讃美歌

時刻:土曜日の午前十一時半

場所:大阪市の結婚式場

人物:新郎の友人AとB(ただし、ふたりは初対面)


 教会の椅子に並んでいるふたりの耳には、さきほどから、おごそかな音楽が流れて込んでいた

A「こういう晴れの場にいると、逆説的に死というものが私の中に忍び込んでくる」

B「わからないでもないですね。冠婚葬祭とはそういうものでしょう。ある種の人にはその場とは逆のものを思い起こさせる」

A「生に浸っていればこそ、死について思いを巡らさざるを得ない。生きているから結婚する。それから子供が生まれる。結婚式とは、そういうものを想起させる場のはずなのに」

B「それは我々が度しがたい、いろいろと考えてしまう生き物だからでしょう」

A「生の場で死を思い、死の場で生を思う」

B「それは、生と死が実は一体だからではないでしょう。コインの裏表ではなく、陰陽のように入り混じっているイメージが私にはしっくりきます」

A「たしかにそうだね。人はなぜ、生きて死ぬのだろうな。なぜ、そのように創られたのだろうか。創られたのだとしたら」

B「人が子をつくり、その子が人をつくる。その繰り返しの中に、創造主というものがいるのならば、なにか考えが、その人間が織りなす波が見たいのかもしれませんね」

A「なんにせよ。我々にはどうしようもない話だな。我々には、新郎新婦を祝うことぐらいしかできない」

B「それで十分ではないですか。さあ、ふたりがもうすぐやってきますよ。一緒に讃美歌を歌いましょう」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る