麒麟

時刻:木曜日の午後七時

場所:料亭

人物:若い起業家とその出資者


 キリンラガービールのラベルをうえにして、起業家が出資者に酒をついだ。つぎ終わると、出資者が起業家のグラスに、ビールを注いだ。

 ビールのラベルを見ながら出資者がたずねた。

「きみは『春秋』という書物を知っているかね?」

 起業家はすなおに「なまえだけは。孔子が書いたとされる歴史書でしたね」

 若者の答えに老いた出資者は満足そうにうなづいた。

「その書物の最後にりんが出てくる。麒麟というのは瑞兆のひとつで、聖人が現れる前に出てくるとされている。しかし、麒麟が現れても聖人は出て来なかった。出てくるのが早すぎたのだ。麒麟は物を知らぬ者たちに恐れられ、殺されてしまったそうだ。聖獣と呼ばれるわりには、おっちょこちょいだな」

 出資者が飲み干したグラスを、起業家がビールで満たした。

 出資者が言った。「わしは、うまいこと時流にのって富を得ることができた。ほかの人に比べれば、この世を楽しむことができた。はてさて、きみはどうだろうな?」

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