ガタンゴトン

時刻:水曜日の午後一時

場所:北上する東北新幹線の車内

人物:窓側の女と通路側の男(ふたりに面識はない)


女「席を代わっていただけて助かりましたわ」

男「いや、あなたが思いつめた顔で、私越しに外をながめていらっしゃったので」

女「見事な田園風景ですね。心が落ち着きます」

男「ああ、まあ、我々のDNAに刻まれた原風景なのでしょうからね」

女「……私、結婚を約束していた男性に振られてしまったんです」

男「それで、……旅行というわけですか?」

女「いいえ。同棲していて、彼の名義で借りていたから家を出て行くしかなく、この際だからと、実家の仙台に戻ろうかと思って」

男「なるほど。それがよい選択になることを祈っております」

女「ありがとう。ビールを一本いかが?」

男「いえ、ご厚意はうれしいが、これから商談なんです」

女「あら、ビジネスマンはたいへんですね」

男「まあね。でも、まあ、世の中のいろいろな職業に比べれば楽なほうなんじゃないかなと思っています」

女「将来、なりたい職業とかあったんですか?」

男「いいえ。子供の頃からありません。だから、やりたい職業ではなく、やりたくない職業から考えて、いまの職場で働いています。けっして楽ではありませんがね」

女「賢い選択ね。私も頭が良かったら、いい大学に行くとかそういうことではなくてね、もっと地頭がよかったらよかったのに」

男「……」

女「(何本目かのビールを開けて) 私、さいきん、思うの。なぜ、生まれて来て、生きているのか。私という存在は何なの。なぜ、存在していなければならないのだろうって。この宇宙って、なんであるんでしょうね。そして、私にはよくわからないけれど、この宇宙にも終わりがあるんでしょう?」

男「さあ、私は文系でしたから、そういうむずかしいことはよくわかりませんね」

女「理系だからって、わかるものなのかしら」

男「どうなんでしょうね。何となく、だれにもわかっていないようなことにも思えますけどね」

女「ああ、精神が不安になると、生きていること、この存在しているというふしぎな感覚が重荷になるわ。だれか、だれでもいいから、答えを出してくれないかしらね」

 女が次の一本を飲もうとしたとき、やんわりと男がそれを制した。女は黙ってそれを受け入れた。

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