第6話

Aランクダンジョン攻略から一週間。零の名は、もはや学校内に留まらなかった。


地域の冒険者ギルドでも話題になり、プロの冒険者たちが零のパーティーに注目し始めている。


しかし零自身は、相変わらず放課後の武器部室に籠もり、装備の強化に没頭していた。


「零、また徹夜?」


扉が開き、香織が心配そうに入ってくる。零の目の下には、クマができていた。


「もうすぐ完成する」

「無理しないでよ。あなたが倒れたら、私たちが困るんだから」

「大丈夫だ」


零は作業を続ける。深海の宝玉を砕き、魔力を込めて香織の杖に埋め込んでいく。


「綺麗...」


香織は零の作業を見守る。その真剣な横顔に、胸が高鳴る。


「零」

「何だ」

「あなた、なんでそこまで私たちのために頑張るの?」


零の手が止まる。しばらく沈黙した後、ゆっくりと答える。


「お前たちは、俺を信頼してくれた」

「それだけ?」

「俺は今まで、誰からも認められなかった。無能と呼ばれ、見下され続けた」


零の声が少し震える。


「でもお前たちは違った。俺を信じて、一緒に戦ってくれた」

「零...」

「だから、俺もお前たちを最高の武器で守りたい。それだけだ」


香織は零の背中を見つめる。その背中は、とても孤独に見えた。


「私たちは...家族みたいなものよ」


零が振り向く。香織は少し照れながら続ける。


「だから、あなたも無理しないで。一人で抱え込まないで」

「...ありがとう」


零が小さく微笑む。香織は胸が一杯になった。


その時、部屋の空気が変わった。


「貧乏臭い家族ごっこね」


冷たい声。扉の前に、見知らぬ少女が立っていた。


金髪の長い髪、鋭い目つき。そして、腰には二本の短剣。


「誰...?」


香織が警戒する。少女は部屋に入り、零を見つめる。


「あなたが神代零? 噂の武器職人」

「そうだが」

「ふーん。想像してたより、冴えない顔してるわね」


少女の挑発に、香織が怒る。


「何よ、あなた」

「私? 私は桐生楓の知り合いよ」

「楓の?」


その時、楓が息を切らして部屋に飛び込んできた。


「零様! すみません、この子が...」

「楓、知り合い?」

「はい...幼馴染で...」


楓は申し訳なさそうに頭を下げる。少女は楓を見て、鼻で笑う。


「楓、あんた本当にこんな奴らのパーティーに入ったの?」

「リサ...やめて...」

「貧乏人の楓が、金持ちの仲間入りってわけ? 笑えるわ」


リサと呼ばれた少女の言葉に、楓は俯く。香織が前に出る。


「楓を馬鹿にするな」

「あら、怖い。でも事実でしょ? 楓は貧乏で、まともな装備も買えなかった負け犬よ」

「リサ!」


楓が叫ぶ。しかしリサは止まらない。


「その負け犬が、たまたま良い武器をもらって調子に乗ってるだけ。本当の実力なんてない」

「違う!」


楓が反論しようとすると、零が口を開く。


「で、何の用だ」


零の冷たい声に、リサは少し驚く。


「用? 別に。ただ、楓が世話になってるって聞いたから、見に来ただけよ」

「見たなら帰れ」

「冷たいわね。でも、一つだけ聞かせて」


リサは零に近づく。


「あなた、楓に武器を作ったんでしょ? どうして?」

「実力を認めたからだ」

「嘘。楓なんて、実力なんてないわ。私の方がずっと強いのに」


リサの目に、嫉妬の色が見える。零はそれを見抜いた。


「お前、楓に嫉妬してるのか」

「は? 何言ってんの」

「楓が強くなって、お前を置いていった。それが悔しいんだろ」


リサの表情が変わる。図星だった。


「ふざけんな! 私が楓に嫉妬? ありえないから!」

「じゃあ、なぜここに来た」

「それは...」


リサは言葉に詰まる。楓が小さく声をかける。


「リサ...あなたも、零様のパーティーに入らない?」

「は?」

「一緒に戦おう。昔みたいに」

「冗談じゃない。あんたたちと一緒になんて...」


リサは部屋を飛び出していく。楓は悲しそうに見送った。


「すみません、零様...リサがあんなことを...」

「気にするな」

「でも...」

「あいつ、お前のことが好きなんだろ」


楓は驚いて零を見る。


「え...?」

「友達として、な。だから嫉妬してる」

「リサが...」


楓は扉の方を見る。幼馴染の少女。貧乏な自分を、いつも励ましてくれた。


「私、リサを探してきます」

「待て、楓」


零が楓を止める。


「明日、あいつをBランクダンジョンに連れて来い」

「え?」

「実力を見せてやる。お前がどれだけ強くなったか」


零の言葉に、楓は目を輝かせる。


「はい!」


翌日、四人は近隣のBランクダンジョン「岩窟の迷宮」にいた。


そして、渋々ついてきたリサも。


「なんで私がこんな所に...」

「リサ、お願い。見ててほしいの」

「はいはい。どうせ、いいとこ見せたいんでしょ」


リサは腕を組んで立っている。香織と柚葉は、リサを警戒していた。


「じゃあ、行くぞ」


零の合図で、パーティーはダンジョンに突入する。リサは後ろからついていく。


最初の部屋で、岩石ゴーレムが三体現れる。Bランクの中でも硬い敵だ。


「アイスボルト!」


香織の魔法が一体のゴーレムを凍結させる。楓が一閃で切り裂く。


「速い...」


リサが驚く。楓の動きは、以前より遥かに速く、鋭い。


二体目のゴーレムが襲いかかる。楓は冷静に避け、反撃する。ゴーレムの硬い岩肌を、まるで紙のように切断する。


「嘘...あの楓が...」


リサは信じられない顔で見つめる。貧乏で、ボロボロの剣で戦っていた楓が、今や Bランクの敵を軽々と倒している。


三体目のゴーレムには、零が対処する。一閃で粉砕。


戦闘時間、三十秒。


「これが...楓の実力...」


リサは呆然とする。自分が今まで見下していた幼馴染が、自分を遥かに超えていた。


「リサ、見ててくれた?」


楓が笑顔で振り向く。リサは複雑な表情で頷いた。


「ああ...すごかったよ」

「ありがとう。これ、全部零様のおかげなの」


楓は零を見る。その目には、尊敬と感謝が溢れていた。


「零様が作ってくれた剣があるから、私は強くなれた」

「...そう」


リサは零を見る。噂の武器職人。こいつが、楓を変えたのか。


中ボス部屋に到着する。巨大な岩石の魔獣、ロックベアが待ち構えていた。


「楓、お前がメインで戦え」

「はい!」


楓が前に出る。ロックベアが咆哮を上げ、襲いかかる。


楓は冷静に避け、反撃する。剣がロックベアの硬い皮膚を切り裂く。


「アイスバインド!」


香織の魔法がロックベアの足を凍結させる。楓がその隙に連続攻撃を叩き込む。


「ホーリーブレス!」


柚葉の回復魔法が楓を包む。楓の動きがさらに速くなる。


そして──楓の剣が、ロックベアの首を切断した。


ロックベアが倒れ、消滅する。


「やった...」


楓が剣を鞘に収める。リサは完全に言葉を失っていた。


「楓...お前...」

「どう? 私、強くなったでしょ?」


楓の笑顔に、リサは何も言えなくなる。そして──涙が溢れてきた。


「ずるいよ...」

「リサ?」

「ずるいよ、楓...私を置いていくなんて...」


リサは地面に座り込み、泣き始める。楓は慌てて駆け寄る。


「リサ...」

「私も...私も強くなりたかった...でも、お金がなくて...良い装備が買えなくて...」


リサの告白に、全員が静かに聞き入る。


「私、楓と同じだったの...貧乏で、誰からも相手にされなくて...」

「リサ...知らなかった...」

「言えなかったのよ。楓の前では、強がってたから...」


リサは顔を上げ、零を見る。


「お願い...私にも、武器を作ってくれない?」


零は少し考え、そして頷いた。


「お前の実力は?」

「双剣使い。戦闘力はBランク...だと思う」

「適性は?」

「速度特化型。一撃は弱いけど、手数で勝負するタイプ」


零は腕を組んで考える。双剣使いか。面白い。


「わかった。作ってやる」

「本当!?」


リサの目が輝く。


「ただし、条件がある」

「何でも!」

「お前も、俺たちのパーティーに入れ」


リサは一瞬驚き、そして楓を見る。楓は嬉しそうに頷いた。


「一緒に戦おう、リサ」

「楓...」


リサは涙を流しながら、頷いた。


「ありがとう...」


一週間後、武器部室。


零は完成した双剣を手に、リサを待っていた。


扉が開き、リサが緊張した面持ちで入ってくる。


「できた?」

「ああ」


零が差し出した双剣を見て、リサは息を呑んだ。


黒と銀のコントラストが美しい、流線型の刀身。軽量だが、刃は鋭い。持ち手には速度強化の紋様が刻まれている。


「これ...私の?」

「お前の戦闘スタイルに合わせて作った」


リサは震える手で双剣を握る。その瞬間、剣が淡く光り、リサの身体に力が流れ込む。


「軽い...そして、速い...」


今まで使っていた安物の剣とは、次元が違う。


「外で試してみろ」


訓練場で、リサは標的に向かって双剣を振るう。


その速度は、目にも止まらない。一瞬で十連撃を叩き込み、標的を粉砕する。


「すごい...これが、私の本当の力...」


リサは涙を流す。零が隣に来て、言った。


「お前の実力は、本物だ。装備がなかっただけ」

「ありがとう...本当に、ありがとう...」


リサは零に深く頭を下げる。零は少し照れくさそうに視線を逸らした。


「礼はいい。これから一緒に戦ってくれればそれでいい」

「うん!」


その後の測定で、リサの戦闘力はA+ランクに到達した。


五人のパーティーが完成した瞬間だった。そして、彼女たち全員が、零への特別な感情を抱き始めていることに、零はまだ気づいていなかった。

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2026年1月10日 19:03
2026年1月11日 19:03
2026年1月12日 19:03

戦闘適正Eの俺は誰にも抜けない聖剣のコピーを作ることにした カケガワ @kakegawa

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