第5話 - エルフの王国へ
私――ルナ・フォルカから直接命令を受けたNPCたちは、それぞれの任務へと動き出していた。だが、正体不明の敵に本拠地を狙われる可能性を考え、獣人族の王国
《ビーストランド》への派遣は、バザグチとザッタの二名のみに留めた。
私とドッペル・リーガーは、《三日月の迷宮》に最も近い《エルフ王国》へ向かって歩いていた。正直に言えば、エルフ王国に関する最新情報は、私の中でもまだ少ない。
アルヴァシア・ファンタジーでは熟練プレイヤーだったとはいえ、カステロやルメルのような創設魔女たちほど、世界設定の隅々まで把握していたわけではない。
「ルナ様……いえ、こちらでは……。私の顔が、あなたとここまで似ていて問題ありませんか?」
前を歩く私に、ドッペル・リーガーが問いかけてくる。
「問題ないわ、ドッペル・リーガー。双子のエルフ姉妹という設定にする。血縁関係がある方が、余計な疑念を持たれにくい」
私は歩みを止めず、淡々と答えた。私の外見は、ほとんど変えていない。使用したのは、《コレクティングカード》の中の一枚だけ。耳をエルフ族のようにわずかに長くし、ドッペル・リーガーにも同じ変化を施した。白いローブとフードを身に纏い、
そして――
【完全偽装(パーフェクト・ディスガイズ)】
外見だけでなく、ステータス・レベル・スキルまでも、偽装対象の種族平均へと上書きする、高度な偽装用カード。
「ここでは、私は“リサ”。あなたは“ルシア”。私は姉、あなたは妹よ」
「了解しました。つまり、一般的なエルフの家族を演じればよいのですね」
「門番の前では、私に敬語は使わないで。“リサ姉ちゃん”と呼びなさい」
「……承知、しました。リサ姉ちゃん」
少しぎこちないが、問題ない。私は心の中で、かつての仲間たち――
ルメルやカステロのことを思い出していた。
(……少し、懐かしいわね。でも、今は私が決断しなければならない)
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エルフ王国の関所は、想像以上に厳重だった。中へ入るためには、種族・身分・滞在目的の申告が必須。
「失礼いたします。お二人はこれから王国へ入国されるのですね」
エルフ族の門番が、丁寧な口調で声をかけてくる。
「ええ。同じエルフ族として、規則には従います」
「ありがとうございます。では、こちらで書類の記入をお願いします」
フードを外すと、門番は私たちの耳と顔立ちを確認し、警戒を解いた様子で頷いた。
――問題なし。書類手続きが完了すると、王国の簡易地図と通行許可証が渡される。
「リサ様、ルシア様。入国は確認されましたが、一点だけ注意事項があります」
「注意事項……?」
「“タリア”という名のエルフを見かけた場合、必ず王国の警備兵へ報告してください」
「犯罪者、なのですか?」
「才能が危険すぎるとして、王族から追放された存在です。王国に災厄をもたらす可能性があります」
――追放されたエルフ。
(なるほど……これは、無視できない情報ね)
「大丈夫ですか、リサ姉ちゃん?」
「ええ、大丈夫よ。私たちは静かに情報を集めるだけ」
「その通りです。問題を起こさなければ、安全は保証されます」
私たちは礼を述べ、王国の門をくぐった。
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門の向こうには、活気あるエルフ王国の街並みが広がっていた。エルフだけでなく、ドワーフや獣人族の姿も見える。
――だが。
(……低級モンスターの反応が、ない)
本来なら、スライムのような存在が都市周辺には必ずいるはず。それが、索敵魔法に一切引っかからない。
「ルシア。集めるべき情報は覚えているわね?」
「は、はい……。時間概念、単位、教育制度、技術水準……全部です」
「その通り。でも、ここは何かを隠している」
私は王国の奥を見据えた。
「……ここは、思っている以上に危険な場所かもしれない」
こうして、私――ルナ・フォルカとドッペル・リーガーのエルフ王国での情報収集が、静かに始まった。
――この出会いが、《三日月の迷宮》の運命を揺るがすとも知らずに。
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