夕焼け
時刻:金曜日の午後四時
場所:夕焼けに染まった図書館の踊り場
人物:「プラトン全集1」を読んでいる少年の横に、星新一の「つねならぬ話」を手にした少女が坐っている。少年は本を読む手をとめ、少女の髪をもてあそびはじめた
少女「いつも同じ本を読んでいるわね。おもしろい?」
少年「おもしろいよ」
少女「ソクラテスさん。死んじゃうのよね」
少年「そうだよ。死んじゃうよ。ソクラテスさんは」
少女「まだ若いからかしら、死ぬのが最近、とても怖いの」
少年「それは僕だって同じさ。でも、僕たちは、なるべく、よく生きて、言い換えれば、うつくしく生きて死んでいかなければならない存在なんだ」
少女「そうね。それはわかっているけれど……。ねえ、死んだら、私たち、どうなるのかしらね。天国とか地獄とかに行くのかしら」
少年「さあ、わからないよ。どうやら、僕の調べたかぎりだと、少なくない人が、あの世の存在を何となく信じているようだ」
少女「信じていることと、実際に存在していることには、大きなへだたりがあるわよ」
少年「そうだね。でも何となく、何と言ったらいいのかな、そういう人たちの思いというか、力のようなものは感じるね」
少女「それは、あなたが死後の世界を信じているからではないかしら」
少年「そうかもしれない。そうでないかもしれない。でも、あの世があるのかないのか考える前に、僕たちには考えなければならないことが山ほどある。どうなるか、本当のところはだれも知らないことなんて、考えるだけ時間のむだかもしれない。準備したって、それほど意味があるとも思えないしね」
少女「そうね。それは正論ね……。ねえ、私たち、なぜ生まれてくるのかしらね。生きているのかしらね。存在しているのかしらね」
少年「それもだれにもわからないことだよ、本当のところは」
少女「なぜ、入ったのかもわからず、出口の先がどうなっているのかもわからない世界で、私たちは、そりゃ、楽しいこともあるけれど、つらいことのある世界で生きて行かなければならないのかしらね」
少年「そうだよ。生きていかなければならないんだよ。それは悲しいことに思えるけれど、それは主観的過ぎるかな。なぜ、生まれてくるのだろう。生きているのだろう。存在しているのだろう」
そのように言い終わると、少年は、夕日に照らされて亜麻色にかがやく少女の髪をもてあそぶのをやめ、彼女に口づけをしたのだった。
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