第4話 - 私たちの最初の計画

「落ち着きなさい、私の配下たち」


私がそう告げると、中央ホールに集まっていた全員が静まり返り、再び深く頭を下げた。それは、私がこの《アルヴァシア・ファンタジー》の世界に一人取り残される以前――他の魔女たちがまだ存在していた頃とは、明らかに違う光景だった。


「ドッペル・リーガー、あなたに一つ聞きたいことがあるわ」


私が名を呼ぶと、彼は静かに顔を上げる。


「何なりとお聞きください、ルナ様。私は一切の偽りなくお答えいたします」


「あなたの創造主は誰?」


「私の創造主は、カステロ・ザザザ様です。三日月迷宮において《創造の魔女(クリエイター・ウィッチ)》と称されていたお方です」


その答えを聞き、私は頭の中で情報を整理し始める。今の私は迷宮にただ一人だが、そもそも三日月迷宮は、誰か一人で築けるものではなかった。


「カステロは、七人の創設魔女の一人よ。私と肩を並べるほどの力を持っていた存在だということ、あなたも分かっているでしょう?」


「はい、ルナ様。私にとっても、非常に大切なお方でした」


「そう……彼は少し変わり者だったわね。迷宮を築き始めた最初期に、あなたを創った。しかも、あなたの姿には私の顔と身体を使った……異形にならないために」


「その件につきましては、誠に申し訳ございません、ルナ様。私があなた様の姿を模していることを、不快に思われてはいませんか?」


私はその問いを、特に気に留めなかった。今の私にとって重要なのは、感情ではなく情報だった。


「いいえ、問題ないわ。姿を定めず、他者を模倣する――それがあなたの能力。その擬態が問題を起こさない限り、私は何も言わない」


「承知いたしました、ルナ様。今後も細心の注意を払います」


「さて、本題に入りましょう。以前にも言ったけれど、この世界は――私たちの未来へ至るための足がかりよ」


私は視線を上げ、ホールに集うNPCたちを見渡した。この世界を支配する覚悟は、すでに私の中で固まっている。


もっとも、私はまだこの世界に来たばかりだ。

《アルヴァシア・ファンタジー》を知ってはいるが、今の状況に関する情報は圧倒的に足りない。


最新アップデート以降、桃崎トウカであった私は、ルナ・フォルカとしてこの世界に閉じ込められた。

外の世界から得られる情報がない以上、これは致命的な弱点だ。


「三日月迷宮の最強の魔女たちが夢見た世界は、確かに容易ではないわ。

でも――不可能ではない。他の魔女たちがいなくなった今でも、迷宮には最後の使命が残っている」


「ルナ様、宝物庫に保管されている特別なアイテムをお使いになるおつもりですか?」


カマカが慎重に問いかけてくる。


「ええ。《コレクティング・カード》の一部を使う予定よ。少し無謀かもしれないけれど、警戒は必要だわ」


「承知しました。ですが、私たちはまだこの世界を完全には把握できておりません。全力で調査を進めます」


その言葉を聞きながら、私はカードの力を試すべきか思案する。迷宮の外には、未知の危険があふれている。


私は玉座から立ち上がり、数歩前へ進んだ。それだけで、場の空気が一気に張り詰める。


「この決定に異議は認めない。私自ら、この世界を調査する。三日月迷宮の最後の指導者として、同行する者を指名するわ」


「はい、ルナ様!」


「バザグチ、ザッタ。獣人族が治める王国――ビーストランドへ向かいなさい。この世界の情勢と法を徹底的に調べるの」


バザグチは紫の鱗に覆われた体と鋭い顎、長い尾を持つ爬虫類のような姿で、黒いスーツを着こなしている。

一方のザッタは、顔も髪もない木製の人形。人工の魂を与えられた存在だ。


「承知いたしました、ルナ様。ザッタと共に、命令通り調査を行います」


「必ずや、ご期待に沿ってみせます」


二人は、かつての仲間――カステロとルメル・メロディによって創られた存在。その名を、私は今でも忘れていない。


「ドッペル・リーガーは私と共に、最寄りの都市へ向かう。この迷宮はエルフ王国の領内にある。彼らの知識は、必ず役に立つわ」


「承知しました、ルナ様」


「三日月迷宮の全員に告げる。私たちの目的はただ一つ。妨げるものは許さない――失敗も、許さない」


「御意、ルナ様!」


その直後、私とドッペル・リーガーの姿は中央ホールから消えた。バザグチとザッタも、それぞれの目的地へと動き出す。


――こうして、私たちの最初の一歩が踏み出された。


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エルフ王国


《アルヴァシア・ファンタジー》に存在する、十の大領域の一つ。純血のエルフ王と王妃が統治する国。


だが、その裏側――闇に紛れた場所には、他のエルフには持ち得ない力を宿す一族が存在していた。


薄暗い部屋。三本の蝋燭だけが揺らめく中、ボロ布を纏った一人のエルフの少女が実験を続けている。


「……うん、たぶん、これで合ってる……」


彼女は呟き、動かない。


――その少女こそが、エルフ自身によって捨てられた、王国の“鍵”だった。

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