第3話 - 最後の指導者の願い

「……あり得ない。ふざけないで。そんなこと、絶対にあってはならない……!」


私は怒りを抑えきれず、声を荒げた。


「勝手にすべてを終わらせないで……!私は――《三日月迷宮》の創設者の一人、ルナ・フォルカよ!こんな結末、認めるわけにはいかない!」


感情が爆発し、私は床を強く踏みつけた。事実を覆すことはできないと分かっていても、どうしても受け入れられなかった。


「ルナ様……! 何か問題が――?」


扉の向こうから、カマカの焦った声が響く。


「入ってこないで、カマカ。あなたは他のラミアたちと共に、大広間へ向かいなさい。これは命令よ」


「しかし……!ルナ様は、我々三日月迷宮にとってかけがえのない存在です。もし重大な問題が起きているのなら、我々は命を賭してでも――」


「……私の言葉が聞こえなかったの?」


怒りを含んだ声で、私は遮った。


「泣き言はやめなさい。今すぐ行きなさい、カマカ!」


「……かしこまりました、ルナ様。ラミアたちを大広間へ向かわせます」


その声が消えると同時に、扉の外からカマカの気配も消えた。


……ようやく、静寂が戻る。


私は深く息を吸い、乱れた思考を整えた。これほど取り乱したのは、それだけ――仲間たちを大切に思っていたから。


(本当に……皆、いなくなったの?)


もし、先ほどのアップデートが原因なら。ヴェディゴや他の仲間たちは、まだ“元の世界”にいる可能性もある。私は部屋の中を歩きながら、壁一面に並ぶ《コレクティングカード》を見つめた。


(落ち着け、私。もしかして、この《アルヴァシア・ファンタジー》に閉じ込められたのは私だけ?アップデートを受け取ったプレイヤーが、他にもいる可能性は……)


私は大きなソファに腰を下ろした。情報が、圧倒的に足りない。だが、嘆いていても始まらない。


「……バザグチとザッタに、外界の調査を命じよう。他種族の動向も把握する必要がある」


私は静かに立ち上がる。


「もう、元の世界へ戻る道はない。……私は、そう覚悟している」


必要な《コレクティングカード》を数枚選び、白い魔女のローブの下、腰のポーチに収めた。疑念と不安を抱えながら、私は部屋を後にする。


――ここは、《三日月迷宮》。仲間たちと共に、最強を目指した場所。


「もし、二度と元の世界に戻れないのなら……私の目的は、変わる」


三日月迷宮・大広間白き壁に囲まれ、天井には星空が広がる大広間。《三日月迷宮》第十層に位置するこの場所には、多くのNPCたちが集まっていた。


「まさか、これほど多くの者が集うとは……」


「ルナ・フォルカ様が、我々に語られるのだ。最強の魔女たちが消えた今、お仕えすべき方はただ一人」


「直接お姿を拝見できるとは……ルナ様は、唯一無二の《コレクターウィッチ》だ」


その時――


白きローブと魔女帽をまとった存在が、天より降り立った。冷たい視線が、場を支配する。それを感じ取ったNPCたちは、一斉に頭を垂れた。


私はもう、迷わない。


(今の私に足りないのは情報。だが、《指導者》としての威厳だけは、失うわけにはいかない)


私は、集まった者たちの前に立った。


「ルナ様、一部の者は迷宮の警備任務に就いております。外界の状況については、後ほどバザグチよりご報告いたします」


ドッペル・リーガーが、恭しく報告する。


「分かった。――皆、顔を上げなさい。私を見なさい」


命令と同時に、全員が視線を向けた。


「まずは、集まってくれたことに感謝するわ。しかし……創設者たちの消失は、迷宮にとって重大な問題よ」


「我々は、ルナ・フォルカ様の命に従います!」


「ええ、頼もしいわ」


私は一歩前に出る。


「《三日月迷宮》が生まれた目的は、ただ一つ。それは、私と六人の最強の魔女たちが決めた“絶対の意志”」


静寂が訪れる。そして――私は宣言した。


「この世界を、《三日月迷宮》に捧げなさい。この世界のすべては――《三日月迷宮》のものよ!」


ざわめきが、歓喜へと変わる。


「世界を……ルナ様へ!?」


「素晴らしい!最後の指導者にこそ、相応しい目的だ!」


「感動いたしました、ルナ様!この世界は、あなたのものです!」


私はその光景を、静かに見つめた。


――そう。《三日月迷宮》は、最強となるために存在する。


そして今。アルヴァシア・ファンタジーの世界征服は、ここから始まる。

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