第2話 理由

「――おはよ、暖斗はるとくん! 今日も――」



 それから、数日経て。

 扉から少し離れた辺りで、今日も今日とて晴れやかな笑顔で挨拶をしてくれる鮮麗な女性。そして、その手にはいつもの通りランチクロスに包まれた長方形の……あの、いつも言ってますけどほんとに結構ですよ? ご存知かと思いますが、ちゃんと食事出ますし、施設ここ



「――それでさ、暖斗くん。今度こそどっか遊びに行こうよ。もちろん、お金は私が全部持つから!」

「……いえ、その、結構です」


 すると、心持ち距離を詰めそう口にする奏多かなた先生。そんな彼女に、たどたどしい口調で断る僕。……いえ、その、結構です。そもそも、僕と遊びにいくなんてこと自体、誰にとっても罰ゲームでしかないはずなのにその上お金まで全部持つなんて、それではあまりに彼女が不憫で――


 ……いや、こんなのはただの口実。ただ、僕の気が進まないから。明け透けに言えば、ただ嫌だから断わっているだけで。 


 ……ほんと、なんでここまで……もしかして、僕に哀れんで? いや、哀れんでいるとしても……でも、だからってここまでするだろうか? だって、僕が受けたような被害は決して僕特有のものじゃない。似たような被害に遭った人は、きっとこの施設だけでも少なからずいる。そもそも、事情は違えどここにいる子達はそれぞれに苦痛を抱えているはず。そういう意味でも、やはり僕だけを特別扱いする理由には到底ならない。……だとしたら、本当に僕のことを――


 ……いや、それはない。それは、僕なんかを好きになるはずがない、と言うのもあるけれど……何より、その晴れやかな笑顔の中に――






「…………ふぅ」



 ある日の夕方の頃。

 敷地内に在する小さな中庭のベンチにて、ただぼんやりと空を眺める。視界には茜が一面に広がり、微かな風が優しく頬を撫でる。こんな何でもない時間が、何故かとても心地が好い。……もう、このままずっと――



「……あの、暖斗くん。なんか、暖斗くんにお客さんが来てるみたいなんだけど……」

「……お客さん?」


 すると、ふと姿を現したのは藤野ふじのさん。どうやら、僕に言伝を頼まれここに来てくれたみたいだけど……お客さん? 僕に? 奏多先生――うん、じゃないよね。だとしたら、お客さんなんて言い方はしないはずだし。


 ともあれ、藤野さんに感謝を告げ施設内のリビングへと少し駆け足で向かう。……うん、ほんと誰だろ。



「――こんにちは、君が比良ひら暖斗くんだね」

「……へっ? あっ、はい……」


 その後、ややあってリビングに到着。すると、そこにいたのはスーツ姿の秀麗な男性。清潔感があり、見るからにとても仕事のできそうな人で。……ただ、それはともあれ……えっと、どちらさま? 僕に、こんな美男子の知り合いなんて――


「――初めまして、僕は桐島きりしま文哉ふみや。突然のことで申し訳ないけれど……それでも、熟考を重ねた結果、君には話さなければならないと思いここに来たんだ。この施設の元保育士、早霧さぎり奏多についてね」


「…………へっ?」










  

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る