第5話

四人パーティーが結成されて二週間。零たちの名前は、学校内だけでなく地域の冒険者ギルドでも話題になっていた。


「見ろよ、あれが神代零のパーティーだ」

「全員、零が作った武器を持ってるんだろ?」

「信じられねえよな。高校生が、あんな高性能な武器を作れるなんて」


廊下を歩くたびに、視線が集まる。以前は蔑みの目だったが、今は尊敬と羨望が混ざった眼差しだ。


しかし零は、その変化を気にも留めていなかった。


「零、今週末はどこに行く?」


昼休み、香織が尋ねる。三人は零を囲んで弁当を食べている。


「Aランクダンジョンに挑もうと思ってる」

「Aランク!?」


楓が驚く。Aランクは上級者向けのダンジョン。学生が挑むには危険すぎる。


「まだ早いんじゃない? 私たち、Bランクを完全攻略したのもつい最近よ」

「準備はできてる。お前らの装備も、十分な性能だ」

「でも...」

「大丈夫です」


柚葉が優しく微笑む。


「零君が行くって言うなら、絶対に大丈夫です」

「柚葉ちゃん、零を信頼しすぎよ」

「だって、零君は完璧ですから」


柚葉の絶対的な信頼に、香織は小さくため息をつく。


「まあ、零がそう言うなら...」

「ありがとう、香織」


零の言葉に、香織は少し頬を赤らめる。


「べ、別に零のためだけじゃないんだから! 私も強くなりたいし!」

「素直じゃないですね」


楓が微笑む。香織は顔を赤くして反論しようとするが、その時──。


「おい、神代」


低い声が聞こえる。振り向くと、三年生の男子が数人立っていた。


リーダー格らしい男は、筋骨隆々の格闘家タイプ。名前は確か、黒崎。学年でも有名な実力者だ。


「何だ」

「お前、調子に乗りすぎじゃねえか?」

「調子?」

「いきなり測定不能とか、ありえねえだろ。何か不正してんじゃねえのか?」


周囲の生徒たちが、ざわめく。黒崎の取り巻きも、挑発的な笑みを浮かべている。


「不正はしてない」

「じゃあ証明しろよ。俺と戦え」

「興味ない」


零が素っ気なく答えると、黒崎の顔が歪む。


「逃げんのか、腰抜け」

「挑発のつもりか? 幼稚だな」

「てめえ...!」


黒崎が零の胸倉を掴もうとすると、零の手がその手首を掴む。


「触るな」


零の声に、冷たい何かが混じる。黒崎は思わず手を引っ込めた。


「零君に手を出さないでください」


柚葉が二人の間に割って入る。その笑顔には、何か危険な雰囲気が漂っていた。


「あ? 誰だよ、お前」

「零君を守る者です」

「は? 何言ってんだ、この女」


黒崎が柚葉を押しのけようとすると、今度は香織が前に出る。


「やめなさい。これ以上騒ぐなら、私が相手するわよ」

「天宮...!」


学年トップの魔法使いが睨みを効かせる。黒崎は躊躇した。


「ちっ...覚えとけよ、神代」


黒崎たちが去っていく。零は小さくため息をついた。


「ごめん、巻き込んで」

「何言ってるの。私たちは仲間でしょ?」

「そうです。零様のためなら、何でもします」

「零君を守るのは当然です」


三人の言葉に、零は少し微笑む。仲間がいる。それは、今まで経験したことのない感覚だった。


「ありがとう」

「照れてる零、可愛い」

「か、可愛くない!」


香織の言葉に、零は顔を赤くする。その様子を見て、三人は笑った。


放課後、零は一人で武器部室にいた。


次のAランクダンジョンに備えて、装備の点検をしている。香織の杖、楓の剣、柚葉の槍。全て問題ない。


しかし零は、まだ不安を感じていた。Aランクの敵は、今まで戦ってきた相手とは格が違う。本当に勝てるのか──。


「零、いる?」


扉が開き、香織が入ってくる。


「どうした」

「一人で悩んでると思って」

「...わかるのか」

「わかるわよ。私たち、もう一ヶ月以上一緒に戦ってるんだから」


香織は零の隣に座る。


「不安なの? Aランクダンジョンのこと」

「...ああ」

「私も正直、不安。でもね」


香織は零を見る。


「あなたがいれば、大丈夫だって信じてる」

「根拠は?」

「あなたは今まで、一度も私たちを危険な目に遭わせなかった。いつも最前線で戦って、私たちを守ってくれた」

「それは...」

「だから信じてる。今回も、あなたが守ってくれるって」


香織の言葉に、零は少し驚く。


「お前、結構甘えてるな」

「え? そ、そんなこと...!」

「でも、悪くない」


零の言葉に、香織は顔を赤くする。


「ば、馬鹿...」

「俺も、お前たちを信頼してる」


零が真っ直ぐ香織を見る。香織は心臓が高鳴るのを感じた。


「だから、一緒に行こう。Aランクダンジョンに」

「...うん」


二人の距離が近づく。香織は目を閉じそうになって──。


「零様!」


扉が勢いよく開き、楓が飛び込んでくる。


「な、何!?」


香織が慌てて離れる。楓は二人の様子を見て、首を傾げた。


「何かありましたか?」

「な、何もないわよ!」

「そうですか? でも、香織さんの顔、赤いですよ」

「気のせいよ!」


香織は慌てて部屋を出ていく。楓は不思議そうに見送った。


「零様、香織さんに何かしましたか?」

「何もしてない」

「本当ですか?」

「本当だ」


零は視線を逸らす。楓は小さく笑った。


「零様も、鈍感ですね」

「何が」

「何でもありません」


週末、零たちは初のAランクダンジョン「地底湖の迷宮」に挑んでいた。


入口から既に、空気が違う。濃密な魔力が渦巻き、暗闇の奥から無数の敵意を感じる。


「ここが...Aランク...」


楓が緊張で声を震わせる。香織も杖を強く握りしめている。


「大丈夫。俺がいる」


零の言葉に、三人は頷く。四人は慎重にダンジョンを進んでいく。


最初の部屋で、巨大な水棲モンスターが襲いかかる。地底湖から飛び出してきた、全長五メートルを超える海蛇。


「アイスランス!」


香織の魔法が海蛇に命中するが、分厚い鱗に阻まれる。


「硬い...!」


楓が斬りかかるが、同様に弾かれる。海蛇が反撃し、楓を吹き飛ばす。


「楓!」


柚葉が回復魔法をかける。しかし海蛇の連続攻撃に、回復が追いつかない。


「下がってろ」


零が前に出る。複製カリバーンを抜き、海蛇と対峙する。


海蛇が牙を剥いて襲いかかる。零は冷静にその動きを見切り、剣を一閃。


海蛇の胴体が真っ二つに切断される。


「一撃...」


三人が呆然とする中、零は次の部屋へと進む。


「行くぞ」

「は、はい!」


次々と現れるAランクのモンスターを、零は軽々と倒していく。香織たちは零の戦い方を見ながら、徐々に連携を学んでいった。


「香織、氷で足を止めろ。楓、その隙に斬れ。柚葉、回復のタイミングを見計らえ」


零の的確な指示で、パーティーの連携が磨かれていく。最初はバラバラだった動きが、次第に一つにまとまっていく。


中ボス部屋に到着する。そこには、巨大な水竜が待ち構えていた。


「水竜...Aランクのボス級...」


香織が息を呑む。今まで戦った中で、最強の相手だ。


「作戦を立てる。香織は氷魔法で水竜の動きを封じろ。楓は俺と一緒に攻撃。柚葉は後方で回復に専念」

「わかったわ」

「了解です」

「はい」


水竜が咆哮を上げ、戦闘が始まる。


「アイスバインド!」


香織の魔法が水竜の足を凍結させる。動きが止まった隙に、零と楓が同時に斬りかかる。


二人の剣が水竜の鱗を切り裂く。水竜が悲鳴を上げ、暴れる。


「もう一度!」


香織が追撃の魔法を放つ。水竜の動きがさらに鈍る。零が跳躍し、水竜の首に剣を叩き込む。


水竜が倒れ、消滅する。


静寂。


四人は荒い息を整えながら、互いを見る。そして──笑った。


「やった...」

「勝った...!」

「私たち、Aランクのボスを倒したんですね...!」


三人が喜びを爆発させる中、零は小さく微笑む。


「お前たちの連携が良かった」

「零のおかげよ」

「零様の指示が的確だったからです」

「零君がいなければ、勝てませんでした」


三人の言葉に、零は少し照れる。


「次の部屋に行くぞ。まだ最深部がある」


戦闘後、零は水竜から大量の魔石と素材を回収する。これだけあれば、さらに武器を強化できる。


最深部に到達すると、そこには宝箱が置かれていた。


「レアアイテムだ」


零が宝箱を開けると、中には美しい青い宝石が入っていた。


「深海の宝玉...水属性の最高級素材...」


香織が驚愕する。これは市場に出回らない、超希少素材だ。


「これで、お前たちの武器をさらに強化できる」

「本当に!?」

「ああ。特に香織の杖は、氷属性だからこれと相性がいい」


香織は嬉しそうに宝玉を見つめる。


「ありがとう、零」

「まだ何もしてない」

「いいえ。零はいつも、私たちのことを考えてくれてる」


香織の言葉に、楓と柚葉も頷く。


「私も、零様には感謝してます」

「私も、零君には全てを捧げます」


三人の眼差しに、零は少し照れくさそうに視線を逸らす。


「帰るぞ」


ダンジョンを出ると、夕日が眩しかった。四人は疲れ果てていたが、達成感に満ちていた。


「私たち、もう立派なAランク冒険者ね」

「まだまだです。これからもっと強くならないと」

「そうですね。零君のために、もっと強くなりたいです」


三人が話す中、零は空を見上げる。


Aランクダンジョンを攻略した。しかし、これで満足するわけにはいかない。もっと上を目指さなければ。


「次は...Sランクか」


零の呟きに、三人が驚いて振り向く。


「Sランク!?」

「まだ早い気もしますが...」

「零君がそう言うなら、私は従います」


零は三人を見る。信頼してくれる仲間たち。彼女たちと一緒なら、どこまでも行ける気がした。


「まだ先の話だ。今は、お前たちの装備を強化する」

「楽しみね」

「零様の武器、最高です」

「零君の手作りなら、何でも嬉しいです」


四人の影が、夕日に長く伸びる。


最強のパーティーは、さらなる高みへと歩み始めた。そして学校中が、彼らの名前を語り始めるのだった。

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