そして彼もいなくなった
天野 純一
第1話 問題編①:そして彼もいなくなった
そんな一族だったが、どういうわけか子孫が途絶えることはなかった。彼らは小さなコミュニティーに閉じこもり、粛々と生活を送っていた。
現在、一族の長を務めているのが闐闐
穣太郎には妾の子が一人いる。それが俺——
でも一族の血を引いているだけあって、周囲を不幸に巻きこんだこと数知れず。それでいて妾の子という立場だから、一族からも毛嫌いされている。言ってしまえば最悪の身分だ。
俺は幼い頃から父の穣太郎が憎くて憎くてしかたがなかった。あいつにとっては一時の〝遊び〟でしかなかったのかもしれないが、そのせいで母や俺は生涯を狂わされてしまった。
あんなやつ死んじまえばいいのに。何度そう願ったことか。
そしてついにそのチャンスがやってきた。一族一同、絶海の孤島・
俺はここで一族殲滅を決行する。絶対に成功させて見せる——。
とある年の五月三日。午後六時。
俺は全身血まみれで天神館のロビーに立っていた。右手には大きな出刃包丁。
最初に刺殺したのは家長の政文だ。
館内がパニックに陥っているなか、俺は闐闐家の人間を次から次へと刺した。
最後に残ったのは——闐闐穣太郎。俺はついに彼を部屋の隅まで追い詰めた。
穣太郎は血走った目で俺のことを見返す。
「お前さえ……お前さえ生まれなければよかったんだ」
こいつは本気で言っているのだろうか。言いようのない怒りがこみあげてきて、こめかみがじんじんと疼く。
俺は舌打ちする。
「元はと言えばあんたが蒔いた種じゃないか。俺を生んだのはあんただ。責任の所在を見誤るな、クソ親父」
包丁を振り上げる。
「死ね」
グサリ。
刃が右胸のあたりに突き刺さった。すかさず包丁を抜く。穣太郎は「うっ」と唸り声を上げ、うずくまった。
彼は恨みがましい形相で睨んでくる。しかしそうしていられるのも束の間だった。彼は胸から大量に失血し、すぐに意識を失った。
そっと穣太郎の脈に触れる。まもなく鼓動は弱まっていった。
完全に脈がなくなり、呼吸も止まったのを確認してから、彼の元を離れる。俺は包丁をその場に捨て、せいせいした気持ちで外に出た。
見上げると辺り一面が曇り空。大気が不安定な状態が続いているらしい。
ゴロゴロゴロ……。遠くから雷鳴も聞こえてくる。
島の中央に大きな池がある。
俺は全身真っ赤な着衣のまま、龍神池にずぶずぶと足を踏み入れた。このあとは海に身投げして全てを終わらせる。その前に身を清めておきたかった。
池の真ん中付近で立ち止まる。
神にでもなった気分だった。一族を一人残らず殺害し、「闐闐」の苗字をこの世から消し去ることに成功した。
この浮世島で生き残っているのは、もう俺だけ。脈と呼吸は確認したから、全員間違いなく死んでいるはずだ。
少し顔をうつむき気味にし、目をつぶって喜びを噛み締める。
——そのときだった。
俺は後頭部に強い衝撃を受けた。固い鈍器で殴りつけられたような感覚。まさか背後に人間が……?
たしかに背後には気を遣っていなかった。正直誰かが水音を立てずに近づいてきたとしても、気がつかなかっただろう。
しかしいったい誰が——。全員確実に殺したはずだ。
スローモーションのように視界が揺らぎ、うつ伏せに倒れこむ。
バッシャーン!
一瞬、穣太郎の恨みがましい表情が脳裏に蘇った。
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