。しかし——)


 あの剣は、本物ではない。神剣は、アルトが持っている。あれはレプリカだ。


 しかし、言葉で反論しても、「水掛け論」になるだけだ。


(どうする?)


 クロートは、考えた。


 言葉で戦っても、勝てない。偽勇者も、こちらと同じように「俺が本物だ」と主張するだけだ。


 なら——


「行動で証明するしかない」


     ◆


 翌日。


 クロートは、勇者パーティーを集めて提案した。


「公開イベントをやる」


「公開イベント?」


 アルトが、首を傾げた。


「魔物討伐の実演だ。お前たちが実際に魔物を倒すところを、民衆に見せる」


 ガルドが、腕を組んだ。


「なるほど。偽勇者が『本物』なら、同じことができるはずだ。しかし、できなければ——」


「偽物だとバレる」


 セレナが、にやりと笑った。


「いい手ね。あの偽勇者、どう見ても実戦経験なさそうだったし」


 クロートは、頷いた。


「問題は、魔物をどう調達するかだ」


「それなら」


 リゼットが、静かに口を開いた。


「王都の北にある森に、ゴブリンの巣があります。討伐依頼が出ていますが、騎士団は手が回っていない」


「ゴブリンか。弱すぎないか?」


「数が多いそうです。巣ごと殲滅するなら、それなりの見せ場にはなる」


 クロートは、考えた。


「よし。ゴブリン討伐の公開イベントを企画しよう。偽勇者にも、参加を呼びかける」


「呼びかけるの?」


「ああ。『本物の勇者なら、一緒に魔物を倒せるはずだ』と。逃げたら、それだけで偽物だと証明される」


     ◆


 イベントの告知は、吟遊詩人と教会を通じて行われた。


『勇者アルト・ヴェイン、ゴブリン討伐公開戦! 自称勇者諸氏も、ぜひご参加を!』


 挑発的な告知だ。


 偽勇者は——


「ふん。望むところだ!」


 予想通り、挑発に乗ってきた。


「俺こそが本物の勇者だと、証明してやる!」


     ◆


 イベント当日。


 王都北の森には、数百人の見物客が集まった。


 中央には、勇者パーティーと偽勇者が向き合っている。


「始めるか」


 クロートが合図を出すと、騎士団がゴブリンの巣を開放した。


 十数匹のゴブリンが、森から飛び出してきた。


「うおおおおお!」


 偽勇者が、金色の剣を振りかざして突進した。


 しかし——


 最初のゴブリンの攻撃を受けて、あっさりと吹き飛ばされた。


「ぐわっ!」


 地面に転がり、立ち上がれない。


 一方、アルトは——


 静かに、神剣を抜いた。


 白銀の光が、剣から溢れ出す。


「はあっ!」


 一閃。


 ゴブリンが、三匹同時に切り裂かれた。


 続いて、セレナが短剣でゴブリンの急所を突き、リゼットが炎の魔法で群れを焼き払い、ガルドが盾で残りを押しつぶす。


 わずか五分で、ゴブリンは全滅した。


 見物客から、歓声が上がった。


「すごい!」


「あれが本物の勇者だ!」


「偽勇者、弱っ!」


 偽勇者は、地面に座り込んだまま、震えていた。


「う、嘘だ……こんなはずじゃ……」


 クロートは、偽勇者の前に立った。


「誰に頼まれた」


「え……」


「お前を雇ったのは誰だ。白状すれば、罪は軽くなる」


 偽勇者は、青ざめた顔でクロートを見上げた。


「わ、わからない……仲介人を通じて依頼が来ただけで……」


「仲介人の名前は」


「し、知らない……本当に……」


 クロートは、溜息をついた。


(尻尾は掴めなかったか)


 しかし、目的は達成した。


 偽勇者は排除され、アルトが「本物」だと証明された。


     ◆


 イベントの後、認知度は三十パーセントから四十五パーセントに上昇した。


 さらに重要なのは、「好感度」の上昇だ。


 実際に戦う姿を見た民衆は、アルトを「本物の勇者」として認め始めた。


「言葉じゃなく、行動で証明する」


 クロートは、オフィスで独り言を呟いた。


「これが、最も説得力のあるプロモーションだ」


 しかし、戦いはまだ終わっていない。


 第三部の終わり——そして、第四部の始まりが、すぐそこまで迫っていた。




第四部 試練と成長


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